第四話「剣術の重要性」


「じゃあ早速、精霊に頼んで魔力を作ってもらってみて。属性はなんでもいいから」


 シリウスは対象を自分の一番近くにいた赤い光――炎の精霊に決め、先ほどギルバートにならったばかりの言葉を少し自分風にアレンジして放つ。


「……燃え盛る炎の精霊よ、僕を主と認めてくれるのならその力を貸してくれ、魔力創造ファーレ!」


 シリウスがそう唱えた途端その場にいた炎の精霊だけでなく、エトワール家の屋敷にいる全てのそれがシリウスのもとに集まり一斉にマナを火の魔力に変え始めた。


 その膨大な量の魔力を受け取ったシリウスはその体の所々に大きな変化が見られた。


 万人を魅了するその純白の髪は姿を消し、今は燃えるような赤色に染まり、もともと朱かったその瞳はさらに色を増して深紅に染まり瞳の奥がメラメラと燃えている。


 そして自らの体から溢れ出した火の魔力に全身を包まれたその姿はさながら炎の化身のようであった。


 そんなシリウスを見てギルバートが目を丸くしながら言う。


「確かに魔力の属性に沿って見た目が変化するのは魔力量が多い人だとよくあることだけど、魔力が多すぎて体から漏れてるというのは初めて見たよ……大丈夫なのかい?」

 

「はい。……というか逆に体が嘘みたいに軽いです。それに何だか力がものすごく上がってるような気がします」


 シリウスがその場でぴょんぴょん跳ねながら答えた。


「ああ、それは魔力が体内にあると細胞を活性化させて身体能力が魔力の量にもよるけど大幅に向上するからね。でもその状態だと魔力の消費量が激しくてすぐに魔力切れを起こすから普段は出力を抑えて必要な時だけ使うようにするんだ。精霊にも一日に作れる魔力の量に限界があるから。……と言っても君はただでさえ好かれている精霊の数がとんでもなく多い上に、全属性に適性があるからたとえ火の魔力をその日の分使いきっても別の属性の精霊に作ってもらえるから正直魔力切れとは無縁だけどね。まあ制御できた方が良いことには変わりないさ」


 と、ギルバートが長ったらしく説明をしている間にシリウスは黙々と身体強化の制御を自分なりに試していたようで、今となってはその身から迸っていた魔力もある程度落ち着いていた。


「……僕まだやり方教えてないんだけど……」


 ギルバートが少しうなだれた様子で言うと、


「何となくですけどこの子達が教えてくれるんです。こうした方がいいよって。

……あ、でも先生の話を聞いてなかったわけじゃないですよ。ちゃんと聞いてました。ほんとです」


 慌ててシリウスが弁明する。


「いやまあ優秀なことに越したことはないからいいんだけどね。初日でここまで行くとは思ってなかったけど一応剣は持ってきてるから庭に出てちょっと僕と打ち合ってみようか。身体強化を使っての運動も慣れないといけないしね」


 シリウスは早く身体強化を使って思いっきり動いてみたかったようでうずうずしているところにその言葉を聞いて大喜びだった。


「やった! いきましょう! 早くいきましょう!」


「ああ、ただその前になぜ魔法があるのに剣術をやる必要があるのかについて考えてみなさい。普通に考えたら人と戦う時も魔物と戦う時も距離をとって安全圏から魔法を使って倒すのが一番だからね。だけど精霊騎士団に所属しているメンバーや上位の冒険者であっても、いやそういう人たちこそ剣術の修業は絶対に怠らない。何故かわかるかい?」


 シリウスは少し悩んだそぶりを見せたのちすぐに答えを出した。


「えっと、さっきの身体強化を制御する理由と一緒で魔力切れを起こさないためだと思います。魔法を使うより制御した身体強化を使う方が遥かに魔力の消費量は低いはずですので」


「ふむ、確かにそういった一面もある。実際、精霊に大した量の魔力を作ってもらえない人たちは燃費の悪い魔法ではなく身体強化を使った接近戦を軸として戦う。低位の冒険者たちはほとんどこれにあたるね。でもそれじゃあ君が剣術を学ぶのはなんでだい? 君の場合は特殊だけど僕だってそんなに無茶しなきゃ魔力切れなんて滅多に起こさないけど剣術の修業は欠かさないよ」


 そう返されたシリウスは確かにそうだ、と呟いてから今度はうんうんと眉間に皺を寄せて考えていたが結局答えはわからなかったようで泣きそうな表情をして言った。


「……ごめんなさい、わかりません」


「なんでそんなに深刻そうな表情をしてるのかわからないけど、実際の戦闘を経験したことがない君がわかるはずもないことだから気にしなくていいよ。というかただの意地悪問題だ。何かを学ぶ上で目的を明確にするのは大事だからね。ちゃんと意識してほしかっただけさ。それでさっきの答えだけど、魔法は相手がその属性の魔力を持っていた場合大幅に威力が落ちるという弱点があるからだ。例えば、僕が火属性魔法をヘルハウンドに放ちそれが直撃したとしてもヘルハウンドは火の魔力を持った魔物だからほとんどダメージを与えられないということだ。それは相手が人間の場合も同じで火の適性者同士で魔法を撃ち合ってもよほど魔力量に差がない限り決定打にはなりえない。そこで役に立つのが身体強化を使った剣術というわけだ。相手が同一属性の魔力持ちであっても関係なく致命傷を与えられるからね。精霊騎士団や冒険者をやっていると同一属性の相手との戦闘は避けられないから剣術の腕はどれだけ魔力が多くても大事というわけだ」


 シリウスに限っては全属性に適性があるので魔力の属性を変えればいいだけの話だが、近接戦闘を余儀なくされた場合などに剣術はどうしても必要になってくる。


「さあ、剣術の必要性がわかったところで今度こそ庭に行こうか」


「はい!」


 


 








 





 


 



 

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容姿が価値を決める世界で醜い俺は(仮) miu @miu1012

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