アーサーと朝倉真由美の物語

 小説「ネオテニー」では大学生だった里中裕人がアラサーの社会人になってからの物語で、御本人のツイートによれば、割と最近、里中裕人のモデルとなった人物を取材し、そのときに聞いた話が元ネタのようです。

 学生時代は真面目でトーク上手だけど、ちょっと優柔不断という性格だった里中裕人が、いきなりヒモ男の片棒担ぎをしていたので、いくら年月が流れたとはいえ、このキャラ変はどうよ?と戸惑ったし、ヒモ男であるアーサーも癇に障り、申し訳ないけど冒頭部は、すんなりと文章が入ってこず。

 中盤から、ようやく著者独特の表現とリズム(と私は思っている)が出てきて、どうも書きたかったのは、この辺からで、そのための前振りだったのかな?などと勘繰ったり。

 特に後半部のヒロインとも言うべき朝倉真由美に関しては、短い文章で性格や生き方まで想像できるので、個人的には、よく書けていると感心しました。

 別れた香港人の恋人ケイトとの再会について、最後まで「ノー」とも「イエス」とも言わないところは里中裕人ですが、彼のファンとしては、一言欲しかったです(読者の我儘な意見でございます)

 読み終えて全体を見れば、本業が文章書きの著者らしく、うまく書かれていますが、きっと聞いた話は、もっと面白かったんだろなと想像します。今後のクエント・シリーズの展開に期待したいと思います。