第33話 真弓の練習
真弓は考えた。皆が自分のために尽力してくれている。だったら自分は何をするべきだろうか?
もちろん、皆がすべて真弓のためにやっているわけではないにしても、真弓に直接メリットがあることをやってくれているのは確かだ。
(お礼…といってもまだまだ続くし、何をあげたらいいのかもわからない。それにみんなにあげてたら破産しちゃうよね。)
もっともである。
(やっぱり今は、年末のライブに向けて練習するのが一番ね。本番で失敗したら、それこそみんなに迷惑かけちゃう。)
火曜日と木曜日は合唱部と練習だ。
それ以外の日はどうしよう…
ピアノのある音楽室は使えないし…空き教室でやろうかな。どうせピアノがないなら、どこでやってもいい。音源はスマホがあるんだから。
…であれば、外でもいいよね。大きな声を出す練習にもならうし。
あまり目立つと恥ずかしいから、校舎裏でやろうかな。
あそこに来るのは、告白するカップルくらいだからね。
…カップルさんごめんなさい。でも私も相手いないんだから、許して!
それから真弓は、月曜水曜金曜と「癒しと元気研究会」の会合があっても無くても校舎裏で練習をするようになった。スマホをイヤホンで聞きながら歌うだけだ。
どうせ誰も聞いていない。そう思って大きな声て、自分で振付しながらオリジナル曲を歌っている。「グローリア」は合唱部と練習したほうがいいが、他の曲は一人でもいい。
二週間もすると、真弓の練習に気だ付いた他の生徒が観客になりはじめた。その数が一人増え、二人増えていつの間にか毎日二桁が観客になっていた。そして、音源はタブレットを使って大きな音を出して観客にも聞こえるよにした。イントロが始まると皆が手拍子をする。
ある日の「癒しと元気研究会」の会合で、部長の尾中孝直が切り出した。
「真弓さん、苦情が来ています。」
寝耳に水だ。
「え_なんのこと?」
孝直は言う。
「真弓さん、校舎裏で練習していますよね。」
「うん、してるけど。」
「観客も結構いますよね。」
「うん、10人くらい入れ替わりで来てくれてるかな。」
孝直はちょっと深刻そうな顔をした。
「あのですね。うちの校舎裏は、有名な告白スポットなんです。ご存じですか?」
「まあ、知ってるけど。」それが何だと言うのだろう。
「秋は告白のシーズンなんです。」
孝直が言う。意味がわからない。
「え?どういうこと?だから?」
真弓は戸惑った。
「秋のうちに告白してカップルになって、クリスマスを楽しく迎えよう、っていう男女がたくさんいるんですよ。 秋はだいたい順番待ちになるんです。一日4-5組の告白があるのもざらです。」
そこまでとは知らなかった真弓は、素直に驚いた。
「え、そうなの?」
「そうなんです。そんな時に、週に3日もあの場所を占有したら、告白できない、ってクレームが来るんですよ。」
そうだったのか。真弓は知らなかった。 そういえば、ここ数日、何となく敵意のこもった視線が男子からも女子からも来ているような気がした。
気のせいだと思っていたが、事実だったらしい。
そんなつもりはなかったのに、ナチュラルに敵を作ってしまったのか。
「わかった。売校舎裏での練習はやめる。」
真弓は言った。
「そうしてくれると助かります。 練習は、違うところでやってください」。 たとえば、体育館脇あたりがいいと思います。あそこならベンチもあるし。」
ベンチが必要かどうかはわからないが、そのアドバイずに従うことにした。
その日から、真弓の練習は校舎裏から体育館横に変わった。 その後、校内のカップルが増えたかどうかは、真弓の知ったことではない。ただ、星野志保もなぜか恨めしそうな顔をしていたのには気づいた真弓だった。
体育館横で練習を始めると、観客はさらに増えた。男子だけでなく女子も結構いる。そのうちに、観客から自然に手拍子だけでなく合いの手のコールがかかるようになった。
合いの手は人によってばらばらだ。その話を聞いた部長の孝直は、音楽プロデューサーの岡谷と相談し、各曲のオフィシャルコール動画を作ることにした。
もとの曲さえまだ正式な動画を作っていなかったのに、コールの動画とは。
結局、真弓の歌った音源をビデオにアップし、画面に字幕だけつけることにした。映像までは間に合わないからだ。
歌詞とコールの言葉が並んだ動画ができると、すぐに動画サイトにアップし、観客にはそのサイトのQRコードを配布した。 効果はてきめんで、 一週間のうちにコールが統一され、観客が盛り上がり始めることになtった。
真弓は、自分の歌がどんどんみんなを盛り上げていくことに喜びを感じていた。
(やっぱり、私は歌が好き。みんなを笑顔にする歌がいい。)
実は先日、真弓は音楽教師の、そして真弓の歌を指導してくれている駒谷珠子先生から言われたのだ。
「真弓さん、あなポップス歌謡曲と声楽、どちらを中心にやりたいのですか?ボイストレー^ニングで基本的なところは同じだけれど、声楽の歌い方と歌謡曲の歌い方は当然違います。練習方法だって違う。
どちらが上とかそういうのはないけど、真弓さんはどっちを主力にするのかは決めてくださいね。」
そのときの答えは保留したが、今日結論が出た。
自分は一般的な歌謡曲で皆を笑顔にしたい、と。
アイドルになることが夢ではないけれど、みんなの笑顔をや盛り上がりを見るのが楽しいし、これを続けたい。 もしかしたら天職かもしれない。
こうして、アイドル・白石真弓コンセプトが固まってくる。
頑張れ真弓!この話は、君が主人公だ”! 作者の怠慢という困難を乗り越えて、輝く星になれ!
ーーー
真弓「私、これからも頑張って、主役に相応しい働きしますから!」
左右田麗奈「そうですね。岡谷孝雄さんよりは目立たないでくださいね”」:
孝雄「ふっ 参ったな…」(髪をかきあげる。)
真弓「だ~か~ら~ 私が主役なのっ」
クラスで5番目以下の残念少女が学園のアイドルになってしまった? 元当て馬、白石真弓の覚醒 愛田 猛 @takaida1
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。クラスで5番目以下の残念少女が学園のアイドルになってしまった? 元当て馬、白石真弓の覚醒の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
愛田猛のランダムウォーク/愛田 猛
★3 エッセイ・ノンフィクション 連載中 8話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます