せっかくいい感じになった展開を台無しにする快感に目覚めるファンタジー

金木犀(๑'ᴗ'๑)

――せっかく良い感じになった展開を全て台無しにしてしまう男の物語




 その男、全てを台無しにする。



「……アルティマ!」

 発動した究極魔法が、今まさに仲間に向かって斧を振り下ろそうとした魔王に直撃した。

「貴様、生きていたのか! まさかファントムは負けたのか!?」

 壁や天井が崩れ落ちた王の間から、黒い肌に水牛の巨大な角を生やした魔王が端正な顔を歪め、塔の上にいるぼくを見上げた。

 魔王四天王最強と言われたファントムは、さすがに苦戦した。

 四肢がちぎれそうになるほどの力を振り絞って勝利をおさめ、防具などが壊れ至る所から血を垂れ流し、上半身裸の姿になりながら駆けてきたところだった。

「レオ! なにしてたんだよ、ボク、もう少しで死にそうだったんだよーレオ」

「勇者様! 本当に、勇者様なのですね!」

 幼馴染の忍者、シノブはほっとした顔を浮かべている。

 王女ダイアナは両手を握り合わせその瞳から大粒の涙を流していた。

「レオン、お前との約束通り、この二人はちゃんと守ったからな! あとは任せたぜ」

 その二人を両腕に抱いて守っているのが、聖戦士ブローディだ。熊のような大柄の図体をしたブローディが朗らかにぼくに向け親指を立てている。

「さすがはレオンなの。おいしいところを全部かっさらっちゃうすごいやつなの」

「……うむ」

 白いひげを生やした賢者ジーニアスとダイナマイトボディな魔術使いフレアも、無事なようだ。

 ぼくは口の片端を上げ、最後のエリクサーを呷る。

 アルティマは、その魔法に僅か触れたとてドラゴンさえ塵と化すほどの威力だが、さすが魔王である。まともに当たっても数十メートルぶっ飛ばしただけで、無傷なようだ。

 首に掛けていた鎖を外し、腕を回して左手に巻きつけた。鎖に繋がれた十字架と光り輝く珠を握りしめ、瓶を放り捨てた右手で腰の剣を抜く。

「ファントムは、ぼくが倒した。終わりにしよう魔王!」

「笑止!」

 飛び降りた瞬間を狙い、魔王は閃光爆裂魔法を無詠唱で放ってきた。

 だが、魔法が飛び降りた地点で大爆発したときには、すでにぼくは魔王の真横に回り込んでいる。直線的に飛び込んだと見せかけ、油断を誘ったのだ。

 生まれた隙。逃がさない。

 懐へと踏み込み、一閃した。

「ぬぐあああああ」

 真っ黒な血しぶきがあがった。魔王の体内の内臓を切り裂く確かな手ごたえ。

 さらに追撃を加えようとして――返ってきた斧を歯を食いしばって受け止める。重い一撃に足がめり込み、床が抜けた。神剣でなければ体まで真っ二つだったろう。

「脆弱な虫けら如きが魔王に刃向かうなど!」

 落下しながら、互いに崩れ落ちる瓦礫を足場にし、何度も交差して肉薄する。

 不意に放ってきた爆裂魔法をレジスト、お返しに閃光魔法をお見舞いした。

「ふん!」

 が、魔王は斧で魔法を掻き消した。

「ファントムの方が魔法は上か?」

「認めよう。しかし、我にはこの斧がある!」

 魔法を放ち合い、剣戟を交わしながらも、魔王の半分に切り裂けた胴体はしゅうと音を立てながら瞬く間に修復されていく。

「申し訳ないけど、使わせてもらうよ」

「それは我が魔族の秘宝光の珠! 貴様が持っていたのか、返せええ」

 掌に握りしめた輝く珠の力を解放する。

 尋常じゃないほど向上した身体能力を使い瞬間的に加速。鋭角に移動し、魔王の後ろから斬りつけた。

 野太い絶叫を上げながら、魔王はどしんと地面に墜落する。瓦礫がその上に落ち、魔王を埋めた。

 勿論、あれで魔王は倒れるはずがない。着地と同時に、ぼくは鞘に剣を納めた。

 ふうと、息をつき、目をつむって集中する。神剣に、ありったけの魔力と光の珠のエネルギーを注ぎ込む。

「魔王、決着だ!」

「まだまだあ!」

 鞘から刃を抜き放つと同時に、背中に血を垂れ流した魔王は瓦礫を吹き飛ばし、真っ黒い闇の珠から注がれたエネルギーを斧に込めて斬りこんできた。

 闇の珠と光の珠のエネルギーが互いにぶつかり、バチバチと音を立てる。

 せめぎ合いだ。

「貴様……これほどの力をどうやって。光の珠をそこまで使いこなせる人間など聞いたことがない。いずれも発狂して自滅する。魔族の中でも、意志や力が伴わないものは力を引き出すことなく、珠に食われて死ぬ。だというのに、貴様は!」

「なぜ、だって……?」

 変わらず力を注ぎながら、こらえ切れなくなった。声を出して笑い続けてしまう。

「なにがおかしい」

「悪い。僕が、強いとしたら。それは仲間のおかげだ」

 ぼくは、心配そうな顔でこちらを見おろしている仲間たちを改めて見た。

「へへ、レオ。言ってくれるじゃん」

「勇者様! 終わったら、私と結婚してくださいね!」

「ダメだよ。レオはボクと結婚するんだい」

「おいおい、妬けるなあ」

「レオン、モテモテなの」

「うらやましいのう」

 みな一様に怪我を負っている。満身創痍だ。

「仲間? 絆の、愛の力、ということか! そんなもので、ここまで強くなるなど! まこと、人間とは、度し難い生き物よ!」

 魔王の目に、感嘆の感情がうかがえた。

 が、ぼくはギリリと歯を食いしばりながら心の中で笑った。

 愛?

 馬鹿らしい。とんだ勘違いだ。違う。

 僕を強くしたのは。


 憎しみだ!


 ぼくは知っているのだ。

 心配そうにこちらを見ている彼ら彼女が、実はぼくを裏切っていたことに!

 今もこんな戦いの決着間際だというのに、ブローディの両手はダイアナとシノブの胸を揉みしだいているのはわかっている。こんな戦いの最中に、彼らは火が付いたように盛っていた。こんな世界の結末が決まる戦いの最中にぼくを裏切っていることに興奮しているのだ。

 ジーニアスもギャンブル依存症が高じて借金を作り、魔族にぼくたちの情報を売っていた。

 フレアは実は魔族で、ジーニアスの監視役兼、勇者パーティを内輪もめさせ解散させる役割を果たしていた。

 冒険の途中で、彼ら彼女が裏切っていることは知ったぼくは、深く絶望した。

 なにせ、ぼくは彼らを深く信頼していた。信頼していたからこそ、苦しんだ。焼石を絶えず心に焼き付けられているような苦しみを味わったのだ。

 何度、もうパーティを解散しようと思ったことか。


 だが、ぼくは解散しなかった。

 なぜならぼくは、彼らが好きだったから。

 彼らにも理由があるんじゃないかという考えがちらついたのだ。

 でなければすぐにでも、彼らと決別していただろう。

 一緒に居ればいるほど、発狂して裏切者を殺してやろうという激情は溜まっていく。ならば解散した方が良いとは思っていた。が、ぼくはそれ以上に彼らと築いてきた日常を愛していたのだ。

 彼らをできれば信じたかった。

 彼らの事情を知ったうえで、どうしようか決めようと思った。


 シノブは幼馴染であるぼくにずっと片思いをしていたらしい。好きなのに、ぼくは修行ばかりで、ちっとも思いに気づいてくれない。そこで突然現れた高位の存在であるダイアナがぼくに向けてきたアプローチを見て心が砕けた。飲んだくれ、フレアに媚薬を飲まされ、我を失ったシノブに迫られブローディが抱いた、という経緯のようだ。

 ぼくはそれを行為が及ぶベッドの下で知った。

 ダイアナは、王女としての責任感に押しつぶされそうになっていた。早く世界を平和にしなければいけないという重荷は絶えずその両肩に重くのしかかっていた。そんな重荷を軽くしていたのはほかならぬぼくだったが、ある日、耐えきれず抱き着いてキスしようとしてきたことがあった。ぼくはそのとき、恥ずかしがってやんわりと断ったつもりだったのだが、それを彼女は拒否と受け取ったようなのだ。

 結果、酔いつぶれたところをフレアに媚薬を飲まされ、またもや介抱していたブローディと事に及んだようだ。

 勿論これも、行為が激しく行われている最中、クローゼットの向こうに隠れて知った。

 さらに悪いことに、媚薬は中毒性があるものだった。行為に及んだ相手に依存するよう仕向ける作用があった。結果、シノブもフレアも本心からぼくを好きなのに、ブローディに抱かれないといられない身体になってしまっていたのだ。

 ぼくは、絶望した。

 絶望と同時に、ぼくは性癖に目覚めていた。

 すなわち、寝取られの性癖である。

 しかし断じて勘違いするなかれ!

 寝取られというのは、望んでなる性癖ではない。相手を愛しているからこそ、行き場のない感情が、どうしようもない衝動に突き動かされた愛が、歪んで生まれる衝動なのだ。

 決して彼女たちが抱かれることを許しているわけではなく、かえって憎しみはたまっていく。しかし彼女たちを愛したいがゆえに、許したいと願い弱い心が、彼女たちとブローディが及ぶ行為を見るよう強要するのである。

 それはとんでもない屈辱であった。

 が、なぜかそれを見ることをやめることができない。要するにぼくも中毒になってしまったのだ。

 そして同時にぼくは気づいてしまった。

 彼女たちもまた今のぼくのような気持ちで、苦しみながら抱かれていることに。


 それに気づいた瞬間、憎しみは、彼女たちではなく、ブローディに向いた。

 が、ブローディもまた苦しんでいた。

 なぜならブローディもまた、ぼくのことが好きだったのだ。

 友達としての意味じゃない。シノブやダイアナと同じ、恋人にしたいという欲求が、ブローディを長年苦しめていたことをぼくは知ってしまった。それをフレアは利用した。そう、ブローディもまたフレアの媚薬の被害者だったのだ。

 

 フレアがすべての元凶だ。ぼくは彼女を殺そうと思った。

 彼女の家に行き、ドアを開け、その胴体を引き裂こうと決意した。

 が、ドアを開けた瞬間、彼女はジーニアスに抱きとめられているではないか。

 抱かれながらすべての罪をジーニアスに打ち明けている最中だったのだ。

 ぼくらと旅するうちに、彼女の内には確かな絆が芽生えていた。

 ジーニアスはそんな彼女の本心を見抜き、共犯者として、彼女と一緒に罰してくれとぼくに願い出たのである。


――ぼくは許した。

 なぜなら、彼女たちが好きだったから。

 すべてを飲み込み、僕は旅の最後まで彼らと一緒に居ることを選んだ。


 しかし、それが地獄の始まりだ。

 許したとはいえ、怒りは地獄の業火のように盛っていた。

 一度芽生えた憎しみや怒りは、彼らと接するたび蓄積していく。

 しかし、すべての事情を知ったぼくは、決してそれを彼らに向けることは望まなかった。

 だからぼくは、今すぐにでもすべてを暴露したい、台無しにしてやりたいという気持ちの狭間、葛藤し、我慢し、ひたすら修行に打ち込み、ある晩は彼らが行為を行っている最中に潜り込み息をひそめそれを観察し、また修業し、そして彼らが行っている行為をつぶさに観察する……。


 こうして、ぼくは強くなったのである。

 絶えず、全てを台無しにしてやりたいという選択肢がちらつき、それに我慢して今があった。

 そう、愛していたからこそ、彼らにたいする怒りや憎しみは百倍にも千倍にもなる。

 そんな怒りや憎しみを糧にして、今、ぼくは、魔王に対峙していた。


「魔王!!」

「勇者!」


 さらに力を込めようとしたとき、矯声が上がった。

「ゆ。勇者さま、あん」

「れ、レオ、あ、ああああ!」

 ビクンビクンと、二人が、脱力してブローティにしだれかかっている姿が見える。

 ああ、台無しにしてやりたい! と僕は思った。

 なんだ。なんなんだこの状況は。なんでこんなことになった。

 仮にこれで魔王を倒しても、世界は平和になるわけじゃない。魔王という脅威を失った人間は、人間同士の利権を争ってまた諍いを起こすだろう。戦争は人間の業だ。

 ぼくは、それを知りながら、なぜ戦うのだろうか。

 もう、いいじゃないか。

 すべてを投げ出して、もう、あいつらをぶっ殺してやりたい。

 今まさにぼくが全体力を振り絞って死闘をしているときまで、あんな姿を見せる相手のために頑張る必要がどこにあるというのだろう。

 しかし。


「はあはあ」

「勇者、どうした?」

「こ、興奮する!」


 気づいてしまった。ぼくはもう戻れない。

 戻れない身体になってしまった。

 誰よりも変態なのは、ぼくだ。

 そんなぼくが、今さら、彼らを責める……はあはあ責めるってなんて素敵な響きなんだ! って違う!

 彼女たちを責めることなどできるはずがないじゃないか!


 ぼくはかっと目を見開き、十字架を掲げた。


「それは……まさか!」

「そうだ。ここに、ファントムを封印している。お前とファントムは表裏一体。お前を仮にここで殺しても、このファントムがいる限り、お前は再生するんだろう? どちらかが死んでも、また再生する。しかし……同時に殺せば!」

「……なぜそれを……!」

「先ほど斬りつけた傷跡が、再生していないからだよ。最初に斬った傷跡は再生したのに、この十字架にいるファントムにダメージを与えながら同時に斬ると、再生しなかったからな! それで確信した!」

「ぐううう!」

「終わりだ、魔王!!」


 魔王の攻撃を相殺し、ぼくは魔王へと接近した。

 矯声をあげて絶頂に達する彼女たちの絶望的な響きと、それに興奮する自身の変態性、すべてを刃に込める。


 こうして、魔王は断末魔の叫びをあげて、塵と化したのだった。


 

    ★         ★        ★



「勇者よ。よくぞ、成し遂げた」


 魔王を倒し、多くの民衆が見守る広場でぼくらは表彰されることになった。立派なマントと王冠を被った王様が、暖かな目で促してくる。


「光の珠と、闇の珠を、ここに」


 厳かに告げてきた。

 ぼくは、王の前にひざまづき、光の珠と闇の珠を差し出す。

 王様の喉仏が動き、ごくりと生唾を飲むのが分かった。

 このまま何もしなければ、何事もなく終わる。

 今まで我慢したことすべてが、過去のことになる。今はなにも考えるまい。考えるな。考えたら、ぼくはとんでもないことをしてしまいそうだった。だから、何も考えるまいとして――。

 手を震わせ、今まさに王様が珠に触れようとしたとき、ぼくはポロリと口にだしていた。


「王様。一つ、質問させてください」

「うん? 良い、許そう」

「光の珠を、ぼくに貸していただき、感謝の極みにございます。しかしそもそも今回の、魔王の襲来。この光の珠を王が奪ったから起きたことではありませんか?」


 張り上げた声は、広場の民衆へ確かに届いたようだ。さざ波が起き、徐々に喧騒は大きくなっていった。


「……なんだと。貴様、無礼であるぞ! 良いから、はやくそれをよこせ!」

「やはり、そうでしたか。あなたは、この光の珠と闇の珠を合わせるとどんな願いもかなえる珠になることを知っていた。あなたが何を願おうとしているのかは、大体想像がつく。不老不死、そうでしょう?」

「な!」

「そうであるなら、ぼくはこれを、あなたに渡すわけにはまいりません」

「貴様、わかっているのか。今貴様は、私に反逆しているのだぞ! このめでたき日において、民衆の眼前で、公然と私を貶め、全てを台無しにする言動。到底許すことなどできぬ!」


 王は激高し、衛兵を呼び寄せ、ぼくを取り囲ませた。

 しかし魔王を倒すほどの実力を持つ僕を衛兵が相手できるはずもない。

 赤子をひねるかごとく、掛かってきた兵士をぼくは打ちのめした。


「なにをしている! 貴様らもだ! この私を侮辱した罪。万死に値する。殺せ!」

「レオ! なんでこんなことを!」

「ゆ、勇者様!」


 ぼくはなにも言わなかった。


「なにをしている殺せ!」

「できません、なの!」


 フレアは喉が引き裂けるような声を出し、泣き叫んだ。


「ああ、レオン。わたしは、わたしが、あなたを殺すことなんてできるはずないの! わたしだけは、あなたを、いや、あなたの仲間たちを殺すことなどあってはならないの!」

「ええい! 痴れ者どもが!」

 蹲って泣くフレアの無防備な背中に、王は宝剣を突き刺した。

 一瞬の間に行われた蛮行だった。

 ゴホッと、フレアはその口から大量の血を吐きだし、倒れた。

「フレア!」

 ぼくは駆け寄って抱き寄せる。

「ああ、全て、レオンは知っているの。すべて知ったうえで、私たちを許してくれたの。そんなレオンが、どうして! どうしてこんなことに……なの」

「フレア、もういい! もうしゃべるな。今回復魔法を……! なぜ効かない!」

「レオン……お前、まさか、全て知ってるのか! おれたちの罪を」

「そんな……!」

「勇者様知っていらっしゃる……の、ですか」

 ジーニアスは瞑目し、静かにうなずいた。

「ああ、そうだとも。すべてを知ったうえで、我らを」

 自失呆然とした仲間たちの背中に向け、王は次々と剣を突き刺した。

 ああ、とぼくは、狂ったように回復魔法を仲間たちにかける。

 が、魔法は少しも効いている様子はない。フレアの瞳孔はもうすでに開いていた。

「くっくっ、この宝剣はな、どんな不死身の身体でも滅する、メギドの剣なのだ。この剣で切り伏せられたが最後、どんな傷も回復不可能。必ず死ぬのだ!」

「もういい、喋るな」

 回復魔法を掛け続けるぼくに向け、斬りかかった王の胴体を、手刀で真っ二つに斬りさく。

 広場は、突然の事態に混乱し、悲鳴があがっていた。

「あ、あああ! あああああ!」

 唯一生き残ったダイアナは顔をおおい、発狂している。

 ゆらりと、脱力感が支配する身体を無理やり立たせ、ぼくは光の珠と闇の珠を合体させた。

 全能の珠。

 どんな願いもかなえる禁断の秘宝。

 今のぼくはそれを使うことにためらいを覚えなかった。

 願ったのは世界の理を変える力。

 この理不尽な世界を、――世界に――。

 すると全能の珠は願いに応え、ぼくの体に溶け込んだ。


 ぼくは民衆に語り掛ける。


「おまえたちは、生贄だ。古い世界を壊し、新たな世界を築く、生贄として、その身をぼくに捧げよ」

 

 白い光が王都を包んだ。

 その日、百万人が暮らす王都は、その建築物ごと地図の上から消滅した。


――これが、新たなる魔王の誕生として、後世に語り継がれる出来事となる。



 ★           ★          ★



「こらあ、デルタ! 走らないの! 転んじゃうでしょ」

「スバルも! いけません!」

 王都消滅から五年後。

 かつての魔王城。天空に浮かぶ城の街中に人の姿が溢れていた。

「くっくっくっ、なんともまあ、平和なことよなあ!」

「まさか、人と魔人が暮らす世界が到来するとは夢にも思いませんでした、なの」

「違いない」

「まさか、わしまで生き返らせるとはのう。もうじじいだというのに」

 自分の子供を追いかけるシノブとダイアナの姿を見ながら、幽霊のように浮かぶファントムと、魔王やブローディとジーニアス、フレアは机を囲み酒を酌み交わしていたところだった。上等なぶどう酒である。酒量も増える。

「おい」

 かつての王様を呼び寄せ、ジーニアスは言った。

「つまみがたらん。ソーセージを焼いてくれんか」

「は、ただいま」

 今や勤勉な執事となった王様である。すぐにおいしいソーセージを用意して見せた。


 表向きは王都を消滅させたレオンだが、実のところ、王都にいた民全員を復活させ、この魔王城に連れてきていた。しかし、それは内緒である。

 恐怖の魔王として、レオンは今や世界に君臨していた。

 レオンがいるがゆえ、国は国と争う暇などない。もしも目をつけられるような行動をしたそのときは、必ずレオンが国を滅ぼしにやってくる――。

 そう世界に認知させているのだ。


「全く大した男だ」


 魔王は、盃を上げ、今ここにいないレオンに敬意を表すのだった。



 ★            ★           ★



「はーくしょん!!!! くしょん!!!!」

 あー、誰か噂してるな。こんなときに。

「きゃあああああああ覗きよ、覗き!」

「出たああああ、自称魔王の変態野郎!」

 女湯の露天風呂にある岩陰に隠れ、女体をむさぼるように見ているところだった。

 そんなときに大きなくしゃみをすれば、こうなるのも必然である。

「もう、本当にゴミねあんた。死になさい!」

 バコーンと木の桶の厚い底で殴られ、耳を引っ張っられて湯船から追い出されてしまった。

「や、やめ。そんな、ああん!」

 ぼくは、みんなから向けられる虫を見るような目つきにぞくぞくする。

「なにたってんのよ!」

「あ、そこは、あー☆」

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せっかくいい感じになった展開を台無しにする快感に目覚めるファンタジー 金木犀(๑'ᴗ'๑) @amaotohanabira

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