願いが叶う時
翌朝、特に夢も見なかった幸也は、いつもどおり高校に出かけた。
彼は通学路で同級生たちと合流して、適当に雑談をする。これも毎日のことだ。
「よう、コーヤ! 昨日は大変だったなぁ」
「ああ……ボールが当たったこと?」
「他にあるかよ! その様子だと心配ない感じか?」
「病院で診てもらったけど、異常ナシ。でも、しばらく激しい運動は禁止だとさ」
「ほーん、お大事に。ところで、アレ打ったの、
「何ともなかったから、オレは気にしてないけどなぁ」
「はー、大物だねぇ。死んでたかもしれねーってのに」
「まあ、でも、生きてるし? 何ともなかったわけだし」
そんな話をしながら、彼らは学校の正門に近づく。
そこで幸也は同じ学校の制服を着ている、女子生徒の存在に気づいた。彼女は門の横の壁に背を預け、通りすがる生徒たちを見送っている。誰だろうと、幸也は疑問に思った。しかし、彼女の顔には見覚えがある気がする。黒い髪を後ろで束ねた、少し年上に見える女性……。
門の横にいる女子生徒を凝視している幸也を、同級生たちが冷やかす。
「知り合いか?」
「それとも? 一目惚れ?」
幸也は真顔で答える。
「知ってる人かもしれない」
「え?」
彼は小走りで彼女に近づいて、自分から話しかけた。
「あの、マリさん……ですか?」
「いいえ。私はハルって言うんだけど」
ハルと名乗った女子生徒の声は、マリとよく似ていた。だが、「異世界で会った」などと言えるわけもなく、幸也は恥ずかしくなって顔を赤くする。
ハルの制服の襟元にはローマ数字の「Ⅲ」を模ったカフスがついている。三年生。幸也よりも一学年上だ。偶然なのかなと、幸也は人違いだったことを謝ろうとした。
そんな彼に、今度は彼女が話しかける。
「初めまして、タローくん」
ハルの口元には小さな笑みが浮かんでいた。
幸也の口元も緩む。
「いや、オレ……じゃなくて、ボクはコーヤです。海山幸也」
「コーヤくん。それがキミの本当の名前なんだね」
「はい。初めまして、『異世界帰りのマリ』さん」
「ちょっと、それはやめてよ。私は
「はい、ハルさん。会えて良かった」
「私も。また後で、ゆっくり話そうね」
ハルは幸也の後ろにいる同級生たちに目をやると、小走りで校舎へと向かった。
幸也は同級生たちに冷やかされながら、正門を通る。
未来ある若人に幸あれ。
―――― 完 ――――
クダリと神器の物語 @odan
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