本来は読了後にレビューする質なのですが、この作品はもっと多くの方に読まれるべきだと思い、先にレビューをさせていただきました。さて、昨今は現実世界との対比として「異世界ファンタジー」が描かれることが多いですが、本作はそれらとは異なった味わいのある世界観に仕上がっています。言うなれば、土着的な匂いを感じさせてくれます。実際に存在していた、世界のどこかの日常を覗いているような。そんな児童文学や童話みたく、どこか幻想的で心の踊るような物語が魅力的でした。もちろん、それを表現する筆力も逸品級。
また本作は冒険小説という側面もあり、主人公は旅の道中で様々な人物と出会ったり、不可思議な事象と相対することがあります。人間関係においてはそのときだけの場合もあれば、思わぬ場所で再会を果たしたりと。それぞれの短編で話は完結しているものの、そうした関係性は他の話にも引き継がれていたりと、作中の人物たちが生きているかのような錯覚に陥りました。これほど臨場感のある作品は、中々にお目にかかれないと思います。私自身が新しいファンタジー小説に疎いのもあるのかもしれませんが、本作の雰囲気はかなり刺さりました。古き良きファンタジー小説にみられる、現実的でありながらその世界に飛び込みたくなるような幻想的な色も併せ持った作品だと思います。
少しでも本作に興味を持った方は、最初のお話「竜の宝玉」だけでも読んでみてください。きっと、この作者様の持つ豊かな想像力に酔いしれることでしょう。