第3話 見えた結び
「いっらしゃいませ~」
聞きなれないキーの高い声に、心もとないロングスカートの感覚。そう、今の俺は背広をきて外回りをするおじさん社会人ではなく、個性豊かで尚且つ若い子が集まる駅ビルのアパレルショップの店員となっていた。そう、矢島瀬那として。
「矢島さん、今日もめっちゃメイク決まっているね!それと・・・髪型変えているけどもしかして男ができたとか~?」
「そ、そんなんじゃないですよ~!ちょっとした気分転換ってやつです!」
入れ替わった朝、俺自身やったこともないメイクやヘアメイクなど一度も迷うことなく、彼女のSNSでの自撮りのような出来前に仕上がっていた。これも設定に入っているのだろうか、そして驚いたのが癖であった。
仕事モードになると矢島瀬那はショートヘアを一本に結ぶ。これも癖のように手が動いていつの間にか束ねており何も考えずただいつも通りの感覚であった。
「とりあえず人は落ち着いた感じだね、よし。矢島さん先に休憩に入っちゃって~」
年齢も近いチーフである中村さんから言われ、先に休憩を頂くことにした。ロッカーから自分の財布とピンクのスマホを取り出して、休憩の際に使うトートバックに入れてお店へと向かう。
大体、彼女がどういったお店に入るのか見当もつかなかったが特段思いつくような店もない、彼女自身も決まったお店もないのだろう。俺はチェーン店として有名なハンバーガー店を利用することにした。
「よいっしょっと、こうやって女の身になってご飯を食べるなんてな~」
バーガーを片手にふと呟く。味覚も変わるのかなと思っていたが、特段そういうのはないらしい。
そういった五感などには変化がないのだろう、いつもより視野が低い景色にも少しずつではあるが慣れていった。
(そういえば矢島は高校の誰かと今でもやり取りしているんだろうか、、、ん?通知がきた・・・)
テーブルの上に置いていたスマホに1通のメッセージが届いた。宛名には笹山優(ゆう)と書かれていた。
知らない名前だ、きっと大学や社会人生活の中で仲が良くなった知り合いの一人だろう。指紋認証でスマホを開き早速、中身を確認していく。
『おはよーございます!この前は電話で悩みを聞いてもらってありがとうございました!!』
『あの、良かったらなんですけど今日ってご飯に行けたりしませんか?私、もっと話したいことがあるので!!』
なんだろう、その電話で話した内容というのがとても気になる、矢島は一体何を話したのだろうか。
俺はそのことが気になって了解を意味するスタンプを送信した。
時計を見るともうすぐ休憩時間が終了する、トレイを片付けて無意識に化粧室で身だしなみを整えて午後の仕事へと向かっていった。
・・・・・・・・・・・・・・・
「あ、矢島さん!お久しぶりで~す!!」
仕事も終わり午後8時台になり、俺たちは待ち合わせ場所にし指定した居酒屋に合流した。
互いの職場からも行きやすい飲み屋をしてしたということは前回、前々回もここで食事をしたのであろうか。
直接聞きたいことであるが、下手に聞くと怪しまれるので上手く話しを合わせることにしよう…
「お疲れ様~、連絡くれてありがとね!」
「いえいえ~、逆に仕事終わりにすみませんなんか。あ、矢島さんが好きな飲み物は頼んであるので大丈夫ですよ!」
「ほ、ほんと?ありがとねー」
一体何を頼んだのであるか。好きな飲み物?俺自身はハイボールか冷酒なのだが口に合うだろうか。
そして、待って数分後、店員が持ってきたのは果肉の入ったチューハイに柑橘系の匂いがするレモンサワーであった。
(よかった、、、甘ったるいのだと飲めないから・・・)
味覚が変わっているので心配をする必要はないのだが、それでも男として培ってきた味覚の反射だ、致し方ない。
互いにグラスを持ち小さく乾杯する、女として初めてお酒を飲んだ瞬間であった。
「っやっぱり、元カレの事とかすっぱり忘れて新しい人を見つけに行った方がいいんですかね~」
「あはははー・・・お冷飲む?」
開始して1時間も経たずに彼女にはかなりお酒が回っていた。それは質疑応答があやふやな状態になるほどに
元々、お酒自体が弱いのかもしれない。そして、今俺が乗り移っている矢島瀬那も頭がぽかぽかと温かい感覚があるのでお酒には強くないようだ。
そんな笹山優に私は、知りたい情報を聞き出していった。特別な情報じゃない、話が進みやすくするための個人情報だけだ。
笹山優と矢島瀬那の関係は大学の学部の後輩が起源であった。出会いというのは学部での新入生オリエンテーションで接したのがきっかけだったらしく
そこからプライベートでも遊ぶ中に。
在学中、矢島と飲んだ時に『可愛い後輩がいる』なんて話していたけど、もしかしたら彼女のことなのかもしれない。
笹山優は事あるごとに矢島に相談を持ちかけていった、恋愛・就活・単位・・・どれも彼女は親身に聞いていたようで
妹のようになついていたよう。社会人になってもその関係性は健全で仕事での苦悩やなんやらを電話などで聞いていたそう。
そんな中、私たちがつい先日電話で会話した内容というのは『元カレと比較して彼氏ができない』という話であった。
(なんだか、矢島も大変なんだなぁ~)
そんなことあるごとに話しを聞かされてはたまったもんじゃない、けれど可愛い後輩だからだろうか。その気持ちを無下にしてこなかった
高校時代の友人としては、矢島瀬那がここまで人に寄り添う人とは思えなかった
「ありがとうございます…でも、本当にいい人ができないんですよ、現れもしない」
「まぁ、待ちの姿勢だと来ないっていうしね~」
「でも!仕事が忙しいししょうがないんですよ!!私だってガンガン追いかけたいんですけど・・・」
俺もある程度、人生を生きてきたがこの手のタイプはほぼ向こうからのアプローチを選択している。
だからこそ、出会えない。いや正確に言うと出会えているけどカウントしていない。ある種、勿体ない生き方を選択しているようなものだろう。
「けれど、いいなぁ~、矢島さんは。相手いるんでしょ?」
「え!?私はいないよ~、未だに一人身なんだし」
「いやいや、この前言ってたじゃないですか。高校の時の腐れ縁?みたいなやつと付き合っているって!!」
思考が止まる。
一体どうゆうことだ、それは
高校の時の腐れ縁、、、それは紛れもなく俺のことであった
レンタルLife Rod-ルーズ @BFTsinon
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