第2話 再開に映ったあの人

「難しく考えなくていいよ、君だって誰かの人生を体験してみたいと思ったことぐらいあるでしょ?」


この話は彼女の妄想話なのだろうか、冷静な判断ができない。あやふやすぎる。

他人の人生を経験してみたいなんてことは少なからず興味はあった。

よく見る動画では配信者が『1日のルーティーン動画』なんてものを投稿しているのを見たりする。どれも、きらびやかなタワーマンションに住んでおり、はたから見たら社畜という言葉から無縁な生活見えてくるのだが、当人たちの下積み時代や今のビジネス関係の話を聞くと規模大きいだけでやっていることとしたら大して変わらないのでは?と思っていた。だけど、そんな環境を一度は経験してみたい・タワーマンションから眺める景色や大金が記帳されている通帳など俺にとっては夢のような話であった。


「確かにありますよ、誰だってきらびやかな世界や自分が経験したことがない世界にあこがれを抱いたりしている。でも、やらないのは目の前にある大きなリスクが見えているからってこともね」


「だったら、ちょうどいいじゃな~い。それに見合った適正な価格で少し間だけお借りする。なにもこのまま一生、その人を演じる必要はないのだからさ。そういったある種の経験をしてみたいという話だけであれば、君の願望は叶えられる」


どうする?

彼女は言葉を発していないけどそれでも、自分をお客とみて煽りをいれてきている。

俺はグラスに入った残りの酒を口へと流し込んでその話に乗っかっていった。


☆☆☆


そうして俺は彼女が取り出したメモ用紙を眺め説明を受けることになった。

大まかなルールとして以下の内容だった。


1.レンタルの対象期間は少し先の未来である

2.レンタル期間は最大でも1週間で日数は選ぶことができる

3.対象となる人は実際に自分が見かけたことのある人のみ。なお、動画や写真などで見たことがあるは含まれず、実際に目撃した人のみ。

4.強く顔を思い出せれば交換できる。

5.その人のレベルによって金額は変わる。もし、有名人などその人の認知度高い場合においてはその分、高くなっていく。基本的にはほぼ同じ

6.法を犯すようなことは規則違反。犯した場合、多額の請求ふくめ自分がレンタルされた際にそれ相応の罰を与えられる。

7.入れ替わっているとき、本体である自分と会ってはいけない

8.最後にこの店で起こったことや自分の経験したことを口外しない。


「とりあえず大まかなルールはこんな感じかな、後はレンタルさせてもらっている人の人生をぶち壊さなければ大丈夫」


「なんかさらっと怖いこと言いましたよね、、、でも把握は出来ました。あとは俺がどの人と入れ替わればいいか」


「お、乗り気だね~!最初の一発目なんだから後悔はしたくないもんね」


だが、こうして考えてみるとなかなか思い浮かんでこない。もし、有名人の人生を経験できるのであれば、すぐさま選択していたのが俺自身そういった人たちと出会ったことがないし、たとえ出会っていたとしても憶えていないのだ。だからこそ、誰かいないか考え込んでふと、スマホに通知がきた。ただのお店のクーポンの通知であったが、ふとトーク画面の履歴を眺めていると一人の女性に目がいった。


『矢島 瀬那』


彼女は高校時代のクラスメイトであり、食事などにはあまり行かないが今でも連絡を取り合うような仲であった。当時は黒髪のボブヘアで流行に乗った女子高生であるが、いまではアパレル店員として日々、働いている。

煌びやかでもなく、普通の暮らしをしている彼女であるが俺は学生時代、彼女に恋をしていた。告白などはしたことない、今ある関係を壊したくない・俺が彼女と幸せな日々を送れている未来を想像できなくて、何も言わずにその関係をキープを選択した。


「好みのだった女の生活が気になる、、、なんてただの変態かもな」


「かもね~、でもそういった人も多いよ?対外がろくでもないことをしてきました、って言ってる。女性として気味が悪かったよ」


「すみません、レンタルしたい人が思い浮かびました。3日で良い、この子にします」


「ん、りょーかいした。それじゃあこの紙に必要なことを書いていってね」


渡された紙に必要事項を書いていく、自分の住所にレンタルしたい人のことについてなど、たった数分書き込んでいった


「よし、これで契約は終了だよ。家に帰って眠ったら翌日にはレンタル完了さ、振込みはレンタル期間が終了してから指定の口座に入金してくれれば大丈夫」


そういって彼女とのやり取りは終わった。

なんだか奇妙なお店であったが、これから起こるであろう非日常に今は興奮が止まらないが、先程飲んでいたアルコールのおかげかすぐに眠気がくる。だからこそ、早く眼を閉じて夢の世界に入っていった


次に目を覚ましたのは聞きなれない機械音であった。枕元に置いてある目覚まし時計だろうか、手を伸ばして目覚ましを止める。


「ん、んん~~・・・あれ?」


甲高い声、あきらかに27歳のおっさんとは違う。部屋もいつものモダンな部屋ではなかった。薄いピンクの家具にお洒落な小物が棚に置いてある。

寝起きで何が何だかわからなかったがスマホを見て直ぐに今の状態を理解した。


「入れ替わっている・・・」


そこには茶色のロングヘアーでピンクの半ズボンの寝間着を着ていた矢島瀬那の姿があった。



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