レンタルLife
Rod-ルーズ
第1話 刺激が始まった日
4月、いつも利用するこの電車に新しい顔ぶれが揃う。
見ただけでもわかるほどの真新しい学生服に身を包んだ少年少女に肩まで張りつめている新社会人。きっと緊張しているからだろう
そして、あくびを垂らしながら眠たそうに窓の外を見つめていたりスマホをいじっている俺たち既卒の社会人連中。真新しさなんて皆無で虚無感しか残っていない。
そんな自分とは違う初々しい人たちを見て「俺にだってこんな時期があったなー」
なんてしみじみと干渉に浸っているのは今年で27歳になるサラリーマンの水野修也であった。
彼だって昔からここまで不真面目ではなかった、ちゃんと遅刻せずに毎朝起きて1時間前に出社をしていつの日か来る出世という文字を目指しつつ営業に日々、励んでいたのだから。
だが、ある日を境にその真面目さは影を落とした。今では遅刻せずとも外回りをしてはネカフェに行き、なるべく残業もせずに退勤をする日々。
新しい金の使い道も覚えていった。ギャンブルに風俗、キャバクラなどに金を浪費する日々。
もちろん、その日は楽しい。何よりも退屈せずに脳汁が出るほどだったのだから。
しかし、そんな日も長くは続かない。当然、飽きはやってきて今ではお気に入りの女の子が出勤しているのと自分の性欲が高まっている状態のマッチングで惰性に日々を過ごしているだけだった。
「何かいいことがないものかね・・・」
そう考えても上から降ってくることがないのが人生なのだ、俺は小雨の降る車内から何度目かわからないため息をついて最寄り駅まで揺れていった。
☆☆☆
「ん…なんだあの看板?」
電車を降りて普段通りの道を帰宅していると、ふと電気がついた看板に目がいった。普段から通っている道なはずなのに初めて見た気がして足を止める。
「Life・・・見たことがないな、新しいバーか何か?」
時刻はすでに22時を回っている、こんな時間にやっているのはBARか普通に居酒屋ぐらいだろう。しかし、店の前の入り口には売り子もいないしメニュー表すら置かれていない。ただ書いてあるのはただ一つ、「人生の気分転換」と階段近くに貼られていた紙だけだった。
「面白い・・・」
どうせ家に帰ってもやることなんてお酒を飲むことぐらいだ。そんなに高いお店ではないだろうと思い俺は階段を駆け上がっていった。
ドアを開けて中に入る、店内は至って普通なbarにような装いであった。席が少し少ないか、カウンター席が5つほどしかない。店内音楽も流れておらず、外から聞こえる音がBGMの代わりとなっていた。
「誰もいないのかな…あのー、すみませーん」
「はいはい…適当なお席に座っててくださーい」
店の奥から声が聞こえる、女性の声だ。俺より少し歳上のように見えて30代前半ぐらいだろう。
丸メガネをかけたセミロングの女性が現れて僕を見るなり、髪の毛を1つに纏め始めた。
「何飲みますか?あまりいいお酒は取り寄せていないけど、ある程度のものなら提供できますよ」
「あ、じゃあハイボールで」
やる気がないのかな、俺自身バーなどの飲み屋さんには行ったことはある。どのお店のマスターも身なりはきちんとしているのに、こちらの女性は黒のロングスカートに白シャツと汚れの目立たない暗めのエプロン姿だった。
まるでそこらのカフェ店員のようでバーテンダーとは見えない装い。客だって入りそうな時間帯なのにカウンターに座っているのは、俺ただ一人だった。
「ここのお店って結構長いんですか?」
「んー、出来立てだよ。だって私が作ったからね」
手を動かしながら質問に答える彼女、出来立てと言ったがなぜこうも看板や店内に新鮮さを感じないのか。いや、あまり目立たないところは綺麗だったりするのだが、入店してから何故か気になっていた
「あまりお客さんとか来ないんですか?みた限り、私しかお客さんいませんけど?」
「まぁ、他のことでうちのお店は生計を立てているからさ。あまり、bar目的では来ないんだよね。はい、ハイボール」
「あ、どうも」
他のこと・・・?彼女が言った言葉が気になり、提供されたハイボールそっちのけで益々気になりだしていった。
「他のことって気になりますね、副業的なことでもやっているんですか?それで趣味のバーを経営しているって感じとか?」
「ううん、違うよ。私がやっている本業。後者はあたりだけどさ、気になる?もしかして」
「そりゃあもちろん。なんか意味深な感じで言われたんで」
2杯目のハイボールをおかわりする、最初に注文したやつよりも少し濃いめだろうか。飲んだ感覚がさっきよりもアルコールの味を味合わせてくる。
「もしさ、人生・・・その人が生きている時間を少し間だけ味わえることが出来たら、君は興味は出ないかい?」
「は?」
「思った通りの反応~やっぱりね。来たお客さんたち全員同じ反応を示してきたよ」
俺は酔っているのだろうか、彼女が言っていることが嘘か真実なのか全く判別ができない。そんな二次元創作でありがちなことがこの世の中で可能なのか。
いや、きっと冗談だろう。夢のある話を彼女は毎回話しているに違いない
「人生をレンタルする・・・そんなことって」
馬鹿馬鹿しい話だ、と伝わるように彼女に返答したつもりであったが、それを間髪入れずに遮られた。酔った顔で彼女の顔を見るとさっきまでの表情とは打って変わって真剣な表情をしている。
「できるんだよ。さぁて、いったいどのLifeをレンタルする?」
人生をレンタルする。
そんな夢のようなことにさっきまで馬鹿にしていたつもりの熱が眠っていた刺激に電流が走らせていった。
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