⑩'全知の鬼 補足(2022年執筆)

 昔から、『特殊能力もの』と呼ばれるジャンルの作品が大好きだったので、自らの核作品も、そのような題材のものが非常に多い。特に、主人公のみでなく、世界中の全員が特殊能力を持っているという中で、作中人物がどのように立ち回るか、また、そもそも社会はこの現実とどのように異なっているか、ということを描く作品が好みである。近年では、『僕のヒーローアカデミア』が一番有名ではないかと思う。

 本作品『全知の鬼』は、二十歳の誕生日に『神性限定約定能力』という名前で、自分の好みの超能力を授与されるという世界において、「全知」の能力を手に入れた主人公が、恋人の復讐のために能力を駆使して殺人を犯してしまうという内容である。プロローグで、復讐を果たしたシーンが描かれており、それに至る過程とその後の顛末が、物語の肝ということになる。

 主人公小林雄武の「全知」の内容が、自分としてはかなり捻ったものだと思っていて、「頭の中で考えた疑問文に、すべて正確な解答が返ってくる」という仕様であったのだが、のちに、『金色のガッシュ!!』の主人公が『アンサー・トーカー」という名前の全く同じ能力を手に入れており、ネタが被ってしまってがっかりした。私がもう少し自意識過剰であれば、アイデアを盗まれたとか、思想盗聴されているとか、そういうことを考えて騒ぎ立てたかもしれないが、大半の熱心なワナビなら気付いている通り、ので、「自分のアイデアはプロの漫画家が採用するくらいのものだった」と肯定的に捉えて、前に進むしかない。なお、本作品『全知の鬼』が絶筆になってしまった理由と、『アンサー・トーカー』のネタ被りの間には一切関係がない。

 うろ覚えだが、主人公の復讐のターゲットとなった相手の能力が「自分がどんな行為を行っても他者から心情的に許容され、さらに、あらゆる国で法的に裁かれない」という代物で、「主人公はどのように、心理的な障壁を突破して復讐を決意するに至ったか」という物語の根底にかかわる部分の解決策が思い浮かばなかったため、筆が止まってしまったのだったと思う。通常、特殊能力ものと言えば、時間をとめる、あるいは戻すという、時間操作系の能力が最強とされているが、上記のように、「何をしても許される」ことで、戦闘向きの能力が必要な局面に陥りにくく、さらに、自らの好き勝手にふるまえるという、珍しい方向からの「最強の能力」を提示しようとしており、アイデア自体は気に入っている。そして、その「最強の能力」を打ち破って成し遂げたことが、包丁を使っての生々しい殺害行為であるというのも非常に残酷であり、プロローグで描かれる悲惨な状況、主人公の心理描写はあまりに悲劇的である。

 面白くなりそうな題材、タイトルであっただけに、捨てるには惜しい作品ではある。

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未完成原稿の墓場(今迫直弥編) 今迫直弥 @hatohatoyama

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