【ここから読めます】正しい勇者の作り方 葵編
いつもの昼休み。
いつもの図書室。
いつもの静寂。
いつもの犬飼くん。
「おいコラ! 絶対これ葵のせいだろ! また椅子に縛り付けやがって! さっさと解放しろ!」
と、目隠しをされた状態の犬飼くんが図書室の中心で私に愛を叫ぶ。
それはそれは、とても激しく愛を……
フフ、照れちゃいますね。
とはいえ、いつまでも放置していては可哀そうなので、微かに残った私の良心と不快愛情……じゃなかった。深い愛情で目隠しを外してあげることに。
「えへへ、さすが犬飼くん。愛ゆえに、私の仕業だということはお見通しのようですね」
「葵以外にこんなことするやつが居ねぇだけだっつーの……!」
とりあえず目隠しだけ外され、椅子に拘束されたままの犬飼くんが私を見やる。
呆れたような表情だったが、そんな顔も素敵でした。
「クソ、外れねぇ……。ったく、いつもどうやって縛ってんだよ、これ……」
ガチャガチャと金属の擦れる音がするが、犬飼くんが拘束から逃れることは出来ない。
まあ、それもそのはずです。
「犬飼くんに使う金属チェーンは、私の特別製ですから、ふふん」
「その特別感、まったく嬉しくねぇな……」
「なんたって、私の“中”から生み出しているものですからね。市販品とはワケが違います」
「おい話聞けよ。……って、なんだ、それ……!?」
私の手に握られた自律して動く金属チェーンを見て、犬飼くんが驚きの声を上げる。
はて……?
「犬飼くん、どうかしましたか?」
「どうかしてるのはお前だろ!? そ、それどうやって動かしてるんだよ……、手品なのか……?」
「何を今さら……。犬飼くんには、ずっと見せてきたじゃないですか」
「そんなわけねぇだろ!」
なんて、まるで本気のような驚愕の声を上げる犬飼くん。
でも確かに、言われてみれば今までこうまじまじと見せる機会はなかったような……?
しっかり伏線は張ってあったんですけどね。
「思い出してください、犬飼くん。例えば、皆でアミューズメント施設に遊びに行ったときとか……」
「んん……?」
「具体的に言うと、一巻164ページの九行目です」
「具体的が過ぎるだろ……。急にメタ発言すんな」
記憶のページをペラペラと捲る。
そこには、こう記されていた……ような気がしました。
『葵の取り出したチェーンが自律して動き出す』
と、まあそういうことです。
このシーンは錯覚ではなくマジだったということですね。
「マジか……」
「マジです」
そう、目を丸くした犬飼くんが私を見つめてくるのでした。そんなに見られると、悪い気はしないのですが……てれてれ。
「今そういう反応は要らねぇんだけど……まあいいや。昼休みもそろそろ終わるし、この件は一旦持ち帰ってから再度驚くとしよう」
「驚きの感情って、そんな事務的に処理できるやつなんでしょうか……?」
さすが犬飼くんです。デスゲーム運営委員だけあって常識が通じません。
「じゃ、教室戻るわ」
そう言いながら、犬飼くんが立ち上がる。
「はい、また放課後にご一緒しましょう……って、ナチュラルに拘束から抜けてるじゃないですか」
「いつもいつも縛られてたら、ちょっとは慣れるんだよ。不本意ながらな」
「そういうものですかね……?」
「そーいうもんだ。それより、お勧めのラノベとか教えてくれよ。それ読みながら授業サボるから」
「それでしたら、このファンタジーがお勧めですよ。いわゆる異世界転移というやつなのですが――」
そうして、私は犬飼くんと一緒に、やはりいつも通りの昼休みを過ごしたのでした。
◇
放課後の帰り道。
この日は珍しく、ヒロインデスゲームに勝利して犬飼くんと二人きりの帰路を堪能していました。
「どうでしたか、あのラノベは?」
「んー、なんか微妙だったな。特に設定がベタ過ぎて。どいつもこいつもコンビニ感覚で異世界行き過ぎだろ」
「まあ、そういうものですから」
「なんつーか、日本の少子化もここまできたかって感じだ」
「さすがに、そこまで多く異世界転移してないと思いますけどね……」
なんて、これまたいつものように何気ない雑談を交えながら、この時間が長く続くようにゆっくり歩みを進めた。
「雑にトラックに撥ねられて、異世界行って、努力もせず手に入れた力をひけらかして敵に説教垂れ流す連中が鼻につく。どうせ異世界飛ばすなら、せめてもっとマシなやつ飛ばせばいいだろうに……」
「まあまあ、きっと何か意味があって選ばれたんですよ。その登場人物は」
「そんなもんかねぇ……?」
「はい、そういうものです」
物語の登場人物には明確な役割がある。
それはきっと、人生だって同じです。
例えば、犬飼くんが私をデスゲームで救ってくれたこと……、これは偶然ではなく運命に違いありません。二ノ瀬さんと赤石さんと緑門さんと卯野原さんは偶然ですが。
「意味があって選ばれた、か……」
「どうかしましたか、犬飼くん?」
「いや。ただ、俺たちの人生もそうあってくれれば、少しはマシに思えるのかも……なんて思っただけだ」
「犬飼くん……、私もちょうど同じことを思っていたところです。相思相愛ですね」
「それはちょっと違う気もするけどな……」
と、苦笑いを浮かべる犬飼くんでした。
むぅ……
「いえいえ、きっとこれは運命なんですよ。すべては必然だったのです。あのデスゲームも、これからの私たちも――」
そして、私はちょっとだけ小走りに犬飼くんの前を進み、曲がり角に差し掛かったところで振り返った。
「――だから、私はこれから 犬飼く んと 出 会っ た 意 味 を 証 明 し て み せ ま 」
――突如、身体に走る衝撃。
耳を裂くようなブレーキ音。
追い付かない思考……
視界の隅では、巨大な金属の塊が猛スピードで私にぶつかって……
いやいや、こんなベタなことがあるはず――と、そこで私の記憶が途切れた。
◇
あれから、どれだけの時間が経ったでしょうか。
体感では数秒。
たったそれだけの時間で、異国の地に移動することが出来るはずありません。
ですが、視界の先は――まるで中世ヨーロッパのような風景。
いえ、もっと正確に表現するのであれば……、ファンタジー世界でしょう。なんか、遠くにモンスターっぽいの見えますし……
つまり、これは――
「い、異世界転移、ですね……。マジですか……」
――その後、葵はなんだかんだあって、このライビア王国の
『正しい勇者の作り方』6/20発売!!!!
葵も出るよ!!!!
デスゲームで救ってくれたから、私をあなたの好きにしていいよ二巻 進九郎@6/20『正しい勇者の作り方』 @trishula
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます