第3話


「ねぇ、知ってる?隣のクラスの子がさー・・・。」


「お前今日放課後空いてる?また皆で集まろーぜ。」


「やばっ、教科書忘れちゃった!」


—目を開けると、そこは活気の溢れるかつての我妻中学校だった—。


ここにいる人は“黄昏の生徒”なんかじゃない。普通の人間だった。


「!あれはー・・・。」


教室の後ろの方の席を見ると、そこには黒いセーラー服に身を包んだ彼女がいた。


「クレア・・・!」


俺は急いでクレアの席まで走りよると、彼女に話しかけた。


「クレア!ここは一体・・・!」


「クレアちゃん、昨日の宿題やってきた?」


俺の声を遮るように、クラスの女の子がクレアに話しかけた。


「難しかったけど、なんとかやって来たわ。」


クレアはその女の子に笑顔で答える。


「おいクレア!俺は何をすればいいんだよ!」


そう話しかけるが、クレアは全く目もくれず、クラスメイトと楽しそうに話している。


まさか・・・聞こえてないのか?


するとある少女がクレアのもとに来た。


「お姉さま、お客様よ。」


「ありがとう、レイア。」


レイア・・・。


クレアの双子の妹であり、あの黄昏の空間を作った魔女。


しかしここでは黒いセーラー服を着て、楽しそうにクラスに馴染んでいた。


クレアは魔女・・・レイアの言葉を聞くと教室の扉のところまで歩いていく。


そのには一人の男子生徒が。


「蓮介。おはよう。」


「おはよう。クレア。」


蓮介・・・?


俺が呆気に取られていると、ふいに背後から少女の声が聞こえた。


「・・・ついに来たんだな。楓。」


「・・・!あ、づさ・・・!?」


—一ノ瀬 梓。


あの頃と何一つ変わらない、小学生のままの仲間がそこに立っていた。


「梓・・・!今までごめんっ・・・!!俺はここでのことを全部忘れて一人だけ・・・!」


「いい。こうして助けに来てくれた。それだけで私は充分だよ。」


梓は泣きつく俺の頭をそっと撫でてくれた。


「一体ここはなんなんだ・・・?」


「・・・ここは魔女、レイアの記憶だ。」


「記憶?」


「ああ。1913年。この学校で何があったのか、全てわかる。」


「・・・お前はずっとこの記憶の世界にいたのか?」


「私はお前があの黄昏の空間から脱出した後、しばらくは身を隠していた。焼却炉の存在も知っていたが、鍵がかかっていて開かなかった。でもある時焼却炉を見てみると、四苑らしき“黄昏の生徒”が鍵を命からがら壊してくれた。その後はここで何度も魔女の記憶を見続けている。」


「何度も?」


「最後の鍵が見つからなくて、ここから出られないんだ。」


「最後の鍵・・・?」


「ここから出るためには、間違いなく重要な“何か”が必要なんだ。でも何度この記憶を見てもそれが何なのかわからない。」


そう言うと梓は先ほどのクレアを追って歩き出した。


「梓!」


「楓。お前もこの記憶を見てみるといい。魔女のことがわかるから。」


魔女・・・レイアの過去。


あの黄昏の空間を作った理由。


そして1913年に起きた事件・・・。


俺は全てを知るために、梓の後を追いかけた。




「ねぇ蓮介?」


「なんだ?」


クレアと蓮介を追いかけると、屋上に出た。


「はい。」


「これは・・・?」


「お弁当。作って来たわ。どうせまた朝ごはん食べてきてないんでしょ。」


すると蓮介のお腹が鳴った。


「・・・やっぱり。」


「でもそのおかげで遅刻しなかったし、クレアの手作り弁当にもありつけたからむしろ食ってこなくてよかったな。」


「もう。」


二人は楽しそうに話している。



「・・・クレアと小泉 蓮介。彼らは恋人同士だったみたいだ。」


梓が言った。






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黄昏の魔女 篠月 @akrl

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