第29話⑪
ミアはお金を稼ぐために、人間界に来た。
人間界に、夢や希望なんて持っていなかった。
でも、今のミアは人間界が好きだった。
生きるのがとても楽なのだ。
仕事をしてお金を稼いで。
その積み重ねが、ミアの自信となっていた。
――「探していないだけだろう? 世界は、ここだけじゃない。君が生きやすい場所だってあるはずだ」
あの日のジャスティンの言葉は、今やミアの言葉でもあった。
自分が生きやすい場所を、ミアは探していないだけだった。
探すなんて考えさえなかった。
生まれた場所に一生いなくてはならない。
誰に言われたわけでもないのに、そう思っていた。
選択肢はあるのだ。
それに、気が付かなかっただけなのだ。
ミアはリックをまっすぐに見た。
初恋のリック。
ずっと好きだった人。
少女時代のミアの心の支えだった人。
「あのね、リック。私はゆるさないよ」
リックが驚いた顔でミアを見つめる。
「ゆるしたって言葉も言いたくない。そんなことしたら、わたしの心が死んじゃう」
「……ミア、しかし、それではイレインやエディがかわいそうだ」
傲慢な優しさで、ミアを責めるリック。
彼の苦しそうな顔を見ても、ミアは悪いなんて思わなかった。
ただ、残念だなと思った。
ミアはリックとは違う場所に立っていた。
見ている景色が違った。
その事実をミアは、そのままを受け入れた。
リュクが帰った部屋の窓を、ミアは全開にする。
風が入る。
心が洗われる。
さて、お仕事だ。
また今日も、ミアの客がお金を持ってやって来る。
そして、そのあとには、ジャスティンも来るだろう。
フルーツケーキを焼こう。
レーズンをたくさん入れた。
たまには、彼にミアが作ったケーキを出してもいいかもしれない。
あの夜、ジャスティンから頭にキスをされたミアは、自分でも驚くほど顔が真っ赤になった。
ちゃんとしたキスをしたときよりも、恥ずかしかった。
それに、また、もぞもぞとした気持ちになった。
ミアは自分の気持ちの変化も感じていた。
ジャスティンが来るのが楽しみなのだ。
彼の顔を見たいと思ってしまうのだ。
そして、そんな自分が嫌じゃなかった。
ミアはジャスティンがフルーツケーキを前にしたときの表情を想像した。
どんな顔で彼はケーキを食べるだろう。
それを想像すると、ミアの心は躍った。
◇ おしまい ◇
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きりがいいので、一旦ここでエンドマークに。
連載早々に、コメントや応援などいただき「これはやるしかない……」と気合を入れて書きました。
読んでくださる方の存在は、わたしにとりパワーになります。
ミアの成長が描けてよかったです。
ではでは。
また、お会いしましょう!
仲町鹿乃子
ブライド~滞納したら即結婚? 天使の高利貸しは今日も奮闘中! 仲町鹿乃子 @nakamachikanoko
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