9 盗賊退治
テントでみんなでごろ寝だ。
俺たちも自前のテントがある。ただし人数が人数なので、俺とエレナは一緒のテントだ。
もはや夫婦同然の扱いだった。しかたがない。
「むにゃむにゃ、トムさん」
「ああ、エルナ。朝だな。おはよう」
「はっ、あんっ、おはようございます」
エルナがもぞもぞ起き出してくる。
一応炊事係のエルナは早く起きなければならない。
俺も一緒に起きて小川で顔を洗ってくる。
水汲みもしてきて、陣地の水瓶に注いでおく。あとで料理で使う。
大人数用の大鍋にアレンじいさんのシイタケを放り込んで水を入れる。
今回は小麦粉を溶かしてホワイトスープにする。
俺がまたしても肉を入れて、エルナがまた草を採ってきて入れていく。
昨日のハトも小さく切って入れてある。
小麦粉を水に溶かしただけのスープとか不味いに決まっている。
いくら戦時の飯でもそれはいやだ。
「野戦用の飯なのに、具も入っててうまいな」
「ああ、今回はアタリだな」
領主は知らないのだろう普通に食べている。
しかし騎士たちや随伴の銃歩兵は不味い飯を食ったことがあるのだろう。
とてもありがたがっていた。
まだ日が昇る前だ。
さっさと飯を終わらせる。
「では出発」
「「「おぉおお」」」
馬に乗った騎士たち十名前後。歩兵のソードファイター同じく十名。
銃歩兵も十名。
どうやら弓部隊を連れてこなかったらしい。
普通戦争では弓の一斉掃射で削るのが定番だ。
盗賊相手では不要と判断されたのか、それとも銃歩兵がいるからいいと思ったのだろう。
最後尾の俺たち村の民兵がついていく。
そうそう俺以外の村人は門で使う槍装備だ。一応、戦闘になったときのために人数分の槍が村にはあった。
それを使うのは本当に非常事態だが、それくらいの余裕が村にはあるらしい。
まあ村長は慎重派だから準備は怠らないタイプだ。
もちろん各々槍がダメになったときのために腰には短剣なども用意している。
一番後ろにはエルナとミリアリアちゃんが続いた。
彼女たちだけ置いていくわけにもいかない。
戦闘開始はお昼丁度と決められていた。
今頃、王国騎士団が北側から街道を封鎖しながら進んでいるはずだ。
盗賊のアジトがあるとみられる場所は中間地点辺りで、時間的には丁度いいはず。
青い制服組を後ろから眺めながら進む。
街道を進み、お昼ごろ。
キンッ、キンキンッ。
「うおぉおお」
「うぎゃああ」
すでに戦闘が始まっていた。
盗賊の一部は水色の制服の王国騎士団を見てこちらへ逃げてくる。
しかしもちろん俺たちが逃がさないために反対側にいるのだ。
「銃歩兵、構え」
十人の銃歩兵がライフルを構える。
「撃てぇい」
バン、バンバンバン。
一斉射。煙が銃身から上がる。
こちらへと逃げてきていた盗賊の何人かに命中したらしくバタバタと倒れる音がした。
今度は山の方向へ逃げようとするものもいるが、残念ながらその先は崖で登るのは難しい。
銃歩兵は急いで再装填を済ませる。
「左方向、構え、撃てぇい」
バンバン、バンバン。
再び銃が火を噴く。
崖を必死に登ろうとしていた盗賊に命中して、転がり落ちてきた。
まだ剣の音なども聞こえてくる。
戦線が押されているらしく、盗賊が集団でこちらへ方向転換してくるのが見える。
「騎士隊、歩兵隊、突撃。全員逃がすな」
エルダン子爵が号令をかけると、剣を掲げて盗賊に襲い掛かっていく。
俺はこちらへ盗賊が向かってこないか注意深く様子を観察した。
銃部隊は右側の盗賊を狙っていた。
バン。
どこからかの発砲音の後、歩兵のソードファイターがひとり倒れる。
左の崖の上。アジトへ登るルートがあるのだろう。
しゃがんで動かない盗賊がいる。銃を構えていた。煙が出ているのが見える。
敵にもガンナーがいるらしい。
すでに銃部隊は発砲した直後で、再装填が間に合わない。
「領主様、下がってください。左の上、ガンナーです」
「ああ、分かった。くそっ、ひとりやられた」
次は自分がターゲットになるとは思っていないのか、領主はゆっくりこちらに戻ってくる。
ドキドキ音が聞こえそうなほどだ。鼓動が高鳴る。
俺は素早く左上のガンナーに照準器を合わせる。
俺が先に撃たなければ、撃たれるのは俺たちだ。
「冷静になれ、できる」
ほとんど自分に言い聞かせるためだった。
エルナが不安そうに俺の背中に手を当てる。
エルナは大丈夫だろう。俺の陰だ。
向こうのガンナーが再装填を終えて、こちらを向いた。
「撃たれる前に撃つっ」
バン。
俺の発砲音。
崖上のガンナーにそれは命中して、ガンナーが吹き飛び崖から落ちてくる。
盗賊のガンナーは道の近くまで転がってきて止まった。
立ち上がる気配はない。近くには彼の銃もそのまま落ちている。
他にガンナーや弓使いがいないか上の方を見てみるが、いないようだった。
こうして騎士団の挟み撃ちによる奇襲攻撃により、盗賊団は壊滅した。
「エルナ、ミリアリアちゃん、無事か?」
「大丈夫だよ」
「ミリアリアも平気」
「そうか」
俺たちは村の民兵組は全員生き残った。
騎士団は何名か負傷。死者三名。そのうちのひとりがガンナーにやられた。
この十メートルの崖の上にいつの間にか小屋が建てられており、そこで生活していた跡があった。
財宝類や食料なども小屋には積まれていた。
盗賊の半数は降伏して捕まり、もう半分は死亡した。
こうして俺たちの盗賊退治は終わった。
領主はメンツが保てて王都の国王に自分の手柄として報告するのだろう。
俺たちにも報奨金が支払われた。
金貨だった。かなり儲かったのは言うまでもない。
しかし、もう盗賊退治はやりたくはない。人間同士の戦闘はごめん被る。
やはり獣相手にお肉を得る生活のほうがいい。しみじみと思い知った。
異世界駆け出しガンナーのお肉生活 滝川 海老郎 @syuribox
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