第4話  生き物の鼓動の様に。

 主題の作品書かずに何やってるんだろう?

 自分でもそう思う、見聞きした事、読んだ物、触れて感じた事、其れで思い付いた事を忘れぬ内に書き留めて置こうと別の物に手を出したのが悪かった、其方が進むが本編が進まない…。


 仕事の合間いつもの様に胸ポケットに入れたiPhoneの振動が伝わる、線路脇にモドキの車両を停める、如何も俺はモドキと縁が在る様で今乗る車両はスズキからのOEM、N社のクリちゃんと呼ばれる車両に為って居る、如何しても俺はモドキと縁が切れない様だ…。


 追加業務か問い合わせの連絡かの確認だろう、表示されて居る内容とモバイル端末の受け取りを開き相違無いかの確認をする、又厄介な物の追加が入った様だ然も同時間帯に今居る場所の反対側へ移動だけでも30分掛かる、如何した物だ…。


 作業内容をエラーコードから推測、完了時間を検算しiPhoneより到着時間と概算の完了時間を先方に入れ、不足している情報を口頭から聞き出した。


「行ける!、間に合うさ…。」

 此処からの先行作業現場までは移動10分足らずだが訪問指定時間は30分後、そう訪問先のお客様が帰宅されない限り作業其の物が始められぬ、水素より電気を起こし廃熱を回収するユニットへ熱回収を行うのだが其れが出来ぬ為に発電が行えぬ、回路が切り替わらず補助用の熱源機も稼働しない、日常生活が出来なく為る…、作業予定時40間分程の予定だ、後輩達では半日作業。


 何時からこんなに世の中はギスギスした物に為って仕舞ったのか?、少し前なら帰宅前に作業を始め時間短縮が出来たのに…、今も其れが可能なら移動時間位の時間が稼げる、昔の仕事がこんな時に役に立つ、移動箇所、時間帯、曜日、天候全てを入れた条件で移動道程を導き出す…、あの頃も時間厳守、嫌違うか元々不可能な時間だったな其れを可能にして来たんだ、今思う<良くあんな事が出来たもんだな…>、今では知る者も居なくなったのに…。


 遠くから大きな音が聞こえて来た、規則正しい金属音も、更に大きな大気を震わす大きな音、直後ろと此の先の違う者達が交差する場所に警告する為に…、其処からは電子的な警告音と共に交通を遮断するバーが降りる、規則正しい金属音が生き物の鼓動を刻む様に聞こえて来る…。


 煌々と輝く前照灯、吹き上げる黒煙、更に大きく為る規則正しい金属音、クロスヘッドがエンジンのピストンの様に、其れに繋がるロッドがコンロッドがクランクシャフトを回す様に、クロスヘッドがピストンの上死点、下死点の位置に来た時に規則正しい音を発てる…。


 黒く巨大な姿が付随するテンダーと続く客車を引き連れて駆け登って行く、有難く無い記録と言うべきか?、国内で登山者の死者が一番多いと言われる雪を頂く山の麓に在る駅を目指し緩い勾配を昇って行く、俺の停まる車の脇を駆け抜ける力強いドラフト音と共に、遥か昔に聴いた唱歌が頭に響く。


 脇を駆け抜けたのは其の代表と言われて居るデゴイチ、<D-51.498>そうSL蒸気機関車だ、暫く見る事も、乗る事も、撮影する事からも随分ご無沙汰に成って居た…。


「そうか、試運転日だったんだな今日は…。」

 営業走行日は土日祝日だが、訓練を兼ねて平日の日中に走る事が有る偶々そんなタイミングで線路脇に停まっていたんだ、又大きな汽笛が聞こえる重量級の機関車が立てる腹に響く汽笛…。



「ほらソロソロ電車が来るとよ!」

「何で判ると?、な~も見えんとよ?」

「其処の線路から音が聞えこんね?」

「兄ちゃんキンキン鳴ってるよ?」

「其れで解るったい!」

 俺の故郷には鉄道其の物が無い、車で行っても熊本駅迄は四時間は係る、かえって船で長崎へ渡った方が早い港迄行くのに一時間、フェリーに乗って一時間其れで鉄道に乗り換える、電車じゃ無くて気動車だが…、勿論今は電車ですよ念の為。


 弟は全く興味無いだから付いて来なかった、何時もベッタリ付いて来る此の子だけが付いて来た、勿論鉄道に興味在る筈も無いから仔犬のように付いて来ただけ。


 程無くして電車が通過する、通過する普通電車に向かって大きく手を振ってる、運転士が手を振り返して呉れ気を良くした様で、通過する電車に手を振ってる微笑ましい光景…。


 只俺の見たかったのは是じゃ無い、釜が見たかったのだ、釜?、そう思われて居るだろう、要するに機関車だ、当時或る家電メーカーの商品のオマケにSLのシールが付いて居た。


 そのシールを集めて居たが、俺が三つに為る前にSLは淘汰され本線上には存在しない、物心つく前に乗せて貰った事は有るらしいのだが、全く持って記憶が無いし其れ以降は鉄道すら無い所で育った、だから機関車が見たかったSLでなくても良いから、今日の目的は貨物列車かブルートレイン、鹿児島本線を走る釜を観たくて。


 暫くして<EF81>に引かれて貨物列車が通過する、其の後に<DD51>に引かれた貨物列車が通過した、此れで八割は目的を達成した寝台特急も見た、しかしブルートレインを見て居ない、此処を特別な物が通過する筈、非電化区間を走れる奴が…。


「兄ちゃん帰ろう?、いっぱい見たよ?」

「ゴメンなもう少しだけ待てるかな?」

「兄ちゃんおんぶ!、おしっこ!」

「おんぶして上げる、もう帰ろうな。」

「うん!」


 そう言いにっここり笑顔を向けられる、此れをやられたんじゃしょうがない…。


 今日は福岡の叔父の家に来ている、初めての子供が生まれてお袋を実の姉の様に慕って居るし、家族として育った仲だ見たいし、見せたいから此処迄来た勿論挨拶も赤ん坊の顔も見た、大人の話が始まり抜けて来たんだ、弟は地元では見れないキー放送七局プラス地元放送に驚きTVに釘付け、俺は鉄道、何方も興味は無いが妹は俺に付いて来た勿論大人の話など聞いてもつまらないから…。


 流石に飽きたのだろうから帰りたくなったしトイレも行きたいから愚図り始めたんだろう、まぁ、大体見れたから良いか、背に乗せ引き返し始めた線路が鳴って居る、そして大排気量のディーぜルの音が響いて来た、立ち止まり振り返る…。

「来た!」

「兄ちゃんどげんしたと?」

「一寸だけ、此れだけ見たらすぐに帰るから!」


 ノッチを上げたのだろう、更にエンジンが唸りを上げた、蒼い客車を引き連れソイツガ姿を現す、非電化区間を走る為に特急色に塗られたソイツ、ブルートレインの先頭に立つために特急色に塗られた<DE10>V型12気筒、61,000㏄のインタークーラー付きディーゼルターボの咆哮を上げて通過して行った…。


「バイバ~イ!」

 背中の方から大きな声が聞こえて来る、手を振って居るのだろう俺の背で体が左右に揺れている、最後尾の幕を見届けて歩き出す。


「帰ろうな」

「ウン!、兄ちゃんおしっこ!」

「なら急ごう!」

 叔父の家に向けて駆け足位の速さで歩き出す、念願の物が見る事が出来た俺の実家の方には鉄道は無い、公共機関はバスしかない、だから自前の足が必要に為る自転車の次は原付、そして車へと変わって行く、だからバイク所謂自動二輪の需要が無い様な所。


 俺もバイクに乗るとは此の頃夢にも思って居なかった、まさか仕事にする等とは此の頃思っても居ない…。




「バイバ~イ!」

 そう言って電車と機関車に手を振って居た子が居た。


「バイバ~イ!」

 そう言って手を蒸気機関車に振って居た子を15年後に見た記憶が有る、其れからだけでも25年の月日が既に流れて居るんだなもう…。


 SLを追って終点の駅迄其の子達を連れて行く、寒い日もう直ぐ雪に為りそうな日の事、転車台に乗るSLを見に行くと、その子を覚えていた機関士さんに声を掛けられて招きされる。

「お嬢ちゃん達寒かっただろう?」

「寒かったです!」

「そうか此れ食べて温まりなよ!」


 そう言われ手渡される、アルミホイルに包まれた物を手渡される。

「是はそん所其処らじゃ買えないぞ、其れ食べて温まるんだぞ、なんたって是デゴイチの釜で焼いた特製の焼き芋だ、何処にも売って無いからな!」

「ありがとうございます。」

「風邪引くんじゃ無いぞ!」

「有難う御座います!」

 俺とモドキもそう答えていた。


 二人の頭を撫で駅の中に消えて行かれた、二人の仔猫モドキが嬉しそうに笑って食べて居たんだ、アイツにそっくりな顔をして…。



「さて行くか、そろそろ良い時間だ!」

 エンジンを掛け次の現場に向けて走り出す、今日の残りの作業予定では何時も通りの帰宅時間に為るのは間違い無いしな…。


「久しぶりに観に行って見ようか…、あの光景を…。」

 決して戻れぬ一方通行、其れが此の人生と言う道なんだ数え切れぬほどの分岐点、其れを選んだ結果が今此処に居る俺の辿り着いた場所、偶には振り返っても良いのかな。


 偶にはあの頃を…。

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