第3話 あれから…
「参ったな近くに停められる所が見付からないな。」
在るショピングモールに来ている、入口近くのスペースが無く声を掛ける。
「アレに停めるか?」
入口の直ぐ脇に在る駐車スペースを指差す。
「歩くから良いよ。」
そう人間モドキが答える。<この呼び名は家に来た保護猫を参照下さい>
其処に滑り込む車が有った、若い夫婦と低学年の子供二人、子供は走り回り燥いで居る、夫婦もじゃれ合い走ったりしてる、車にはステッカーが貼られ、ミラーには札も下げられて居る。
其の姿に怒り心頭な俺にモドキが言う。
「アレの意味が解らないんだから、別の意味でそうなんだよ!」
「それで良いのか?」
「怒ってても時間の無駄!」
結局国道を挟んだ駐車スペースの端の方に停めた、結構な高さの階段を昇り歩いて行く、俺は崖みたいな所で遊んでいた、家の手伝いで山も昇って居たから気に為らんし、元気な仔猫モドキは問題無いが、人間モドキはな…。
入口で降ろせば良いだろ?、そう思う方もおいでだろう。
モドキにトラウマが有る、俺が車を停めに向かった少しの間に子供が川で溺れかけた、それ以降は必ず同行する様になって居る、モドキ一人では何か有っても…、そう言う事だ。
人間楽な事を選ぶのは簡単な生き物、そうする為のずる賢さも…。
モドキが言う、
「誰も居なくても上から見てる方が居るんだよ、だからちゃんとしないとね!」
仔猫モドキに何時も言って居た…。
随分昔の事に為るが、未だ仔猫モドキが小さい頃の話しだ、同じ様な事が有り其の時にモドキが言った。
「アタシより必要な人が居ると、其の人が困るでしょ?」
そう、モドキは生まれつき脚に障害が在る、勿論手帳の交付も受けている、俺の車にはステッカーは貼って無い、使うのは年末調整の時に少しだけ戻って来る納めた税金の還付の時だけだ、電車を使わないから受けているメリットは其れだけ。
前に何故だが聞いて見た事が在る、
「アタシ歩けるよ、切らなくて済んだからちゃんと自分の脚で立てるから。」
「短い距離なら良いが、距離が有ると痛むだろ?」
「アタシ補助具使わない、車椅子も必要無いよ、恵まれてるの!」
其の言葉に返す言葉を失った、其れが有って前話の話しに為ったんだ、2キロ位と思った方も居るだろう、敢えて書かせて貰った人間モドキは我が儘何じゃない、自分より大変な方が居る事を判って居る。
いや違うか猫と花の事に関しては我が儘か!、俺が何時も無理を飲まされる!。
なんて事を考えながら階段を昇って居た、そう言えば俺はあんな崖を登って居たんだよな…。
「ココ登るとね?」
「ココが最短だし、ココの上からが一番入る筈バイ!」
道すら無い崖の様な斜面、鉈で張り出す木の枝を落としながら進んで行く、背中には5C2Vの巻物2ケース、電流通過型のブースターと末端用のブースター、前を歩く叔父さんの背には40素子のUHFのアンテナと固定用のサドル、電工ナイフやニッパー等の工具袋、電測計、使うかどうかは上がって見なけりゃ判らないマストと馬が載って居る。
〈此れで解った人は偉い!〉
5メートル位庭木に余裕を持って括り付け、最初の一巻を解きながら60度近い崖を登って行く、途中途中でケーブルを枝に留めながら登って行く、ケーブルの末端に通過型のブースターを接続し、更に新しい5C2V繋いで又登って行く、同じ事を繰り返す、枝、草、虫、蛇、色んな物が出て来る事、まぁ人が入る処じゃ無いからしょうが無い。
身体中、引っ掻き傷だらけ蚊に刺されまくり痒い事、痒い事、二巻目が終わりまたブースターを繋ぎ登って行く、頂上迄はあと僅か、でも更に険しく為る、勾配はと言うより壁!。
三巻目が残り僅かで頂上に到着、アンテナにケーブル、マストを取り付け電測に繋ぐ、大体この方向だろうと先端を長崎県に向けアナログの針が振れるのを見る。
何をしてるんだコイツ?、そう思った貴方、此処は熊本、N〇Kと二局、民放二局しか映らない、TBS系、フ〇テレとテレ朝の混ざった物しか視れません、分り易く言うと日曜夕方<お魚咥えた…>のアニメが終わり、<サヨナラ、サヨナラ!>のロードショウが同じチャンネルで診れて仕舞う、そう巨人戦が視れません、巨人ファンの叔父が我が儘にも視たいと言い、対岸の長崎の日テレ系の電波を捕まえる為に此処迄来たんです!。
アンテナだけじゃ電波が弱い、直ぐ下にブースター、途中で減衰しますから、途中にもブースター、其処までして巨人戦が視たいのか?、確かに俺がバイクを好きなのと何も変らないでしょうかね?、もう三十年余年封印してますが…、何で何時も直ぐに脱線して仕舞うんだ。
ただ、問題は降りなきゃならない、そうです、登るより降る方が何倍も大変、此れで観れると叔父さんは意気揚々としてましたが…。
下を見て愕然とする、
「此処下りるとね?」
「降りんば帰れんよ。」
流石に野生児でも怖い、上る時は上見れば良いから済んだが、下りは崖下が見えて居る。
まだ道でも有れば良かったが、今回切り開いて此処迄来た帰り道など無い、取り敢えず足掛かり、手掛かりに成りそうな物見付けて居りていく、どんな物でも同じ最後まで気を抜かない事、多少勾配に緩く為る処迄後僅か、其れがいけない足をを滑らせ落ちた。
約2m落ちた、唯落ちた所は木の上だったんで擦り剥く程度、木から降りてまた下って行く、暗く為る前に下り切り安心したのか身体が痛い、ぶつけた脚と腕怪我は無く打ち身位、擦り傷多数と言って処だった。
「バカやね、気~付けんといかんとよ!」
「そうやね!」
「怪我は無かとね?」
「無かよ!」
そうこんなもん怪我の内に入らない、風呂に入り傷が染みるが当たり前の風景、風呂から上がり飯食って、もう直ぐ9時、そろそろ行くか。
「そろそろ行くよ!」
「うんいくよ!」
妹に声を掛ける、此の後アニメの映画を見に連れて行くそう約束して居た。
叔父の家に妹の手を引き連れて行くが、延長で巨人戦のが続いて居た、30分だけ延長だったからお菓子とジュース貰って待って居た。
試合も終わり延長時間で決着が付いた、叔父はご機嫌だった。
「ありがとね!、漸く野球が見れたバイ!」
長年夢見た巨人戦が見れたから、今日の手伝いが役に立てたようだ。
「ほら始るよ。」
「見たかったの、此のアニメ。」
例の夕陽の中のオープニング、コメントが終わり本編が始まる。
俺は親に連れられて、映画館で弟と一度見た事が有る、此奴は初めて。
例のカーアクションのシーンが終わり、車中笑いながら主人公と相棒が札束に埋もれてる、そしてドアを開けて偽札がまき散らされて行く、妹は目を輝かせて釘付けだ。
そう<カリオストロの城>、今日山に登らねば見れなかった物だ此処で他の家では見る事が出来ない、今日の手伝いの賜物、眼を擦りながら最後まで見ていた。
船を漕いでいた歩かせるのは無理だろう、背負って家に帰った…。
「そろそろ映画始まるよ?」
「先に行って、アタシは良いから!」
階段を昇り切った処で動けなく為って居た。
「別に俺達が見たい訳じゃ無いから行って良いゾ!」
「アタシは大丈夫だから行きなさい!」
「分かった、行って来る!」
そう言い仔猫モドキ達が駆け出して行く、其れを見送り声を掛ける。
「コ〇ダで珈琲でも飲みに行くか?」
「シロノワール!」
「分かった、背負って行くか?」
「んな恥ずかしい事出来る訳無いでしょ!」
「そうか?、俺は気に為らんが?」
「空気読め無いの?、アタシが恥ずかしいの!、だからカ〇ゴンなの!」
ならばしょうが無いか…。
「動けるか?」
「もう大丈夫!」
そしてゆっくり歩き出す。
「バイクならば停める場所なんて困らないのにな…。」
「今、何か言った?」
「嗚呼、映画に間に合ったのかなって?」
「ふ〜ん、何か言えない事考えてるね?」
「何時に為ったらあんな馬鹿が居なく為るのかなってな。」
「そうだね、本当に必要な人が困るよね…。」
「嗚呼、早くそう成れば良いな。」
「帰りは車を取って来るから、出口でアイツ等と待ってろよ。」
「ウンッ!、助かる!」
ゆっくり歩き出す、本当はお前が必要な場所の筈なのに、意地さえ張らねば直ぐ傍迄連れて行けるのに…、二人ならバイクで傍に停める事も出来るのに、俺がポンコツに為って仕舞ったから叶う日が来れば良いのだが…。
そう此の思いは、三十余年封印した侭…、あれからもうそんなに経って仕舞ったんだな…。
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