第2話 幾らでも…
「参ったな…。」
公営の駐車場は既に満車、少し離れた所は未だ空いて居るが、此の炎天下を歩かせる訳にも行かないしな、まあ良いか俺が歩けば良いだけだし…。
「其処で降ろすから、アイスでも買って待ってろ!」
「何?、此の炎天下に待たせる心算!」
「だったら後で追いかけるから先に入ってれば良いだろ?」
「だったら近い処が空く迄待てば良いじゃない!」
確かにな…、あのサーフィンしてる連中はもう直ぐ潮目が変わるから帰るだろうし、少し待ってれば良いか、今の内に飯食わせて置くのも手だな中で食事は高く付くし、幸いにして此の車ダブルエアコンで中に居れば涼しいし、中に入るのは昼廻ってからでも良いか…。
「じゃあ先にアイスでも買って、海でも眺めてるか!」
「やったー!」
後ろで歓声が上がる、一番下のチビは何だか分かって無い様だが、姉が浮かれて居るのに釣られて笑ってる、久し振りの海だ一番下のチビは初めての海、海無し県の悲しい所…。
自宅を出たのは明け方の五時前、到着時間考えて随分早く出た、開園は午前10時、未だ東関東道が出来る前、江の島か此方か迷って最終的に此処にした、此処は大洗、目的地は大洗水族館。
開園前に到着してゆっくりする心算だったんだが、少しうねりが出て波が立って居る、連中にすれば絶好の浪日和だ、早朝より駐車場は略満車、上の子は良いが一番下は未だ三つ、空きの在りそうな駐車場からは粗二キロ、外気温は既に35℃近い海風が入るから体感的には少し下だと思うが、こんなチビを歩かせる訳には、後人間モドキにも無理はさせられ無いか…。
仔猫モドキ達の手を引き、アノ不自由な脚で歩かせる訳にもな…。
たかが二キロ俺ならそうだ、10キロ位炎天下を歩く等何時もの事で、全く抵抗が無かったと言うより、其れが当たり前だった、麦わら帽子を坊主の頭に被り、ランニングに短パン、運動靴、乗用車なら未だしも、軽トラ、軽バンにAC等有る訳も無く窓全開。
軽トラなら風が当たる荷台に乗って移動する、仮に駐在さんに見付かった所で荷台から手を振れば、振り返して呉れるそんな地区、事件や事故も無く犯罪が粗皆無、他所ん家の山に生ってる枇杷を喰って親に怒られ謝りに行く位が良い所、そんなもんだ、野生児には自生して居る物なのか、植えてあるもんなのかの区別なんか無いから気にしちゃいない。
勿論外出時に鍵を掛ける習慣も無い、玄関にカギを掛けるのは夜寝る時位だが、蚊帳を吊って窓全開、鍵なんて無用な長物、役に立つのは台風で厳重に戸締りする時位しか使いやしない…。
勿論此処関東ではそんな常識通用しない、最悪自身の命の危険を晒すだけでしか無いからな。
「そら着いたぞ、冷たい物買って来い!」
「何で行かないの?」
「直ぐに行く、此の炎天下で停めとくと直ぐに蒸し風呂に成るから、準備して行くよ!」
<ターボタイマーのセットを15分にして>と…。
リモコンスターター兼用のターボタイマーの時間を最大に15分にセットして、ドアをロックする、向うじゃロックすらして無かったよな…。
海が眼前の少し離れた空いたコンビニに入った、海が見えるから仔猫モドキが退屈しないだろうし、少し離れてはいるが人間モドキは此の少し先の生れと育ち懐かしい海だろう…。
「待たせたな、好きなもの買ったか?」
「うん!、アイス買って貰った!」
「ヨッピも買って貰った!」
「ウーちゃんも!」
ニッコリ笑ってた。
「俺も飲み物買ったら直ぐに戻るから先に戻ってろ。」
そして自動ドアを出て行ったタイミングで、ドアロックを解除する、シフト操作しない限りエンジンは止まらぬように細工して有るから…。
「本当に遠い所まで来たんだな俺は…。」
ロックの解除位でそんな事を思って居た、飲み物買って直に戻る、二列目を回転させ、三列目をフラットにする、リアのウインドから良く海が見えるからモドキ共がはしゃいで居る特に一人は懐かしい太平洋が見えるから、本当に嬉しそうに…。
「良かったな此処に来て…。」
運転席で買って来た物を呑んでいた、此のはしゃぐ声、何時か、遥か昔に此の声を聴いた。
顔も声もアイツにソックリな奴が後ろではしゃいでる…。
「兄ちゃん涼しかね!」
「ちゃんと捕まらんとおっこちるぞ!」
八つ違いの妹に声を掛けていた、家を出る時から既に水着、お腹には浮き輪、車体のフレームに当たっても痛くない様に、何で痛くない様にって?、其れは今軽トラの荷台に立って居るから、直線距離なら100m切って居るが、落差だけなら200m位有る粗崖と言っても良い斜面を下って行くんだ、勾配は20%位有る此処をジグザグに曲がりながら下って行く。
右手は妹の体を抱える様にフレームを掴み、左手で俺の体を支える、何故か?、ヘアピン処の騒ぎじゃ無い、粗ロック.トゥ.ロック、小型車の最小回転半径並のコーナーを下るんだ、20か所位曲がりながら…、エンジンはローの侭、エンジンブレーキとフットブレーキ使わぬと降りられないんだ。
無事に振り落とされず砂浜に到着、もっと楽に行ける所は有るんだが其処は観光客もいる、此処なら今で言うプライベートビーチみたいな物、何時来ても貸し切り状態、沖へ目を移せばコバルトブルーに為るが、足元は透明度だけで言えば水道水?、嫌もっと綺麗な透明度…。
「兄ちゃん、青と黄色のお魚さんが居るよ!」
「浮き輪離すんじゃなかとよ!」
「ここんとこに、赤いお魚さん、こっちは緑のお魚さんがおるよ!」
「戻って来れるとね?」
此の声掛けで自分が夢中に為って、足の立たぬ所に居る事に漸く気付く。
「動かんよ、兄ちゃん助けて!」
「しょうがなかね!」
未だ10mも沖に出て無いんだよな…。
其の侭飛び込み浮き輪を引いて戻る、危険じゃ無い事は十分承知の上、遠浅で其処迄言っても俺の胸迄来るか如何かと言った深さ、潮の流れで今で言う離岸流の派生箇所も解ってる、其処だけ波の引き方が違うし、海藻等が曳かれて行くのも見えて居る。
綺麗で遊ぶ事に夢中に為って流される、綺麗だが怖い物だと判らないといけない、地元の子供でも数年に一度位は亡く為るんだこんな穏やかな海でも、綺麗で、楽しい所、でも危険も同居する、其れが海だから…。
「兄ちゃん手を離さんといて。」
「はい、はい判りました。」
「ハイは一回だよ!」
「海に入るね?」
「もうよかよ!」
「じゃあ、あっちに行かんね?」
「恐くなかね?」
「磯の上やけん、恐くなかよ!」
手を引き連れて行く、簡単に言うと磯に出来た水溜り、引き潮で取り残された者が居るから。
「ほらおったばい!」
「かわいかね!」
眼の前には、白に紫のラインが入ったウミウシ、此方ではアメフラシでしたっけ?。
「そこんとこ、橙色のお魚さんおるよ!」
「ああ、確かクマノミだっけ?」
「小さなお魚さんがおるよ!」
「捕まえてみんね?」
「つかまえる!」
結構逃げ足が速い奴だな?。
「兄ちゃん捕まえて!」
「分かったよ。」
二回失敗、三度目の正直!
「ほい!」
「これなんてお魚?」
「是はだな…。」
其の時声が掛かる。
「もう帰るぞ!」
「ほら帰るってよ。」
「うん、お魚さんバイバイ!」
行きと違い帰りは登り、万一にも落っことして怪我でもさせちゃ為らないから、妹は助手席、俺は荷台、ケツのアオリに背を預け今迄居た海を見下ろして居た、海底に沈む岩肌の模様迄見える海、視線を沖に移動して行くマリンブルーからコバルトブルーへ継ぎ目なく変化して行く、少し丸く見える水平線、其れを眺めていた…。
「地球は丸いって本当だな…。」
何も遮る物が無い東シナ海、沸き立つ入道雲、そして少し上から始まるスカイブルー、本当に綺麗な海だよな何時見ても…。
荷台の上に乗りそんな事を考えて居た、何も声が掛からず静かにしてる、寝て仕舞ったんだなあれだけはしゃいで居ればしょうが無いか…。
2Stのエンジン音、騒ぎの様な蝉の声、後終わる事無き波の音、人工物の音は此の軽トラが喘ぐエンジン音だけ、しょうが無いかずっと
「本当に綺麗だ…、何時見ても此の海原は…。」
誰に聴かせる訳でも無いのに零れていた…。
「ねえ!、ネエってば?」
「如何した?」
「あのおさかなさん、なんてお名前なの?」
「アレは蝶々魚って言うんだよ!」
「ちょうちょさん?」
「そうだね、あのお魚さん好きかな?」
「かわいくて大好き!」
「見れて良かったね?」
「うん!」
「みて!、あっちに青いお魚さん!」
「そうだね!」
そう言い其の水槽に走り出して居た、人間モドキと仔猫モドキ、熱帯魚に魅入られていた。
やはりモドキだから魚に目が無いのか…。
「是なんてお魚?」
「是はだな…、蝶々魚って言うんだよ。」
「もう帰るぞ!」
そうだよな、あの時妹に手渡して、帰る時に海に帰して上げたのは此の蝶々魚、今じゃ水槽越しでしか見られない、此の手に触れ見せて上げて海へ返した魚…。
「今じゃ触れる事すら出来ないんだな。」
聴く者も居ないのに言葉が零れていた、そうなんだよな此れが今の現実なんだ…。
「何やってんの?、次に行くよ。」
「慌てるなよ?」
「ショーが始まるの!」
「何だい?」
「イルカのショーなの!」
「分かったよ直ぐに行く…。」
そう、沖に幾らでも居たんだイルカなんて、何時でも其処に行けば…。
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