御伽噺異聞:王族のやんごとなき秘事(ソフト版)

のいげる

王族のやんごとなき秘事

 三日月が夜空に細くかかるそのときに、ここに集いたる七人の語り部、決して昼の間には語ることのできぬ物語を語る。

 そは王たちの秘めたる所業。決して子供たちの耳には入れてはならぬ真実。



第一の語り部】王様の秘密


 王様が最初にその喜びに気づいたのは、少年時代の月に一度の湯あみのときだった。


 お付きの女官の視線が気持ちが良い。


 人の中には自分の裸を見られることに興奮する趣味の者がいるこを知ったのは、もっと大きくなってからのことだった。

 すぐにこの秘密の趣味はエスカレートした。

 寝ている間に脱げたかのように装って、下半身を裸にする。そうしておいて起こしに来たお付きの者に見せつけるようになったのだ。

 見る人間は男でも女でもどちらでもよく、さらに年齢に関わりないことを知った。つまり誰でも良いから見られたいのだ。

 裸体というものはそれ自体が美しい。布切れで隠すことに意味はない。そう達観するのにも長くはかからなかった。

 王に即位したときには宮殿中の人間がやたらに脱ぎたがる王の趣味に感づいていた。だが決して口にはしなかった。

 一つは王様には守らなくてはならない尊厳というものがあり、もう一つは前王の死にかなり不審な点があったためだ。特にその謎の死の前日、王子の性癖に対して父たる王が苦言を呈していたことを、全員が覚えていたこともある。


 人の欲望は必ずエスカレートする。

 王に即位後、王が全裸で王宮内の廊下を練り歩く姿がしばしば見られたが、ただそれだけではもう王は満足できなくなっていた。

 もっと大勢の人々に裸を見られたい。それだけが目的となっていた。

 じきに王様は真夜中に覆面をして全裸で王都を彷徨うようになった。何度も王様の正体を知らない衛兵に追われたが、いづれも危うい所で露見を免れることができた。


 やがて、それですら満足できなくなった。

 老若男女総ての人に見られることができたらどれほど素晴らしいことだろう。夜ではなく白昼堂々大広場で全裸を晒したらどんなに気持ちが良いだろう。

 だが、愚かな王を許容する国民でも、変態の王を許容することはない。

 そして国民に笑われたら、王の立場は危うくなる。軽蔑は反乱に繋がる。


 何か良い方法はないか。

 偉い学者を秘密裡に王宮に呼びつけて相談したことがある。王の勅命に緊張して駆けつけたその学者は、この相談に困惑してから一言だけ答えた。それは無理ですと。そして首から上を失って戸板に載せられ家に帰る羽目となった。

 占い師を密かに招いて尋ねたこともある。我が望みは将来に叶うのかと。占い師はしばらく目を閉じていたが、くすりと笑うと王の願いは叶うだろうと答えた。それはどうやってと問うと、分からないと答えたので、自分を笑った代償にやはりその首も落とすことにした。


 日が経つにつれ王の悩みは深まった。


 ある日、その解答が向こうからやってきた。

 その男たちは煌びやかな宮廷衣装に身を固め、王に謁見を求めて来た。

 我らは素晴らしき腕を誇る王族専門の仕立て屋なり。王に相応しい衣装を仕立ててご覧にいれよう。

 それはどんな衣装かと王が尋ねると、宮廷仕立て屋たちは優雅なお辞儀を一つしてから答えた。


「我らが作る衣装は魔法の衣装。すなわち、愚か者の眼には決して見ることができぬ衣装に御座います」


 この素晴らしい解決案に王はにんまりと笑った。国民はこの王を愚かと笑うに違いない。だが変態だと気づくことはないだろう。

 魔法の衣装のお披露目には王国中の人々を動員することにしよう。



第二の語り部】白雪姫


 王都の共同墓地から夜な夜な新しい死体を掘り出して遊んだのはやりすぎだったな。森の中を白馬に乗って進みながら王子さまは思いました。

 カンカンに怒り狂った父王から、ほとぼりが覚めるまで帰って来るなと自分磨きの旅に放りだされたのはもう何か月も前の話だ。

 護衛すらつけてくれなかったのは旅先で死んでも構わんということを暗に告げられたことになるが、それでも路銀だけはたっぷりと与えてくれたのはさすがに親心というものか。

 これほどの目に遭っても欲というものは枯れぬもので、行く先々でこっそりと墓を掘り返しては若い女性の死体を手に入れて遊んでいた。

 この性癖では関係が長く続くと臭い仲になってしまうので、無論どれも一夜限りの関係にした。避妊もしないのは無責任な行為だったが、深くは考えなかった

 その日行き着いた森の中には開けた場所があり、そこには小ぶりの家が建っていた。このような辺鄙な場所に家がと驚き、馬を降りて中を覗くと、そこはドワーフたちの家だと分かった。

 古い鉱山道具に、どれも小ぶりの家具。家は小さいが台所の食器の数を見ると大所帯と見えた。

 奥の部屋に続くドアがあり固く閉じられていたが、何も考えずに王子はこの扉を強引にこじ開けてしまった。墓掘りで鍛えた腕力は伊達ではない。

 部屋の中にはガラスの棺があり、その中に今まで見たことのないほどの美しい女性が眠っていた。

 金の川が流れているかのような滑らかな髪。輝くようなと表現したくなるほど透き通って滑らかな白い肌。神が作りたもうたような見事な顔の造作。薄い衣の下に透けて見える彫像を思わせる完璧な肢体。

 閉じた目から美しく形のよい睫毛が生えている。それはまるで今にも開きそうな危うげな雰囲気を醸していた。

 しばらく女性を見ていて、王子はあることに気がつき、衝撃が走るのを感じた。

 呼吸をしていない。この女性は驚くべきことに死んでいるのだ。

 今までみたどれよりも素晴らしい輝く美しき死体。彫像の王女。

 もう衝動を止めることはできなかった。ガラスの棺を開き、その体を抱き起す。

 すでに死後硬直の時期は過ぎているのか、その体は柔らかかった。まるで今死んだかのように死臭はしなかった。

「婚約の印に」

 一言つぶやくと王子様は白雪姫に口づけをした。

 何かが王子の口に滑り込み、蠢いた。王子はそれを慌てて吐き出した。

 王子の舌にきつい苦みを残したそれは、床で蠢く赤い何かの欠片とみえた。呪いのかかった毒リンゴの欠片だとは誰知らず。

 その直後、白雪姫が微かな息を吐き戻すと、蘇生した。


 仕事から帰って来たドワーフたちを説得するのには長い時間がかかった。

 父王を説得するのにはもっとかかった。だが生きた女性を妻として連れ帰ると聞き、父王の態度は軟化した。すでに王子の悪い噂は権力を使ってもみ消してあった。

 白雪姫本人は彼女を殺そうと狙っている継母の殺害を約束することで説得できた。


 王子と白雪姫の結婚式は王国中を震わす大イベントになった。


 残る問題はガラスの棺を譲り受けることだけだったが、ドワーフたちはそれには抵抗した。これはドワーフたちの努力の集大成だったし、複雑な魔法がかかっていて、中の死体を新鮮なまま保てるという他にはない優れ物だったからだ。

 なによりその棺をどうするつもりなのかという言い訳がつかなかった。

 王子が護衛代わりに口の堅い裏社会の連中を連れて来ていたのは僥倖だった。


 最後の問題は父王だったが、これは毒の杯で簡単に解決した。王の警護は厳しいものだったが、身内の犯罪は想定していなかったため隙があったのだ。


 こうしてすべての準備は整った。

 ある日、白雪姫は自分の寝室に例のガラスの棺が安置されているのに気付いた。そして今や王となった王子が政務から帰って来ると白雪姫に向けて微笑んだ。

 今夜から君と僕との本当の初夜が始まるのだよと、優しい笑みを浮かべたままで王子は言った。



第三の語り部】シンデレラ


 時計塔が十二時の鐘を打ち始めると、引き留める間もなく、その美女は舞踏会から逃げ出してしまった。

 人目も気にせず彼女を追った王子の手に残ったのは美しいガラスの靴が片方だけ。

 右側の靴だ。

 深い失望感が王子を襲った。王国中をすべて引っ繰り返してでも、彼女を探し出す。そう誓った。

 次の日にはさっそく王国にお触れがでた。王子がついに女性を見初めた。このガラスの靴を履ける女性を探している。見つけだせば婚礼の儀となる。あらゆる場所あらゆる人々にそう告げられた。

 大勢の女性がお城を訪れガラスの靴に挑戦したが、誰一人その靴を履ける人間はいなかった。焦った王子様は今度は王国中の家を一つずつ丹念に調べ始めた。年齢関係なくあらゆる女性が調査の対象となった。王子さまが直々にガラスの靴を履かせるほどだった。

 ある田舎の中流家庭を訪れたとき、その家の女性たちはすべて不合格だった。娘たちはガラスの靴を履くために足先を切り落とすまでしたが、それでもガラスの靴は履けなかった。

「これでこの家の女性は全員か。隠し立てすると大変なことになるぞ」衛兵が尋ねた。

 強く脅されて継母はつい喋ってしまった。

「まだ一人、家の奥に一人だけ、小間使いが隠れています」

「連れてこい」

 見すぼらしい服を来た小間使いが連れて来られると椅子に座らされ、王子自らがガラスの靴を履かせた。ガラスの靴はしっかりと隙間なく彼女の足に嵌った。

「おお、あなたがあのときの彼女なのか。間違いない」王子は感激して叫びました。

「一つ聞かせてくれますか?」

「はい。何でもお尋ねくださいませ」シンデレラは答えた。

「左側のガラスの靴はどこにあるのですか?」

「ここに」

 シンデレラは竈の灰の中に隠していたもう片方の靴を取り出して来た。

「おお、これだこれだ」

 王子はシンデレラが取り出したガラスの靴を取り上げた。そのままガラスの靴を胸に抱えると、シンデレラを放置したまま王宮に帰ってしまう。

 夢にまで見たガラスの靴の左側だ。馬車の中で、王子はその靴に頬ずりした。誰も見ていないことを素早く確認するとガラスの靴の底をベロリと舐めた。

 もはやシンデレラの事など完全に忘れてしまっていた。

 すぐに王宮の自分の部屋に戻り、コレクションを収めてある煌びやかな宝石付きの飾り棚に向かう。その棚の中はあらゆる女性の履き物で一杯だ。そしてそれらはどれも左側の靴だけだった。

 その中央に場所を作ると手に入れたガラスの靴を安置する。

「ああ、君は何と美しいんだ」

 陶酔した目をした王子は呟いた。世の中にこれほど蠱惑的な靴があるとは想像もしなかった。

 王子の意思は固かった。そもそもあの舞踏会は王子の結婚相手を探すためのものだったのだから。


 結婚式は豪華なもので、しかも驚愕に満ちたものであった。

 父王がすでにボケていたという事情はあったものの、この結婚式に廷臣たちが誰も反対しなかったのは驚きであった。

 それほどこの国は腐りきっていたのである。

 厳かな結婚式の後に盛大なパレードが開かれ、王子とその新しい花嫁たるガラスの靴(左側)は二人して王都中を練り歩いた。このきらきらと輝く美しい花嫁の姿にはあらゆる国民が惜しみなく喝采と称賛を捧げた。


 王国の世継ぎができる日もそう遠くはないだろうと巷では噂されている。



第四の語り部】ラプンツェル


 塔の中に黄金色の綺麗な髪をした美女が閉じ込められていると聞き、いてもたってもおられず、王子はあらゆる苦難を越えてその塔を探し出した。

 入口の無い塔の上階の窓から素晴らしい髪を長く垂らした美女を見て、王子は狂喜した。長い間探し求めたものについに出会ったのだ。

 それでも塔に入る方法が見つからないので途方に暮れた王子が茂みに隠れて見ていると、老婆が一人やってきて歌を歌った。

「おお、ラプンツェル。ラプンツェル。その髪を垂らしておくれ」

 すると美女の髪がするすると伸びてロープのようになり、老婆はその髪を伝って塔へと入った。しばらく待つ内にまた髪が伸び、老婆がそれを伝って降りてくるとどこかに出かけて行ってしまった。

 王子も老婆と同じように塔の下に立ち、歌を歌ってみた。

「おお、ラプンツェル。ラプンツェル。その髪を垂らしておくれ」

 すると美女の髪が伸びて来た。千載一遇のチャンスとばかりに王子は剣を抜くとその髪を半ばから切り落とし、悲鳴を上げるラプンツェルを残したまま逃げだした。


 美しく滑らかな黄金の髪。王子が夢に見たような最高の髪。官能の化身たる髪。

 宮殿に戻った王子は毎日その髪に頬ずりして過ごした。

 最後には黄金の髪で下着を作り、いつもこっそりと着用するようになった。愛する髪にいつも包まれて王子は幸福の絶頂にいた。

 だがどんなことにも限界がある。やがて黄金の髪からは滑らかさが消え、枝毛が目立つようになってしまった。表面からはキューティクルが剥がれ、もはや煌めく芸術品では無くなってしまった。肌ざわりもぼそぼそしてちっとも楽しくなくなってしまった。


 新しい髪が要る。

 王子はそう決心した。ラプンツェルを誘拐し、カゴの鳥とするのだ。王子のために毎日新しい髪を生やさせるのだ。

 あの流れるような美しい髪がこれからはいつまでも王子のものだ。その想像に王子は奮い立った。天国への門はすぐそこにあった。

 王子は再び塔に赴き、老婆がいない隙に歌を歌った。

「おお、ラプンツェル。ラプンツェル。その髪を垂らしておくれ」

 すると塔の上からするすると髪が伸びてきてロープとなった。王子はそのロープを登り始めたが、途中まで登った所で髪のロープはうねり、王子の首に巻き付いた。

 美してくて、滑らかで、魅惑的で、そして致命的な死の罠。ラプンツェルもその魔法の髪も、以前の王子の行いを許してはいなかったのだ。

 そのまま塔の窓からは、魔法の髪の力で永遠に腐らない王子の死体が首を吊られたまま、いつまでもぶら下がっていました。

 今ではラプンツェルを訪ねる者は誰もいません。



第五の語り部】眠れる森の美女


 最初は相手となった女性の眼が怖いだけだった。

 自分を見つめる瞳の中に虚無の空洞が見えてしまったように思えたのだ。だがその内、相手の総てが怖くなった。

 見られる恐怖。

 触られる恐怖。

 語りかけられる恐怖。

 すべてが怖い。

 王子はついに生きている人間すべてが怖くなってしまった。王城に無数にある塔の一つに閉じこもり誰とも会わぬ日々が続いた。


 これでは王家が絶えてしまう。王様は解決策を探して国中の賢者を招聘した。

 そんな中、賢者の一人が提唱した。

「王様。実は解決策に心当たりがあります」


 それは伝説の城の話であった。


 魔法のつむぎ棒に刺されてしまい姫さまは眠りについてしまわれた。そのときより強い呪いの力により城のすべての住人は同じように眠りについてしまい、城は茨の藪に囲まれて封鎖されてしまった。

 姫を呪いの眠りから覚ますのは王子様の熱いキスだけ。

 伝説はそうなっていた。


 多くの密偵が雇われ噂が集められた。

 多くの冒険者たちが王国の国境を越えてあらゆる場所に派遣された。

 やがて伝説の城の位置が発見され、大規模な攻略部隊が送り込まれた。

 城を囲む魔法の茨は切っても切っても再生して襲ってきたが、丹念に炎で焼き払い続けると漸くに枯れ始めた。扉と城壁はすべて爆破して通り抜けた。ピクリとも動かずに眠り続ける城の住人は完全に無視して、城の奥の部屋で眠り続ける美女を攫って来た。


 王子と眠り姫の結婚式は王国中を挙げて盛大に行われ、結婚の誓いの眠り姫のパートは姫の寝言で代弁された。



 やがて、今や眠れるお姫さまから眠れる王妃さまとなった彼女はそのために用意された豪華な寝室に鎮座されたとお話をいたしましょう。

 二人して誰にも会うことの無い生活が始まります。

 仲睦まじい二人の結婚生活は順調で、やがて二人は多くの可愛い子供たちに恵まれました。子供たちは生れるとすぐ二人の愛の巣から外に出され、祖父母である王様と王妃様が育てたのです。

 王子は最後まで眠り姫にキスだけはしませんでしたので、結婚生活が破綻するようなことは起きず、二人は末永く幸せに暮らしたと伝えられています。



第六の語り部】王様とノミ


 食べること。寝ること。遊ぶこと。命ずること。恐れらること。感謝されること。尊敬されること。軽蔑されること。愛すること。望むこと。満たされること。

 この世のあらゆる快楽を味わい尽くし、やり尽くした。


 王様は心の底から退屈していた。


 そんなある時、王様の腕をノミが食った。宮殿にノミが居ることは稀だったので、これは初めてのことだった。

 ノミの噛み跡を掻いた王様はその快感に身もだえした。痒くてたまらない所を掻きむしる。これほどの快楽がまだこの世に残っていたのかと目からウロコが落ちる思いであった。

 宮殿中からノミを集める命令が出され、ようやく見つかった十匹のノミを王様は自分の衣服の中に滑りこませた。

 あちらこちらを噛まれ、いきなり生じる強烈な痒みとそれを引っ掻く喜びが王様に満ち溢れた。うんざりしていた毎日が刺激に満ちた輝ける日々へと変貌した。

 いつどこが痒くなるのかが分からない。次々と起こる新しい痒みをバリバリと掻きむしるとその一掻きごとに湧きおこる快感が鮮烈な幸福を約束した。

 王国の会議の最中にも、他国の親善使節との会見の最中にも、王様は体を掻きむしり呻き続けた。その全身は瘡蓋に覆われ、見るも恐ろしい形相になったが、そんなことは代償に与えられる快楽に比べれば些細なことであった。


 だがそんな快楽も物足りなくなる日がやってきた。こうなるとすべての人間と同じくその行為はエスカレートする。


 ただちに御触れが出され、王国中のあらゆる所からノミが集められた。一匹につき、金貨一枚。王国の金庫に強烈な打撃を与えながら、大量のノミが集まった。

 宮殿の一室を封鎖して、その中にノミのプールが作られた。黒と茶色の飢えた大海がその部屋の中を半分まで満たした。

 そして全裸となった王様はその中に身を投じた。


 すべてを見届けた後に、大臣は部屋の封鎖を命じた。その部屋の中から快楽の呻き声が微かに漏れ出てきたが、それは無視するように命令した。

 それほど待つことなく、ドアを内側から弱弱しく叩く音がしたが、それも無視された。その音さえも聞こえなくなると、誰も出て来ることができないようにモルタルで部屋は固められた。


 それから大臣は城の外の謁見台に立った。

「国民に継ぐ。王様は身罷られた。王様の遺言に従いこれより我が王国は共和制に移行する」

 すべての大臣が会議に参加し、これからの協和国の行く末を話し合った。

 まず第一に決定されたのは、王国中からすべてのノミを駆除することだった。



最後の語り部】王様の耳は


 ある日起きて見ると王様の耳は立派なロバの耳になっていた。

 上から見ても、下から見ても、前から見ても、後ろから見ても、それは立派なロバの耳だった。

 王様は必死の努力で自分の耳を隠して日々を送っていたが、ついにその精神に限界が来た。

 思い余ってすでに引退している実の母に相談した。おずおずと被っていた帽子を脱ぐと、母の眼にその立派なロバの耳をさらした。

「あら」母は僅かに驚きながら王様に言った。「あの『人』そっくりの立派な耳」

「父王もロバの耳だったのですか!?」王様は驚いて尋ねた。

「オバカさんね。そんなわけないでしょ。あたしの可愛いロバ耳ちゃん。これは秘密だけどあなたは王様の子供じゃないのよ。

 いったい何と浮気をしたのかですって?

 そうよ、あなたの想像通りよ」




 全ての物語を語り終えると七人の語り部は焚火に砂をかけながら立ち上がった。

 リーダーと思しき一人が言った。

「いつの日か、これらの物語が大手を振って笑いと共に受け入れられるその日まで、我らは生き延び継がねばならぬ」

 それに応えて残りの語り部が唱和した。

「黄金の日々のために」

「さあ夜も明ける。また来年のこの日まで。王様の魔の手を逃れて皆生き延びるのだぞ」

 最後の熾火が消え、後には空虚な闇だけが残った。

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