【10】
億岐 虎辰が目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。
ぼんやりと映る視界に、覗き込む顔が一つ。
「何だ。目を覚ましちゃったんですか。残念です」
その可愛らしい顔が、ニコリと歪んだ。
虎辰は冷静に返す。
「誰の薬の副作用でこんな風になったと思ってんだよ。それが被害者にかける言葉かぁ?」
「そうですね。だからこそ死んで欲しかったんです。死んでそのまま私の医療ミスが闇に葬られる事を期待していました」
「悪魔みてぇな事言うよな。お前……」
「何を言ってるんですか。こんな天使みたいな子、捕まえておいて」
「お前が天使みたいだったら、こんな事にはなってねぇよ。あー……頭痛てぇ……」
そうボヤくように言いながら、頭を押える虎辰。
そんな彼の様子を見て、王子が言う。
「次からは、頭痛に効く鎮静薬も混ぜてみましょうか? そしたら、限界以上の【能力】を発揮しても、今回みたいな事にはならないかもしれません」
「お、一応反省はしてんだなぁ? 良い心掛けだ」
「それはそうですよ。今回の薬……あなた以外がもしも飲んでいたら、副作用で死んでいた可能性もありますし。『超能力の底上げ』の薬は、有用だろうと思いますので、突き詰めていって損はないかな、と……」
「それは言えてるなぁ。例えば『ギフト』を貰ってねぇ、Dランカーくらいに渡せば戦力の底上げにもなるし。『
「……はい、そうですね」
ここで王子が切り出した。
「ところで……そちらこそどうです? 『Sランカー』のレクチャーを受けた気分は。敵から塩を送られた気分は?」
「敵じゃねぇって言ってたろ? あの人は……。そもそもオレと万屋は味方同士なんだよ」
「じゃあ……。
最強になるのは――諦めたんですか?」
「いいや」虎辰は即答する。
「諦める訳ねぇだろ。万屋の野郎はいずれぶっ潰して、追い抜いてやるよ」
「……矛盾してませんか? それ」
「何も矛盾なんてしてねぇだろぉが。仲間であり、ライバル――切磋琢磨する関係性! 燃えるだろ?」
「……そのまま燃え尽きて灰になる事を望みます」
「……お前はホント、可愛くねぇ事ばっか言うよなぁ」
「すみませんね。見た目が可愛く生まれちゃった分、性格は悪く生まれちゃったみたいで」
「はいはい。見た目は可愛い可愛い」
軽く聞き流す様子の虎辰。
そんな彼に、『とあるメッセージ』を見せようと、王子はスマートフォンを触り始めた。
そのメッセージ画面を表示させ、「はい、どうぞ」と見せる。
「あん? 何だこりゃ?」
「あなたの仲間であり、ライバルでもある方からのメッセージです」
「メッセージ……?」
王子のスマートフォンには、一言、こう表示されていた。
『やるじゃん! サンキュー!』
と。
怒りに震える虎辰。
「なぁーにが『やるじゃん』だぁ! ふざけんなぁ!! 上からもの言いやがってあの野郎!! いつかぜってぇぶっ潰してやるから覚悟しやがれよ! お前なんか仲間じゃねぇわ!! 敵じゃ敵!! このボケェ!!」
窓ガラスが割れそうな程の大声を上げる虎辰を見て、王子はクスッと笑った。
「はい。メッキが剥がれましたとさ」
「王子!! こんな所で寝てる場合じゃねぇ!! 特訓じゃ特訓!! 次の『団体戦』で、このクソ生意気な女引き摺り降ろしてやるぞ!!」
「阿呆ですか。あなたは」
「はぁ!? 誰がアホだ! 誰が!!」
「あなたですよ。億岐虎辰くん。先生が今日一日は少なくとも安静と言ってました。ゆっくりと休んでください」
「休んでられるかぁ!! こんな症状、お前の血がありゃ一発で治……あ、クラクラする……」
声を上げ過ぎた為、副作用の頭痛がぶり返したのだろう。
虎辰がベッド上でふらついてしまう。
そんな彼を、王子が支える。
「ね? だから今日はゆっくりと休んでください」
そして優しくベッドに寝かせた。
自らの体調を鑑みて、渋々従う虎辰。
「……仕方ねぇな……今日だけ、だぞ」
「……はい。もちろんです。明日から、頑張りましょう」
「くそっ……あの女、次は絶対……ぶっ飛ばして……ぐぅー」
寝た。
「寝付くの早いですね」
怒りのハイテンションからの突然の睡眠。
そのジェットコースターのような、彼の状態の変わりっぷりに笑ってしまう王子。
「よっぽど疲れていたんですねぇ。おやすみなさい、虎辰さん。明日からまた、頑張りましょうね」
寝息を立てて休む虎辰の頭を撫でて、そんな声を掛けた。
立ち上がり、外の景色を見る。
夜である為、既に外は真っ暗だ。
街の灯りや車のライト等が、暗闇を照らしている。
王子は……闇を照らす光が好きだ。
暗い闇を照らしてくれる、眩い光が大好きだ。
「さてと、虎辰さんには悪いですけれど、私は強くなる為に特訓しましょうかね。あなたのように……闇を照らす光になる為に。
私も負けませんからね――人愛」
ライバル――好敵手。
目指すべき存在、辿り着くべき、倒すべき目標がある。というのは幸せな事である。
それが『最強』と呼ばれる相手であるのなら、尚更だ。
何故なら、追い付き追い越す為には、自身もまた『最強』の領域に足を踏み入れなくてはならないからである。
一人では心が折れてしまう壁も、二人でならばぶち壊せる可能性がある。
『強い』から『最強』へ、『最強』は更に『その先の最強』へ。
切磋琢磨とは、そういう事だ。
このように、互いに高め合う事で、彼ら彼女らはより高みを目指せる。
より高みへと……登ってゆく。
その果てで、『最強』の称号を手にするのは誰なのだろうか?
現在『最強』と呼ばれている彼女なのか?
ひたむきに打倒最強を掲げている彼なのか?
はたまた、密かに闘志を燃やしている彼女なのか?
ひょっとすると、ドMな変態が突き抜ける可能性もあり。
よもや、馬鹿が世界を救う可能性すらある。
更に言うと――
まだ見ぬ才能が、日の目を浴びる事があるのかもしれない。
可能性は無限大であり。
未来はまだ、未確定である。
『最強のヒーロー』という称号をその手に掴む為、彼ら彼女らは競い続けていく。
例えその先に――――
如何なる壁が、立ち塞がっていようとも。
ライバルは最強ヒーローの娘――――〈完〉
ライバルは最強ヒーローの娘 蜂峰文助 @hachimine
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