第2話ウェスの探し物

 ハース・メモリア本編もお願い致します。







 中央の大陸、グラナリトスの北側。

 北にある雪の大陸との貿易の要である町。

 イクダック。


 そこにあるマケリテル魔道具店、その店主であるリテルは何やら頭を抱えていた。


 小柄な体に、猫の耳という姿。

 人と魔族のハーフである亜人たるリテルは、そんなに悩むことは少ない。


 長命な種族ゆえ、殆どのことは時間が解決してくれるからである。

 が、今回はそうはいかないようで。


「ぐぬぬ、ぬう!いやしかし…」


 その近く。


 カウンター越しに商品を選びつつ、ため息をついている女性がいた。

 黒い髪に灰色の瞳。

 赤を基調としたジャケットに白いブラウス、黒いロングスカートを着ており、顔立ちは整っている。

 彼女はこの店の常連、お得意様だ。


 名をウェスという。

 火と炉の女神 ウェスタを継ぐ者である。



 今日は屋敷で眠っているある人物が起きた時のためにと、ある茶葉を仕入れに来ていた。


 とはいえ、そのある人物は1年たった今も目を覚ましていないのだが…


「どうしたんですか?リテルさん」


 そんなに聞いて欲しそうな顔をして、とは言わない。


 リテルが先ほどから悩みつつ


 "聞いてくれないかな?"


 とばかりにウェスに視線を飛ばしていたのはバレバレである。


 が、そこは長い付き合い。


 指摘すれば、そんなことないのじゃ!から始まり、ながーい言い訳をかます。

 その後漸く本筋に回帰するのだ。


 毎回そんな事をしていれば、いい加減学ぶという物だ。


 案の定、リテルは顔を喜色満面の笑みとでも言えそうな朗らかな顔になり話し始める。


「聞いてくれるかウェス!いやの、ワシのコレクションの話なんじゃが」


 ウェスは話し半分に聞き流す覚悟をした。


 いつもなら、笑顔で話し始める友人の話は時間が許す限りじっくり聞くウェスではある。


 しかし、リテルのコレクションの話となると話は別だ。


 リテルはコレクションの話を始めるとイキイキする。


 それ自体は微笑ましいのだが、長い。


 なんならそのコレクションを待ってきて、ウェスに撫で心地を確かめさせたり、造形美を共有しようとしてくる。


 ウェスからすれば何度撫でても、見ても、別のコレクションを出されても。

 全て同じものにしか見えない為、いつしか話半分で聞き流すようになっていたというわけだ。


 そんなリテルのコレクションとは


「なんと、もけごん。の新作が出るんじゃ」


 もけごん。


 マンドシリカにて子供を中心に大人気”だった”キャラクターで、もけごんから"。"までがワンセットである。


 全身が藻の様な毛でおおわれており、魔獣の様な顔をしている為、もけごん。


 歩く時はとことこと音が出て、翼を羽ばたかせる際はふぁさふぁさと気の抜けた音がする。


 ゆるキャラである。


 とはいえ、意外とエグい設定もある。


 その一つが必殺技の、もけ・レーザー。

 相手を藻で包んで動けなくし、そこを捕食するという技である。

 相手はタスケテ、シニタクナイと言いながらもけごん。に食べられるというものだ。


 20年ほど前に新作がでて、それ以降は何故か新作が延期され続けることになったもけごん。


 雑誌や書籍での展開、再放送などで細々とやっていたものの、いつしかなんの音沙汰もなくなったという悲しき歴史を辿っている。


「はあ。新作?あれ、確か制作会社は…」


 そういえば数年前にリテルが言っていたか?



『もけごん。があ!!ついに制作会社が潰れてしまったのじゃ!』と。


“新作が!待ち続けていたのにいい!”

 と、あの時のリテルは泣きながら、それこそこの世の終わりの様な顔だったのを思い出す。


 幼少期から”ある事情によって”そうした物に関わりのない人生だった当時のウェスは


『もけごん。?なんですか?それ』


 と返したのが運の尽き。


『…貴様の様な者がおるからあ!!』


 と、つかみかかってきたリテルとちょっとした諍いがあった。

 その後はもけごん。の良さを語られ、もけごん。の本を全作と、あとはトドメとばかりに映像作品を渡されたのだ。


 それ以降、来店する度に見たかどうかの催促がかかる。

 ウェスはそうした作品に興味もない為、映像作品の再生機がない。


 とりあえず、本は全て読んだ事を伝えたが、映像作品にこそ、もけごん。の真髄があると言って引かない。


 何度かの来店ののち、リテルは痺れを切らした。


 それ以降は来店する度に、二人でもけごん。の映像作品を見るのが暫く二人の決まりとなったのだ。


 ウェスは最初はこんな無駄な事を、と内心思ってはいたが、今ではよかったと思っている。


 内容自体はあまり覚えていないが。


「そう。制作会社は潰れ、もけごん。の新作映像作品はお蔵入り。10年以上の考案の末、途中まで完成していたシナリオはつゆと消えた、という事だったのじゃが」


 しかし、とリテルはニヤリと笑う。


「もけごん。ファンが大人になり、有志が資金を募った結果、新作が完成する運びとなったという事での」


 さらには、などと続ける。


「この間のお客様、ガラニヒ殿のご子息がもけごん。のファンだったそうでの」

 言いながらゴソゴソと、カウンター下から何かを取り出す。


「ワシがこの間、セキュリティ装置の納品で屋敷を尋ねた際にこれをもらったのじゃ」


 そこには


“もけごん。新作映像作品!”


“数十年の時を超え、ついに明かされるもけごん。の謎!”


 などと煽りが乗っているチラシがあり、そこにはプラスでチケットが2枚。


“もけごん。映像作品特別試写会招待券”


 と書いてある。


「これは!よかったですね、リテルさん」


 素直に喜びを共有する。

 リテルの花が咲かんとばかりの朗らかな笑みは、人を癒す効果がある。


 あるが、なんだろう。

 リテルの顔が急速に曇る。


「どう、しました?」


「…なのじゃ」

「はい?」


「今日、なのじゃ」


 要領を得ない。

 どうしたのだろうか。


「試写会は、今日の夕方、なのじゃ」


「そう、なのですか?」


 とりあえず、合わせる。

“リテルさん、何でこんなに深刻そうなんでしょう?”

 としか思えない。

 映像作品を見にいくだけだ。


 ウェスは向こうの世界を何度も覗いて知っているが、要は映画である。


 映画という言葉が生まれ無かった為、マンドシリカ語で映像作品と言われているだけだ。

 何を怖がる必要があるのか?


「…」

「…」


 あれ?この流れ前にあったような?

 と思いつつ、一応聞いてみる。


「一人では、行き難いんですね」


「…うん」


 そう。

 店主は素直なのだ。













 夕方、二人はイクダックの商業施設エリアに来ていた。

 ここは様々な施設の複合体である。

 一階が食料品売り場、2階がアパレル。

 3階が映像作品コーナーや、書店、魔道具などの取り扱いがある。


 魔道具と言っても、魔力を通せばコンロいらずのフライパン、鉄すら両断できる包丁など。

 所謂日用雑貨であり、魔道具士3級もあれば取り扱いができる品々ばかり。

 対してリテルの店は資格がなければ販売禁止の薬品や魔導書、ガラニヒに作った様なセキュリティ装置などより危険なものを扱っている。


“棲み分けは出来ているものですね”


 なんて考えながら歩くウェスは、リテルを連れて道を歩いていると完全に姉妹の様だ。


 リテルは動きやすさ重視のボーイッシュな格好をしている分、姉弟の様でもある。


「ウェス!ここじゃ凄いぞ!リアルなもけごん。じゃ!」


 特別試写会コーナーのすぐ近くには休憩所がある。

 そこにはもけごん。の人形が置いてあり、リテルは大興奮。

 持ち帰ろうとするのではないかと内心ヒヤヒヤする程度にはテンションが上がっている。


「リテルさん、お土産コーナーもありますよ」


“あらかわいい”やら、”あれ店主じゃない?”などリテルが少し目立ち始めた為、ウェスはリテルを連れてお土産コーナーに連れて行くことにした。


 見渡す限りのもけごん。


 むしろもけごん。しか置いていなく、商業的に大丈夫か心配になる程だ。


 中でもばーにんぐもけごん。とやらは大人気の様で、すぺーすもけごん。ですとろいもけごん。とのバトルセットが売れ筋とある。


 火なのかよくわからない珍妙な物をまいたもけごん。が勇ましいポーズをとっているが、どう見ても太ったトカゲが招き猫のポーズをとっている様にしか見えない。


 ウェスは少しため息をつく。


“買うのは、まあ”


 こういう方なのでしょうね、と横で目を輝かせているリテルを眺める。


“平和、ですね”


 …なんて一人黄昏ていたが、その平和も結局。


 土産コーナーに大興奮したリテルがお土産を買い漁ろうとして目立った為、一瞬で崩れ去るのだった。











 いよいよもけごん。のイベントが始まる。


 もけごん。の着ぐるみを着たスタッフが挨拶に回り、子供達が飛びついたり、親世代が遠巻きに思い出を振り返っている。


(こんなにもファンが。リテルさん、子供のファンもまだまだたくさんいますよ!…リテルさん?)


 小声で隣にいるはずのリテルに語りかけるが、返答がない。

 周りを見渡すと、子供達をおしのけ我先にもけごん。に突撃しているリテルの姿があった。



 …とはいえ騒がしかったのはそこまで。

 映像作品が始まると、リテルは夢中になった。

 シーン一つ一つに一喜一憂し、表情はコロコロ変わる。


“作品自体もそんなに悪い物ではないですね”


 ウェスは売店のコーヒーを飲みながら作品を見つつ、リテルをみる。


“映画より表現が豊かな方ですね”


 思わず笑いがこぼれた。







 作品自体の出来は素晴らしい完成度だったと思う。


 そのうちウェスも集中して見てしまうほど、意外にも物語は息を呑む展開の連続であった。


 とはいえ、リテルの熱中具合に比べれば氷とお湯くらい温度差があるが。


 そんな物語もついに最後のシーンへと進む。

 もけごん。の秘密が明かされ、空へ去って行くもけごん。

 作品のキャラ達はそれを見送り、手を振っている。


 リテルはエンドロールの最後まで画面を見つめ続けて、そっと瞼をとじた。

 他の観客がゾロゾロと外に出て行くなか、静かに空を仰いだリテルは呟くのだった。


「もけごん。…」


 それを見たウェスは、心の中で呟く。


“何がリテルをこうさせるのでしょう”と。




 時間はすっかり夜だ。

 終わってから気がついたが結構な長編大作だったらしい。

 三時間はたっている。

 逆におおよそ三時間、リテルははしゃいでいたという事になるが。



 魔導灯の灯りがぼんやりと照らす中、二人帰路に着く。


「あれ!あのシーン。ばーにんぐもけごん。改の登場シーン。あそこはすごかったの!」


「ええ。その後のもけごん。の父が敵になっていたシーンは衝撃でした」


 二人、感想を言いながら歩く。

 魔導パッカーという、所謂バスを使う事も考えたのだが、なんとなく歩きたくなったのだ。


 リテルに聞くと


「歩くのは健康に良い!夜道でもウェスとワシなら危険は無かろう」


 との返事だったため、こうなっている。



 30分ほど歩いただろうか。

 公園がある大通りに出る。

 マケリテル魔道具店までは、後500メートル程。

 あかりのついていない看板が風で揺れているのが見える。



 横を見ると、丁度公園だ。

 そこは昔よくリテルがウェスを連れて来た公園であり、懐かしさでふと足がとまる。


 リテルも同じく、足が止まる。

 が、リテルは公園を見つめると、ウェスを呼びながらスタスタと中に入って行ってしまった。


「リテル?」


 追いつくと、リテルは公園の遊具に座り、こちらを見ている。


「ウェスよ、一つ聞きたいのじゃが」


「はい?」


「見つかったかの?」


「え?」


「ウェスの、夢中になれる物、じゃ」


 リテルは優しい顔だ。

 ウェスをじっと見て、答えを待っている。


 なんのことだろう、と戸惑うも、すぐに答えに行き着いた。


“…あ”


 ウェスはあの日の事を思い出す。






 あの日。

 もけごん。を知らなかった私にリテルさんが飛びかかって来た日。


「お前のような奴がいるからー!」


 鬼気迫る顔で飛んできたリテルさんを軽く避けた私は、続けた。


「知らない物は私にとって意味のない物、ということです。知る必要がないから、知らない」


 あの時の私は本当にそう思っていた。


 継いだ大切なお役目。


 でも私は、先代の最後の影響か、誰かを信じる事ができず。

 誰とも契約をしなかった。


“裏切られたり、囚人に首輪をつけて利用するくらいなら自分が強くなればいい”


 だから、そんなくだらない物を知る必要がない。


 魔法を鍛え、体術を練り上げる。

 継いだお役目を果たして、それで。


 それから、どうなるんだろう。

 そんな事を考えた事もなければ、考える必要もないと思い込む。


 大事なお役目。

 死ぬ時まで、きっと一人。

 もしも何かの奇跡が起きてお役目がおわることがあれば。

 その後、私には何が残るのだろう?


 そう、いつもそこまで考えて思考を停止するからだ。

 考えても仕方ないなら考えない。

 それだけ。

 理解する必要がないなら、しないほうがいい。




 避けられたリテルは棚に激突し、その棚の上から何かが落ちてくる。


 それを頭を擦りながらむんずと掴んだリテルは、ウェスに向き直った。


「これじゃ」


「…はあ」


「これが、もけごん。じゃ」


 だからなんだというのだろうか。

 珍妙な見た目をした生物、魔物?を私に向けたリテルは、なんだかどんどん目が潤んでいくように見える。


「この、もけごん。が無くなってしまうのじゃ」


「…はあ」


 だから、なんだというのだろうか?


「作品というのはなんであれ、誰かの生きた軌跡、その結晶じゃ」


 それはそうだ。

 ウェスタは多くの剣を作り上げ、その結晶の最たる物は今も伝説のように語り継がれている。


「作るところがなくなってしまっても、今まで作られた物は確かに存在しておる。」


「そうですね」


 ウェスタが死のうと、ウェスタの子供達は残り続けた。


「ウェス、お主は…」


 "お主は死んだ後に残る物を作れるか?"


 そう、聞いてきた。


「なにを…」


 リテルは目をそらさない。


「ウェス、お主の役目、継いだ重責。わかっておる。祖国がどうなり、親が、どうなったのかも」


 そうだ。

 リテルは私に何があったかを全て知っている。

 私がしなければならない事も。

 そして、アテのない私が飛び続けて落ちないように。

 羽を休められるように、ここを使っていいと言ってくれたのだ。



「それゆえに、お主は役目のことしか考えておらん」


 そう。


 私の役目は、ウェスタの子供達の管理。

 死ぬまで、役目を負い。

 死ぬ時にはそれを誰かに引き継ぐ。


「夢中になれる物を、探してみよウェス。夢中になれない人間が作ったものが、後世に残るものになるとは、ワシには思えないのじゃ」


 もけごん。がなくなることは勿論悲しいのだろう。

 しかし、リテルが泣きそうな理由は…


 そこまで考えて、私は


「…失礼します」


 マケリテル魔道具店を後にした。
















 夜風が気持ちいい夜だった。


 考え事をするのには丁度いい。


 魔道具店を後にした私は、なんとなく帰る気にならなくて、近くの公園の遊具に座っていた。



 多分、リテルは私が役目の事しか考えていない事を悲しんでくれてるんだと思う。


 別に、この継承者というシステムは死ぬまで娯楽禁止とかではない。

 管理者として振る舞い、場合によっては取り上げたり、厄災の顕現を抑止する。

 それさえ守れば。


 それに、私個人の夢がないわけではない。

 むしろ、ウェスタを継いだ者にはある一つ、夢が生まれると言ってもいい。


 それは、ウェスタの子供達を超える剣を作る事。


 私は半ば無理やり継承させられたようなものだったけれど。


 でも、知識を深めるにつれていつしか作りたいと思ってはいた。


 それをリテルにふと話した事はある。



 でも…


“何かに夢中になれぬものが…”


「痛いなあ…」


 思わず素が出る。


 自覚は、ある。


 役目、役目、役目。


 子供たちがある場所や持ち主は今代は比較的温厚なのか。

 厄災の兆しはない。


 だからこうして港町に居を構えて生活していられる。

 言ってしまえば平和だ。


 とはいえあの時。

 私が役目を引き継いだ時に感知が出来なくなった一振り。

 それを見つけるのが当面の目的だ。


 でも、それは私一人でやらないといけない。


 先代は契約者に裏切られて、そして。


「…」


 心に影が落ちる。


 あの剣は危険だ。


 死を呼ぶ災いの魔剣。

 女神ウェスタが最後に作ったモノ。


 そして、私の育ての親の仇が持っている。


 顔はよく見えなかったけど、男の声だったのは確かだ。



 先代は作り上げた最高傑作で挑み、敗北。

 その剣は砕かれ、私はそのカケラを拾い、持っている。

 いつかこれを練り込み、鍛え上げた剣で復讐する。


 ウェスタの子供達なんて知らない。

 ただ


「へし折ってやる、つもりなんだけどな」


 そう。

 うまくいかないのだ。


 何度も何度も何度も何度も何度も何度も


 鍛えては折る。

 鍛えては折る。

 鍛えては…



 勝てない。

 私が作るこんな物じゃアレには届かない。

 打ち合う前にへし折られるのがオチだ。


 そのまま体が両断されるイメージが湧く。


「…」


 空を仰ぐ。


 これは確かに、夢でもなければ夢中になれる物でもない。


 執着。

 復讐して、殺すための力を作りたい。


 それが悪いとは思わない。

 だけど、今のままでうまくいっていないのは事実で。


 そこまで考えた時だった。


「何してんのさ。風邪引くよ」


 誰もいないはずの公園で声がかかる。


 ふと見ると、育ての親であり。

 私の先代でもある…


「----―――!」

 名を呼ぼうと、した。


「どうしたんじゃ?」


 けど、そこには私の友人しか見えなくて。


「…なんですか、リテル」


「なんですかではないわい。お主が去った後、心配だったからすぐ飛び出してみたら、こんな公園で一時間も」


 やれやれ、と。

 リテルは本当に心配してくれたのだろう。


 一時間経っていたのは気がつかなかったが、リテルの顔は少し青い。


 それはそうだ。

 この港町は北の雪大陸に近い。

 なので、熱に弱い種族も生きやすいように朝から夕にかけては魔力によって気温が最適になるように結界が張られている。

 しかし、今この時間は。


「リテルのほうが、風邪ひきますよ」


 私は魔法を使い、火を起こす。

 リテルの周りに燃えない炎を展開した。


「温いのう」


 猫のように目を細めるリテルだが、すぐに口を開いた。


「ワシが、の。言いたいのは」


「はい」


「まずは、生きる事を楽しんで欲しいのじゃ。ワシらのように、人は長く生きられぬ」


「はい」


「だから、長く生きれぬ代わりに人は何かを遺そうとする。でもそれは、生きて、夢中に生きて。そして結果的に残る物だとワシは思う」


 ウェスタは必要に迫られただけかもしれんがアイツは神じゃ。


 と前置いて。


「人は、多分、役目では生きられぬ。復讐心も強い力にはなるが、それは残すための力ではない」


「…はい」


「…まずは、ウェス。お主の」


 リテルは私を迎えるように手を広げる。


「夢中になれる物を探そうぞ」







 …そうか。

 アレはこの公園だった。


「まだ、見つからないですね」


「そう、か」


 二人、黙ってしまう。


 でも、と。

 私は続ける



「生きてみようかな、とは思ってます」


「そうか」


 リテルにしては珍しい、大人びた笑顔だ。


 ああ、だからあの時…



「なんじゃ?どした」


 ポカンとした顔に戻ったリテルに思う。


“ほんと、コロコロ変わる人だ”



 さあ、帰ろう。

 今日は友人と遊んで楽しかった、という思い出と共に。

 きっと、これから先夢中になることは沢山できる。

 そう確信できるから。














「所で、いっそのこと、もけごん。に夢中にならんか?」



「それは遠慮します。というかあの時。いい話風にしましたけど、もけごん。がなくなることでテンパってあんな流れになったとかないですよね?」


「な!それはないじゃろ!?って、ウェス!走って逃げるな!足の長さで追いつけんわ!」



 …ウェスが最高傑作を作り上げるのは、この少し後のこと。

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ハース・メモリア 短編集 カイショーナシ @kaisyonasi

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