ハース・メモリア 短編集

カイショーナシ

第1話リテルの一日

 カイショーナシです。


 本編ハース・メモリアも是非お願いします。


 注意

 私は小説執筆素人です。

 拙い表現、わかりにくい表現等ありましたら、是非コメントで教えてください。


 リテルの一日


 北の港町 イクダック


 雪が多く降る大陸、シュレキオンとの物流の要であり、ここは中央の大陸にあたるグラナリトスの王都から最も離れた港町である。


 多くの異人と亜人。

 人間が住む交流が盛んな町であり活気で溢れている。


 そんな町で、一つの悲鳴が聞こえる店がある。

 大抵は店主の悲鳴なのだが、今回は違うようで怒鳴り声が往来にこだました。


「覚えておけ!」


 スーツを着た出立ちの男は何やらカンカンに怒っており、小脇にコートを抱え片方脱げた靴をそのままに音を立てて走っていく。


「二度とくるな!アホー!」


 そんな背中に塩を撒かんとする勢いで怒鳴りつける少女か少年の風貌の者が1人。


 マケリテル魔道具店オーナー

 リテルであった。





 これはトウヤが目覚めるほんの少し前のお話





 先ほどのやりとりから少し前。


 その日、リテルは朝から浮き足立っていた。

 ニマニマとした顔つきでカウンターに座りながら常に足をパタパタと動かしている。


 実に落ち着きがない。

 そんなリテルにカウンターを挟んだ棚の前から声がかかる。


「リテルさん、今日は何かあるのですか?」


 声をかけたのは何やら缶詰のような物を掴み吟味している女性だ。

 黒い髪を後ろで束ね、灰色の美しい瞳をしている。

 服装は赤を基調としたジャケットに、黒いチノパン。

 どこか近くにいるだけで暖かくなるような雰囲気を纏いながらも、近寄りがたい美しさをもつ彼女は魔道具店主とは昔馴染みである。


「そうなんじゃよウェス!今日はの。なんと!久々にお主以外のお客さんが来る日なんじゃ」


 楽しみじゃーと屈託のない笑みを浮かべている店主をウェスと呼ばれた女性はまるで姉か、母親のような目つきで見つめる。


 実の所リテルより年下の彼女なのだが、どう見ても見た目は子供が嬉しそうにしていれは仕方のないことだろう。


 ただ、同時に思う。


(この店、大丈夫なんでしょうか?)


 ウェスはかなりのお得意さんだ。

 昔からの付き合いで、この店が開店した時から買い物に来ている。

 なんなら昔アルバイトをしたこともあった。

 その際はよく店主と間違えられてしまい、リテルが泣きそうになっていたため裏方に回ったが。

 それでも当時は、お客さん自体はそこそこ来ている印象はあった。


 しかし最近はいつ来てもガランとした店内だ。

 潰れないところを見ると違う時間にそこそこお客さんは来ているのだろうと考えていたが…

 リテルのその発言に目をほそめてしまう。


『うん。聞いた方が早いですね』


 妙な物を感じたウェスは悩まずに聞くことにした。

 変なところで気を回してしまう癖はあるが、彼女は見た目とは裏腹に色々考えるのは苦手なのである。



「そうなんですか。その久々のお客様というのは?」


 聞くと待っていましたとばかりに目を輝かせ、話し始める。


「うむ、王都から越してきた貴族とやらでの。魔道具士一級の店はこの町にはここしかないゆえ、用立てたい物があるとかでのう」


 ワシのー腕をー見込んでー!なんて歌い始めそうなテンションだ。


 ちなみに魔道具士一級という資格は結構取得が難しい。


 他3つ程、高難度の資格を取得し、更に10年くらい経験を積まないと取れない資格だ。


 ただそれだけの経験を積んだ証であるためこの魔道具士1級を持つ者は大企業への入社もフリーパスではないか?というレベルの便利資格である。


「ああ、そういう。リテルさんの腕は確かですからねえ」


 ウェスはアルバイトをしていた頃を思い出す。

 客がもってきた物を魔法使いが魔法と見まごう程の速度で修繕していたのを覚えている。


 まあ、ごく稀に頼まれていない機能をつけて修理してしまう癖があるが。


 例えば魔力で動く機械の中には、遠く離れた相手と通話やメッセージができるものがある。

 遠距離恋愛中の彼と連絡を取りたいが壊れてしまったという事で持ち込みがあり、リテルはそれに相手の顔も見れた方が嬉しかろ?とサプライズでカメラ機能を追加した。

 結果的には、遠距離側の浮気がリアルタイムで映り込むという事件が発生してしまい大きなクレームになってしまったこともある。

 客商売にありがちな、善意が裏目に、というやつだ。


 リテルの場合、そういう客側が状況次第では泣いて喜ぶ筈のものをつけた時に限ってクレームになってしまう事が多い。

 その度にウェスが慰めることになってはいたものの、兎に角腕は確かなのだ。


 とはいえ、こうした腕前を買ってきてくれる人がいるなら存外心配はいらないのかもしれない。


「でも少し心配しましたよ」


「ん?何がじゃ?」


「いえ、久しぶりのお客様と言ってたので。最近いつ来ても私しかお客さんがいないような気もしてましたし」


「…まあ、客足が減ったのは事実だの。こうしたお客さんが来てくれるので問題はないんじゃが」


 言外に、それ以外が来ない、ともとれる発言をするリテル。

 ウェスから見ると問題はないが、寂しい、という顔をしているように見えるのは気のせいではないのだろう。


「…貴族ということは、結構なお客様になってもらえるんじゃないですか?」


「…じゃろうなー。決まれば設備の入れ替えも検討しようかのう!」


 とはいえ報酬が見込めるのは嬉しいようで、リテルの顔に明るさが戻る。


「ふふ、きっと決まりますよ。いつお客様はいらっしゃるんですか?」


「時間的にはもう直ぐじゃなー」

 リテルは嬉しそうな顔のまま時計を見る。

 余程楽しみにしているもうだ。

 今は正午を回ったくらいのようで、外が見えるすりガラスからは食事を楽しむ人々の姿も見えた。




「…なら、私はもう行きますね」


 大切な商談。

 邪魔をするわけにはいかない。

『お会計を…』

 と、言おうとしたところでリテルがものすごい表情をしているのにウェスは気付いた。


 さながら、え?行くの?行っちゃうの?みたいな顔だ。

 買ったばかりのアイスクリームを落としたような、子犬を撫でようとしたら家族のうちで自分だけ本気で噛まれた時のような。


 そんな顔。


「…」

「…」

 無言で見つめ合うが、時間も迫る。

 先に口を開いたのはウェスだった。

「…もしかして久しぶりの商談で緊張してます?」

「…うん」

 店主は素直だ。

 ウェスはため息をつきつつ、溢れそうになる笑みを噛み締めてリテルに付き合う事にしたのだった。










「ここか」


 扉が開かれる。



 扉のベルが鳴り、来客を知らせる。

 リテルなカウンターに座り、ウェスはその横で昔着ていたアルバイトのエプロンをつけて立っていた。

 黄色地の布に赤でマケリテル魔道具店と書いてあるその下には、手書きで書かれた猫か狐か、さながら犬かよくわからないものがプリントされている。

 リテル曰く一品物だ。


「いらっしゃいませ!マケリテル店にようこそじゃ!」


「いらっしゃいませ」

 ウェスは挨拶しながら隣に座るリテルを見る。

 リテルは昔から変わらない。

 とにかく元気よく挨拶し、お客さんに対して親身になる。

 裏目に出てしまうことは多いが、それでもこの明るさに私も何度救われたかわからない。


「ふむ、可愛らしいお嬢さんだ」


 入店してきたその客人の貴族は、どうやら異人のようだった。


 異人


 竜人や魚人など、根底から人とは違う種族のことである。


 彼らは300年前の戦いにて悪しきものを倒すため女神に協力したとされ、一部は貴族になっている。


 反対に鬼族と言われるツノがあるが人に近く、成長すれば人として生きれるものや、リテルのように人が魔族と交わり繁栄した種族は亜人という。


 簡単に言えば猫耳やツノがあるがベースが人間なら亜人。

 竜が人の姿をとったり、魚が二足歩行で歩けば異人と思えば間違いはない。


 そんな亜人の歴史は長く、人との交流が盛んな為異人よりも貴族が多い。

 が、300年前のおり一部魔族が人間や異人を裏切り多くの犠牲者が出ているため、双方の種族には確執がある。


 リテルがウェスを引き留めたのは、それを危惧していたのだろうか。


 約束をした貴族だと確認したリテルは、大きな商談用に用意した店の奥に貴族を通す。


「よくぞ参られた。遠路遥々大変でしたの」


「ありがとう。亜人のお嬢さん」


 コートを脱ぎ、帽子を脱いだその異人はどうやら竜人のようだった。


「では早速商談に入るとするかのう」


 リテルが椅子に座り、ウェスがその後ろに控える。

 商談の内容を聞くわけにもいかないと思い、少し離れて店番をしようとしたのだがリテルのつぶらな瞳がじっとウェスを見ていたのだ。


“仕方ありませんね”


 普通、部外秘ではなかろうか?


 そんなことを思っていると、異人の貴族は口を開き始めた。


「そうだな、お嬢さん。大切な話なので席を外してくれないか?」


 ウェスではなく、リテルを見ながら。


「…」

 リテルの目がどんよりし始める。


 ああ、またか、とウェスは静かに目を閉じて天を仰ぐ。


 リテルが店主だということを異人に話し、信じてもらえたのはその10分後の事だった。





「というわけなのだ、リテル殿」


 商談の内容としては簡単な事だった。


 異人が貴族になる、というのはやはりやっかみやしがらみが多いもので。

 彼 ガラニヒもその厄介ごとを抱えていた。


 そのため、盗聴や暗殺の心配事も多く、この港町に来たのはほとぼりを冷ます狙いもあった。


 しかし、到着早々王都から追ってきた記者と鉢合わせ。

 誰にも行き先は伝えておらず、これから伝え合流する予定だったらしい。

 異人は強力な力も持つ種族のため、プロの暗殺者でもない限り心配はないだろうとの判断だったにも関わらずである。


 流石にセキュリティを固める必要があると判断したガラニヒは、籠る予定の屋敷に魔道具によるセキュリティ強化を図った。


 そこで、腕の立つ魔道具士を探すもこんな田舎に滅多に居るものではない。


 王都から呼び出そうにも、そんなことしたら居場所が余計にバレてしまう。

 そんな焦燥感ばかり募る中、ある噂を頼りにリテルを見つけたというわけだった。



「ちなみに、その噂というのは、なにかの?」


 リテルの顔が少し暗い。

 そう、クレームの件なんかもある。

 そもそも、亜人をよく思わない勢力もいる。

 魔族とのハーフ、汚れた血。

 異人、亜人を認めない者たちもいる。

 そうした過激派も居る以上、悪い噂が流れており、それでも資格を持ってるからとりあえず急場凌ぎでガラニヒが相談しにきた。

 そんな可能性だって、ある。

 しかし、ガラニヒの口から出たのは全く予想だにしていない内容だった。


「うむ、リテル殿の作る魔道具や修理品はどれも長持ちして素晴らしいということでな」


「え?」


「なんでも、客の相談を親身に聞いて最適な機能を付けてくれるとか。何故かタイミングが悪くその時はその機能が裏目に出てしまうが、後で考えるととても良い店だと噂になっている」

 いやはや、とガラニヒは笑いながら更に続ける。


「また利用したいのに物が壊れなくなるので利用しに行けない店だとか。そんな店であれば、安心して任せられると思うてな」



 ウェスはそれを聞いて、リテルをそっと見た。

 顔を伏せて居るが、肩は震えズボンに点々と染みができていた。


『よかったですね。リテルさん』


 リテルが泣いて居るのに気がついたガラニヒが慌て始めるが、ウェスが宥める。


 ウェスはリテルが落ち着くまでの間、話を代わりに進めるのだった。












「では頼む、リテル殿」


 ガラニヒは一礼すると扉から出て行く。

「しかと承った!こちらこそよろしく頼むのじゃ」


 リテルは少し目が赤いものの、笑顔でガラニヒを見送る。


 外はもう夕焼けで、人通りはまばらだ。


 リテルの元気さが分け与えられたのかのように、ガラニヒもまた笑顔で去っていく。


 いい商談だ。

 素人ながらウェスはそう思う。


 ただ、その時


「すみませーん」


 後ろから声がかかった。


 振り向くと、ビジネスマンのような風体をした男が居る。


「もう閉店ですか?」


 男は、どこか胡散臭い笑みを浮かべている気もするが、危険な感じはしない。

「うむ!?いや、まだ開店しておる。いらっしゃいませ!」


 元気よく挨拶をしたリテルが店内に通す。

 もう手伝いは必要ないと判断したウェスは、着替えて帰宅する為に店内に戻った。


 一応気になって様子を見ていると、男は何やら普通の生活用品を求めて居るようだ。


 リテルがそのコーナーに案内しているのを尻目に、ウェスは更衣室でエプロンを外し、丁寧に畳んでからロッカーに戻した。


 拙い字でうぇすと書いてあるそのロッカーは、リテルが昔書いてくれた物だ。


 懐かしさに少し浸っていたときだ。


 店内から大声が響いたのは。



「リテルさん!?」


 慌てて飛び出したウェスが見たのは、客の男と口論になっている男の姿だった。


「じゃから!客の事をべらべら話すわけなかろう!」


「はあ!?少しくらいいじゃないですか!」


 激昂し、男はリテルを突き飛ばした。


「っ!」

 ウェスが一瞬動こうとするものの、リテルが突き飛ばされたまま男の腕を取り、そのまま


「ほい!」


 と、気の抜ける声のまま投げ飛ばしたのである。


 男は投げ飛ばされ、尻餅をつく。


 顔は羞恥心からか真っ赤になり、怒鳴り散らし始めた。


「次の記事は汚職事件を庇う悪徳亜人店主に決まりだなあ!」

 これは暴力事件だ!なんて叫んでもおり、手がつけられないほど興奮しているが


「やれるもんならやってみよ小僧!その時は腕の一本や二本で済まないと思えよ!」

 と、リテルはヒートアップ。

 魔法もかくやという勢いだ。


 最終的には男が捨て台詞を吐いて去っていく事態となったが、その騒動の間、ウェスはいかにリテルを殺人者にしないようにしようかと頭を抱えていたのだった。。



「はあ、あの方が例の」


 騒動が収まって暫く。

 外はもう暗い。


 灯りを一つともした店内で、リテルとウェスはカウンターに座っており、リテルの前にはホットミルクが置かれている。


 ほぼ飲み切ってしまって殆ど空だ。

 余程興奮して叫んだのだろう。

 リテルの声は若干枯れていた。


「うむ、店内に入るなり、さっきの客は知り合いですかー?と聞いてきての。怪しいとは思いつつ対応してたら」


「情報を渡せとなったんですね」


 こくりと頷く。

 続けて深刻な顔で、リテルは呟く。


「しかし、どうするかの。正当防衛ではあるが、彼奴が記事を書けば厄介な事になりそうじゃ」


 リテルの顔は沈みきっている。


 亜人であるリテルはその生まれから面倒事が多く、その中で自衛の手段は豊富に整えた。


 魔法もその辺の使い手では歯が立たない程の腕前であるが、それゆえだ。

 それ故に疎まれる存在が力を振るえば周りはどうするか、どう捉えるか。

 そうした事も沢山経験してきている。


 ため息をつくリテルを見てはいられず、ウェスが


「でも、正当防衛です。私が断言します」

 と声をかけるが

「ありがとうの。でも、亜人に対する差別意識がある連中が書かれた記事を読んだらどうなるか」

 と、とりつく島もない。


「この街の人たちは違いますよ。きっと、大丈夫です」


 そう。

 噂としてもたらされた、多分、いや、確定的であろうリテルの評価。

 その評価のされ方から、リテルへの信頼は厚いだろうと思う。



 とはいえ、だ。

 大切な友人が謂れのない誹謗中傷を受けるのは、受け入れ難い。

 それに、大丈夫だと慰めはしてはいるが。

 人が心無い記事を読んですぐに心変わりする例は沢山見てきた。

 大丈夫大丈夫と、そのまま済ますほどウェスは子供でもない。


 ウェスは徐々に、内心怒りが沸々と湧き上がるのを感じた。

 本来、ウェスはそういう事はしたくないのだが


 今回は、例外だ。


 とある手を使う事に決め、リテルの肩を掴んで宣言する。



「リテルさん、とにかく大丈夫です。絶対に」






 次の日。

 王都では大々的に記事が書かれていた。


 題名はこうだ。


“悪徳ストーカー記者、魔道具店店主を襲う”





「なん、だ!?これは!」


 宿の一室。

 昨日の件を書き記した記事を執筆中のことだ。

 いかに貶し、悪徳さを描こうとかと苦心するも筆が止まってしまった私は、ふと朝の運動に出た。

 何か参考になる記事はないかと朝刊を購入したところ、この見出しが目に飛び込んできた。


“幸い店主に怪我はなかったものの、犯人は逃亡中の模様。

 犯人は王都でも有名な記者でありー”


 顔写真と名前まで載っている始末。


 なんだ!どうなっている?!


 状況がうまく読めない私は、兎に角王都に戻ろうとしたところで


 ---宿の扉が叩かれた。







 朝、私はリテルの店に号外を持って訪れていた。

「リテルさん?起きてますか?」


 店にはcloseの掛札があり、普段ならもう開店時間にも関わらずまだ営業していない。


「妙ですね…」


 リテルは基本真面目だ。

 毎朝この時間にはオープンして、道ゆく人に呼び込みしたり、店内を清掃している。

 客が来ようが来なかろうが、だ。


 ウェスは店の裏側に回る事にした。

 リテルのマケリテル魔道具店は裏に居住区、表が店舗という作りになっており、基本店舗内を通さないと居住区に入れない。


“目に見える”裏口も作られていない為、リテルに会う為には表から入るしかないのだが



 ウェスはかつてもう少し小さい時、よくここに泊まっていた。

 髪の長さくらいしか違わないリテルが、自慢げに裏口を見せていたのを思い出す。


 その裏口は魔法で隠されている為、ある呪文を使わない限りは解除されない。


 裏側にきたウェスは唱える。


「開けごま」







 室内に入ると、リテルは居た。

 付近には10を超える酒瓶が転がっており、かなり呑んだようだった。


 ウェスはそっと近づいてリテルを起こす。


「リテル、リテル。起きてください」


「んにゃ、…ンヤ!それはワシの酒じゃあ!」


「夢でも呑んでる…」


 はあ、とため息をついたウェスはリテルを再度起こそうとする。

 その時、店側からドンドンドンドン!と戸を叩かれた。


「ッ!」

 ウェスは驚き咄嗟にリテルを庇うような体制をとる。


 その直後、リテルが驚いたのか飛び起きようとし…


 ウェスの肘に激突。

 痛みに悲鳴をあげながら起きる事となった。



「ああ、世界が回る…」


「リテルさん、それは二日酔いです」


「絶対違うわい」


 そんなやりとりをしながら、店先に向かう。


 リテルが痛みで悲鳴をあげた直後、戸を叩く音は大きくなり、ついには10人程の声が聞こえてくる。


「…のう、ウェス?やっぱり昨日の件かの」


 リテルはこの号外を見てないのだ。

 ウェスは握っていた号外をそっと店内のゴミ箱に投げ捨てる。


 この先に待ち受ける光景をなんとなくウェスはわかっている。





 でも、あえて何も言わない。

 リテルは戸を開けない。

 ウェスの言葉を待ちながら、何かを考えるような、何かと戦っているような。



 でも、それでも何も言わない。

 ウェスが大丈夫だと、背中を押してしまうのは簡単だ。


 でも、ウェスは知っている。

 リテルは行う行動に自信があってもなくても、自分が出ていく必要がある舞台ならきちんと出ていく人だと。


 諦めたリテルが戸を開け放つ。


“私の頼りになる友人には、私意外にもこんなに味方がいて、こんなにも必要とされてるんだと知ってもらおう”


 昔色々あった。


 生まれや種族の垣根や禍根、別れもある。


“きっと私が聞いていないような話も、沢山”


 でも、リテルが築いたものはきっと、リテルを、認めてくれるから。


 友人が、集まった人々の前でまた泣きじゃくるまで、あと数秒。


 私は、勇気を出した友人が扉を開け放つのをただ見守っていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る