第二章 波乱の舞踏会③
前回の記憶では、舞踏会で元義母が問題を起こしても……ユリウスは
扉から出ると、
(いったい……どこに向かったの?)
赤い点を
衝動的に来てみたものの、いざ彼を目の前にすると不安が頭をよぎる。しかし、やはり血が点々と続いていた場所を思い出し……気合いを入れるように、深呼吸をした。
しっかりとした足取りで、ユリウスの方へ歩いていくと──。
「
わずかな足音に反応したのか、閉じられていた目がぱっと開く。そして、赤いルビーの
「お会いするのは三度目でしょうか。ナタリー・ペティグリューと申します」
「ユ、ユリウス・ファングレーだ……その」
「挨拶をありがとうございます。怪我をされていますから、立ち上がらなくとも構いませんわ」
「そ、そうか。では、失礼する」
なんだか、ギクシャクしているような気がしなくもないが……。ユリウスはナタリーの言葉通りに、ベンチにまた
「まだ、お帰りではなかったのですね」
「あ、ああ。家の馬車が先に出発してしまって。副団長が乗ってきた馬で帰る予定だ」
そのあとは言いづらそうに、「ただ、馬の
「私は、助けてくださった方の怪我を治しに来ましたの」
「そ、それは……」
「たまたま運よく、
ナタリーが下を向けば、ユリウスも合わせてそちらを見る。そして、「ああ、それか。後で掃除しなければならないな……」と暗い声を出した。庭園の
「怪我した手を、見せてくださいませんか」
「……その」
見せるのが大変嫌そうである。しかし見せてくれなければ、治せないのだ。なぜ嫌がっているのかはわからないが、ナタリーを助けて重傷だなんて
「ペティグリュー家のご、ご
「無礼を承知で、失礼しますわね」
「……痛い、でしょうに……」
ユリウスの手のひらは、ひどい状態だった。
「え?」
「ご令嬢に、見せるものではなかった。すまない、だから放し」
「今から、
「そ、そうか……」
今にもどこかに行ってしまいそうな様子のユリウスを引き留めるため、ナタリーはベンチの前にしゃがみ込み、未だに止血されていない手を自分の両手で
「処置しやすいから、この姿勢でいますので。お気になさらず」
「それなら、いい、のか……?」
まだ
「ふう……これで、
「ああ、傷が
「いえ、もし
「承知した。……ご令嬢は、
「え?」
ユリウスに
「ご令嬢、立ち上がれるか?」
「あ……ごめんなさい。足が
なぜそんなことを気にするのだろうと不思議に思っていると。
「少しだけ
「……へ?」
ユリウスの言葉を理解するのと同時に、
「ど、どうして」
「ああ、説明不足ですまない。手を……」
ユリウスがナタリーの手を見る。つられて見てみれば、魔法をかける際に血に染まった手が、
「わあ! 器用ですね。ありがとうございます」
「いえ、それと……」
器用な魔法の使い方に
「ちょ、ちょっと!」
「無理をさせてしまい、
彼の表情を見れば、
「俺は、癒しの魔法が使えないから、これくらいしか君に返すことができないが」
「いえ! 足の痛みはもう
なんとも突然な気遣いだったが、ナタリーの返事に対してユリウスは「そうか」とほっとしたように小さな
「閣下はどうして私を助けてくれるのですか……?」
「っ! それは……」
ナタリーの疑問に対して、ユリウスは
「君が俺を救ってくれたから」
そうきっぱりと、さも当然のような様子で彼は答えた。そんな様子にナタリーは
「では、そろそろ。時間を取らせて本当にすまない。失礼する」
「え、ええ」
彼は、ナタリーが来た道を引き返すように歩いて行った。そして魔法をかけたのだろうか、庭園内にあった
「あっ!」
(返さないといけないものが増えてしまったわ……!)
自分がされるがままのせいで、
◇ ◇ ◇
続きは本編でお楽しみください。
「死んでみろ」と言われたので死にました。 江東しろ/角川ビーンズ文庫 @beans
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