5章141話 懇々と

 緋真姉に連れ出された俺は空いていた教室で座らされていた。


「私が何に怒ってるかわかるわよね?」


  確実に俺がこうなったことを隠してたことだろうなぁ。


「この身体のこと黙ってたから……だよね?」


  ああ、背筋が凍る。この張り詰めた空気感と極寒のような冷たさが怖いんだよ。


「そうよ、もし教えてくれていればすぐに駆けつけたのに。お父さんがきっと止めたんでしょうからそこまでは怒らないけどそれでも教えて欲しかった。」


 う、そう言われるとちょっと罪悪感が……確かに父さんが心配をかけるからと連絡しなかったのはそうなんだけど。俺は緋真姉のある嗜好を警戒したから連絡しなかった。


「こんなに可愛くなっちゃって……前までは一応男の子だったから我慢したけど、良いよね?」


 緋翠連れてこなくて良かった……


 緋真姉は家族愛が人一倍強い。それは側から見たら依存に見えるほどだ。だが、俺は知ってる。この人、可愛いものと女の子が大好きなんだよ。確実に母さんの系譜なのである。


「ああっこんなになって……!私が守るからね?絶対に悪い奴は私が倒すから。心配しないでお姉ちゃんに任せなさい。」


 言っていることはまともなのだ。ただ、少し興奮しながらにじり寄ってこなければ。


「その、流石に恥ずかしいって言うか……やってこないで?」


「いやよ。」


 緋真姉が消えた!?一体どこに……


「ふふふ、捕まえた。」


 既に俺の背後に回られ抱きつかれてた。速いとかのレベルじゃ無い。移動する兆候すら見えなかった。


「あ、えっと、お手柔らかにお願いしますぅ……」


 もはや、肉食動物に捕まった草食動物の立場になった俺は震えるしかできなかった。




「…………………」


「本当に女の子になってたわねー。一応女装かもとか思ってたけど本物だった。雪、今度一緒にお風呂入りましょ?」


「いやに決まってるだろ!?恥じらいとか無いのか緋真姉!」


 うちの家族はなんでこう元男の俺に対してここまでガードが緩いんだよ。何もしないけどそれでも好きなのは女の子なんだぞ!?


「だって雪とお風呂なんて小さい時以来入れてないでしょ?流石に大きくなってからは遠慮したけど女の子になったんだから良いわよね。」


 ま、まじか。そんだけの理由だったと?この話題はまずい!話を変えないと更に酷いことになる気がする!!


「そ、そういえば緋真姉は大阪で何をやってたの?」


「ダンジョンの中を殲滅してたの。ちょっと厄介なやつが湧いてたから時間かかっちゃったけど。」


 あの緋真姉が苦戦しただって!?一体どんな魔物なんだ。


「そんなことより、教室に居た緑色の髪の毛の子は何者なの?」


 そんなことよりって。俺結構気になるんだが。というか緋翠に関しては俺もよくわからないんだよな。


「えっと朝起きたらいた私の娘?かな。お母さんって言ってくれるからそうすることにした。」


 うーん、自分で言ってわけ分からん。


「私が気になっているのはそういうことじゃ無いのよ。いえ、娘という部分は後で話すとして、あの子、本当に人間?」


 は?どういう意味だ。どこからどう見ても人間だろう。まさか魔物とでもいうつもりか?


「なんかね、魔力が変なのよ。魔物と人間の中間、とでもいえば良いのか……」


「緋翠が魔物なわけないだろう!?あんなに懐いてくれてるし、言葉も理解してる。そりゃあ初めて会った時は変な出会い方したけど立派な私の娘だ。」


 俺は緋真姉の言葉に強く反発する。ここで引いたら緋翠の居場所は無くなるかもしれない。それはダメだ。居場所がない苦痛はよく知ってるから。


「何も倒すとは言ってないわよ……ただなんとなく気になるだけ。すっかりあの子の母ね。そこまで大事にするなら責任を持ちなさい。何があろうともあの子の味方であると。」


「もちろん」


 最大限まで高まった緊迫感は長くは持たなかった。


「なら良いの。なるほど、緋翠ちゃんか。私の姪っ子、雪。」


「ダメだよ。」


 何を言い出すのか容易に想像できたので先に止める。あんな小さい子にうちの家族の業母さんの系譜を受け継がせてたまるか!


「そっかぁじゃあとりあえずあの子が何者なのかだけ調べておくことにするわ。それじゃ教室に戻りましょう。」


 緋真姉の言う通り教室に戻るとやけに騒がしかった。扉を開けるとその理由はすぐにわかった。


「化紺先輩!来てたんですね!退院おめでとうございます。」


 黄金色の尻尾を揺らす先輩がいた。多分、燃え子のことを聞きつけて来たんだろう。


「おう、ありがとうな。それになにやら楽しそうなことしてはって。ついつい、来てしもうた。」


「堕狐がどうしてもって聞かなくて。私もメイド喫茶っていうのは気になったからきたけど。」


 よく見たら衣手先輩もいた。


「そうそう、雪ちゃんたちにモデルをしてもらう約束覚えてるか?今度、暇な時に裁縫部まで来てくれんか?細かい調整したいんや。」


 確か俺たちモチーフの服って言ってたよな。あんまり人に見られるのは恥ずかしいけど祭りなんだから楽しまないとな!


「わかりました!後で行きますね。」


 この後も聖火祭の出し物の準備をして今日は終わった。


 魔物と人間の中間……緋翠、お前何者なんだ?


俺は緋翠の頭を撫でながら眠りについた。




あとがき

是非星とフォローをお願いします!作者のモチベーションが上がりますので!何とぞ!

 それと0章辺りから大幅改稿を始めます。もう見た方もまた見てくれるとより雪の目標や感情を感じやすくなると思います!


新作を書き始めました!


日光浴したい私が吸血鬼!?〜レベルを上げるために私は今日もダンジョンに潜る〜


https://kakuyomu.jp/works/16817330651540224663


是非みにきてくれると嬉しいです!


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