最終話 【百万人耐久初配信】てっぺん取りにきた【ライブスターズ七期生/ヒメカ】(後編)


 一曲歌い終わった私は、コメント欄を確認する。


コメント

: うわぁあああああああ!

: ありがとう!!

: おかえりぃいいいいい!

: また会えた...嬉しいよ泣

: けっ、なんだよ最高かよ

: はいはい、俺たちの負け。ファンになりました

:〈スミレ〉涙

:〈犬屋敷奏〉涙

:〈シャーベット・ムーン〉...涙

:〈りくのかね〉涙!!

: 涙

: 涙

: 涙


 歌い始めた時よりも明らかに速いコメントの流れに、目が追い付かない。

 とりあえず皆が泣いている事はわかった。


「泣かないでー!皆の笑顔が見たいな?」


コメント

: にっこり(号泣)

: にっこり(感涙)

: な、泣いてなんかねーし!泣

: 無茶言わないでよ泣


 現在の同時視聴数は七十万を越え、チャンネル登録者数は一気に六十万人を突破していた。

 急に増えすぎでは?と思ったけれど、どうやら沢山拡散してくれたらしい。

 アイドル時代にファンだった人、よく分からないけど盛り上がっているから興味本位で覗きに来た人、とにかく沢山の人が来てくれていた。

 反抗的な子も減ってきたように感じる。

 アンチはファンと紙一重。

 アイドル時代に学んだことが、私の心に太い芯を立てて支えている。


「ちなみに、自己紹介動画は百万人達成したら投稿するからね。とりあえず今は生の私を楽しんで!」


 そうして二曲目を流す。

 イントロからコメント欄が盛り上がっているのを見て、自然と気持ちが上がっていった。

 配信って楽しい。

 今も増え続けている同時視聴者数とチャンネル登録者数を見ながら、未来を思い描く。

 この先もずっと、こうして過ごしていきたいな。






「皆、今日は来てくれてありがとう...!さっき言った通り、自己紹介動画はこの後投稿するから、また後でねー!ばいばーい!」


 流れるコメントを見ながら、配信用に作ったエンディング映像を流して、マイクをミュートにした。

 ライブ配信開始からわずか一時間で、耐久配信を終了した私のチャンネル登録者数は154万人。

 文句なく、歴代最速の百万人達成だ。

 最終的な同時視聴者数も150万を越えた辺りで、まだまだ歌うつもりだった私と反対に、Utubeが悲鳴をあげた。

 配信が少し重くなり始めたので、私の初配信はここまでということになった。

 当初の目的の百万人は無事達成でき、アイドルをやっていて良かったなぁ、と心から思う。

 沢山の人に元気を与えられる存在に、またなれただろうか。


「京香、お疲れ様...すごい...カッコよかった」


 横から優里が声をかけてくれる。

 その頬にはうっすらと涙の跡が残っていて、泣いた事がわかる。


「優里、ありがとう...!楽しんでくれた?」

「うん...うん...!」


 涙の跡を拭うように頬を撫でながら優里に尋ねると、新たな雫が瞳からこぼれる。

 幼馴染の親友でありながら私の大ファンでもあった優里には、また表舞台に戻ってきた私を見て、感じる何かがあるのだろう。

 そういえば、コメント欄の皆も泣いていた。

 誰かの心に残り続けるというのは、私がアイドルとして生きた証である。

 これからはvtuberヒメカとしても、皆の心に刻みつけていけたら良いな。






 自己紹介動画を投稿して、優里とリビングでくつろいでいる。

 ソファに寝そべって優里の太ももを借りている私の頭を、優しい手のひらが撫でていた。


「優里、そういえばそろそろお酒リベンジしてみる気になった?」


 優里の大きな胸を見上げながら、尋ねる。


「んぁ!?いやいや、それは落ち着いて欲しいというか...よくない気がするというか...まずいでしょ?」


 首を前に出し、大きな山の向こう側から覗き込んでくる優里と目が合う。


「ふーん...?そっかぁ...まぁ優里がそう言うならまずいのかもね?」


 優里から目線を外し、柔らかい太ももに顔をうずめて、思いっきり息を吹き込む。


「う、うぉおおおおおおお!?」

「あはは、すごい声だね」

「い、いきなり変なことやめてよ!くすぐったいじゃん」


 ビクッと跳ねた優里だけど、私を落とさないように立ち上がりはしない。

 私の幼馴染で親友は、本当に優しくて可愛い。

 私はまた仰向けで寝転んで、優里を見る。

 相変わらず優里の顔は見えなかったから、体を起こして隣に座り直した。


「...ねぇ優里?」

「な、なに...?」


 そのまま優里の耳元で呼びかけると、顔を赤くして聞き返してくる。

 そんな隙だらけの首に腕を回して、胸に抱き寄せた。


「むぐっ...っぷはぁ、く、苦しいよ京香」


 さっきより真っ赤な顔で抗議してくる優里の目がどう見ても怒っているようには見えなかったから、私は「ふふ」と笑う。


「今日はナイトさんも配信お休みだったよね?」

「え?あ、うん。ヒメカの配信がこんなに早く終わると思わなかったから...」

「あー、私なんて一日経っても達成できないと思ってたんだー?悲しいなぁ...」

「ち、違う違う!すぐ達成できるとは思ってたよ...!で、でもこんなに...」

「ふふ」

「...うぅ...意地悪...」


 私の泣き真似に慌てている優里の様子が可愛くてまた笑ってしまうと、今度は少し怒った顔で見てきた。

 そんな優里の頭を撫でて、私は言う。


「お酒の力に頼るのと、お酒なし、どっちが良い?」

「えっ、えっ...えっ!?ど、どういうこと?」


 何もわかってないフリをしている優里の真っ赤な顔を見る。

 むっつりさんめ。


「ふふ...優里なら...良いよ」






 ライブスターズ七期生ヒメカとしてデビューしたこの日。

 幼馴染で親友のこの関係も、また一歩進んだ気がする。




 

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幼馴染の親友が隠れてvtuberをしてるらしい 不和ニ亜 @farnear

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