みんな荒れている

!~よたみてい書

気配が少ない町の中で

『ムアァォゥ!(どきな!)』


 黒毛の猫は毛を逆立たせながら尻尾を立て、牙をむきだす。


{グルルルルゥ、ワウッ!(失せろ!)}


 茶毛の犬も尻尾と毛を逆立たせながらうなる。


 猫と犬は互いに何度も威嚇をし続けた。



 そして、猫は犬に近づいていき、前足で相手の顔を叩いていく。


【猫パンチ:グー】


 一方、犬も前足のかかと部分を猫の顔面に向けてぶつけていった。


【犬パンチ:グー】


 先に猫の足が犬の横顔に触れた瞬間、二匹は互いに三メートルほど後方に吹き飛んでいく。


 そして、二匹は体勢を立て直しながら地面に足を着け、相手を睨みつけ合う。


 犬は口を大きく上げながら猫に接近していった。


【噛みつき:パー】


 猫も犬に近づいていき、指先から尖った爪を飛び出させる。

 それから腕を振り上げ、そのまま横顔に向けて振り下ろした。


 犬の凶刃が猫の胴体に襲い掛かろうとしたけど、猫のひっかきによって顔に直線状の傷を数本刻みながら後方に吹き飛んでいく。


{うぎゃあぁっ}


 猫は地面に着地しながら、

 

『情けない。その尖った歯はただの威嚇用だったようね?』


 犬@5は尻尾を腹部に巻き付け、


{うぅぅ……お腹がすいたからエサを探しに行こう}


 犬は体をひるがえし、路地の奥へと逃げていった。



 寂れた町中の路上で、二十代前半に見える容姿をした茶髪の女性が、頼りなさそうに前方を見ながら歩いていた。


(このまま無事にセッカイセイまでたどり着けば……。情報が正しければあそこの町で裕福に暮らせる)


 すると、茶髪女性の背後を一匹の犬が追いかけていく。


 犬は尻尾を立てながら眼前の茶髪女性に向けて移動速度を上げていき、


(うぅ、イライラする! あの人間で憂さ晴らししてやる!)


 犬は足を動かす速度を上げていき、茶髪女性の足に向かっていく。


 そして、すぐに口を大きく開け、歯を茶髪女性のすねに食い込ませていった。


 茶髪女性@3は顔を歪ませて、


「いたあっ!?」


 前方に三メートルほど吹き飛び、宙で体を反転させながら少し緩やかに地に足を着ける。


 一方、犬も後方に三メートルほど吹き飛んでいき、穏便に地面に着地した。


 茶髪女性は後ずさりしながら犬を凝視し、


(また襲撃なの!? もう、私戦い抜ける自信ない……)


{ははっ、お前はいい遊び相手になりそうだな!}


 犬は吠えると、茶髪女性に向かって駆けていく。


【突進:グー】


 すると突然、少し離れた場所に居た二十代前半の容姿に見える白髪の女性が素早い走りで茶髪女性に近づいていく。


 そして、犬の側面を思い切り蹴飛ばしていった。


【蹴り:グー】


 すると、白髪女性の靴が犬の体に触れた瞬間、白髪女性と犬は宙を移動させられていく。


 犬は真横に吹き飛んでいき、体勢を立て直しながら地表に足を着けていく。


 しかし同時に、路上に咲いていたタンポポを足で踏んずけてしまう。


 タンポポは体を折り曲げながら、


――ふぁらふぁら(あぎゃあああぁぁぁ!)――


【不動の植物の守護:確率で反撃】


 犬@4は体を震わせながらさらにもう一度宙を吹き飛ばされていった。


{しまった!}


 また、着地し終えた白髪女性@7も体をよろめかせて、


(うくゎぁっ!? なんだなんだ!? 突然生命が削られる感覚が!?)


 白髪女性は犬を見つめ、さらに犬の前方の地に体を揺らしているモノに視線を移し、


(あっ……やっちゃった)


 白髪女性は硬い笑みを茶髪女性に向けて、


「お姉さん、離れて!」


 茶髪女性は素早く頷き、


「……はい!」


 後方の様子を確かめながら犬から距離を取っていく。


 白髪女性は尻尾を立て、懐から小さな刃物を取り出しながら犬を睨みつけ、


「さあわんこ! 早く逃げないとその命、このホノカが頂くことになるよ?」


 犬は唸りながら姿勢を低くし、


{獲物を横取りしようってのか!?}


 一回吠えたあと、ホノカと名乗った白髪女性に向かって駆けだす。


 そして、ホノカの足元に接近したら噛みついていく。


【噛みつき:パー】


 しかし、歯が足に接触した瞬間弾かれてしまう。


 一方ホノカは刃物の刃を犬の体側面に差し込んでいく。


【刃:チョキ】


 犬@3は鳴きながら吹き飛んでいき、


{いだぁぁっ!}


 綺麗な姿勢で着地させられる。


 ホノカは口角を上げながら、


「わたしの足は美味しかったかい? おっと、瘦せ細っていて硬い骨しかなかったかな?」


 犬は再び吠え、ホノカに接近していった。


 そして鋭い爪が伸びた前足をホノカの足に向けて横に振るっていく。


【爪ひっかき:チョキ】


 一方、ホノカは握りこぶしで無防備を晒している犬の横顔を殴打していった。


【殴り:グー】


 二匹は互いに後方に吹き飛んでいき、相手を睨んでいく。


 ホノカは腕を組みながら顎を少し上げて、


「ちゃんとしたお手が出来ないわんこはわたしは嫌いだよ?」


{うぅぅ、死の感覚が強くなってきた。くぅっ}


 犬@2は尻尾をお腹に絡ませながら体を反転させていき、遠方に去っていった。


 ホノカは犬が逃げていった方向を指さしながら語気を強め、


「ハウス!」


 そして、茶髪女性がこぶしを顎に添えながらホノカに近づいていき、


「あのー、お体は大丈夫ですか?」


「え、わたし? 全然平気だよ?」


「そうですか? ……あ、それよりも、このたびは助けていただきありがとうございました」


 茶髪女性は両手を体中心に揃えながら深く頭を下げる。


 ホノカはこわばった笑みを作り、肩をすくめながら、


「んー、ちょっとわんことたわむれたかっただけだったから、お礼なんていらないよ」


「でも私のことを救っていただいた事実は変わりません」


 茶髪女性は微笑みながらゆっくりと首を横に振る。


 ホノカは気まずそうに晴天を見上げながら、


「あー、今度は猫とじゃれつきたいなぁ」


「自分のお体は大事にしてくださいね? ふふ……」


「うん、それはもちろん」


「それでは、私はそろそろ行きますね。死の気配も少し感じていますし、早めに移動したいので」


「うん、了解」


 茶髪女性は小さく手を振りながらきびすを返し、少し荒れた町の中を進んでいった。


 そして数十秒後、足を止めて後ろを振り向きながら、


「……あの、お姉さん?」


「うん?」


 ホノカは乾いた笑みを浮かべながら首をかしげた。


 茶髪女性も不安そうな顔をしながら頭を少し傾け、


「お姉さん、なにか……用ですか?」


「お姉さんに用は無いよ?」


「では、一体?」


 茶髪女性は眉尻を下げながら後ずさる。


 白髪女性は尻尾を下げながら首を高速で横に振り、


「違う違う! お姉さんを襲うつもりなんて一切ない!」


「でも……」


「たまたま! たまたまお姉さんと目的地が一緒なだけ! だから、それまで一緒に移動しよう?」


 ホノカは柔らかい笑顔を作りながら両手を広げる。


 茶髪女性は一瞬怯むけど、すぐに微笑み、


「そういうことなら、是非」


 そして、ホノカは周囲を見渡しながら茶髪女性と並んで静かな町の中を進んでいった。

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