あいのないもの

@crazytrpg

第1話

廊下を歩いているとふと聞き慣れた声が聞こえる。


「ちょっとぉ、なにそれぇw」


廊下の先で数人の男子が話していると思えば、間延びした口調と少し掠れた声音が混じっているのに気付く。そちらに視線を向けてみれば、やっぱり想像した通り、鉤が誰かと談笑していた。

鉤が、手を口元に近付けてくすくすと笑う。柔らかい微笑みを浮かべながら相手の話に相槌を打っている姿は、青春を謳歌する14歳にしては大人びている。

そっと離れた所から眺めていたが、ふとこちらの方に視線が向き、視線が交差する。


「...あっ、瞿曇の旦那。こんにちはぁ」


にこりと浮かべた笑顔は先程談笑していた表情とはどこか違い、少年というには妖しすぎて、青年と呼ぶには幼い。

鉤が俺に向けて手を振ったが、周りの男子が慌てて制止させてまた談笑に戻させた。鉤は少し残念そうだったが、こちらにだけ分かる程度に小さく手を振りまた俺には向けない微笑みを浮かべて話し出す。


おおよそ鉤の周りからのイメージは、怪しい雰囲気だが話してみれば温厚で誰に対しても物腰柔らかな態度。学年問わずの親しみやすい何でも屋のような事もしているし、鉤に依頼する奴もいる。それが薬草であろうと魔道具であろうと鉤は最低限の材料費で叶えてくれるのだから、とても魅力的だろう。

でも、そんな誰に対しても優しく、無償に近しい金額で叶えてやるなんてごく普通の人間には無理だ。


「やっぱり...狂ってんだよなァ」


そっとその場から離れてズボンのポケットからスマホを取り出しメールする。


『いつもの空き教室に来い。』


数分経てば通知音がし、返信が届く。


『すぐ行きます』


遠くから鉤を見れば友達に声をかけ、空き教室に向かおうとしているのが見えた。

あんなに楽しそうに談笑していたのに、それを切り上げて自分の呼び出しに応えようとする鉤の様子を見るとなんとも言えない感情が漂う。


鉤は良い。相変わらずの都合のいい玩具で。




━━━━━━━━━━━━━━━


「瞿曇の旦那ぁ...来ましたよぉ?」


空き教室に向かうとどうやら自分の方が先に着いたようで、椅子に座り机に足を乗せて待ち、少し待てばガラッと空き教室の扉が開き鉤が来る。


「今日の依頼はなんですかぁ?」


どうせ分かりきっているくせに。

何も知らない顔をして、まるで初めてだと言わんばかりの純真そうな声音で、余裕そうな様子で、こちらに問いかける。

その余裕綽々な素振りが気に食わない。


「服脱いで今日もケツ貸せよ」


普通こんな事依頼だとしても断るだろう。

でも、それは鉤が普通の人であればの話で。


「はぁい」


鉤は少しの迷いもなく了承し、シャツのボタンに手をかけた。細く長い指が、一つ一つとボタンが外していき褐色の肌が露わになる。

シャツのボタンが全て開き、音も無くはらりと床に落ちたのを見届けると、指が次はズボンへと向かう。

ただ服を脱ぐだけでも妙に艶めかしく、自分が抱いた女よりも妖艶な仕草。

鉤にこんな依頼をしようと考える奴は俺以外に居るんだろうかと、淡々と服を脱ぐのを見て考えた。


「旦那、どうすれば良いんですぅ?」


ぼんやりとしていたせいか気が付けば、鉤は下着一枚になって、不思議そうな顔をしてこちらの顔を覗き込んでいた。今から何をするのかと。


ちょいちょいと手を招いたら、警戒心も無く素直に近寄ってくるのはいつも思うが犬のようだな、なんて。頭の隅で浮かぶ。

そんな無防備に空気に晒された肩の皮膚に歯を立てた。


「い゙っ...ゔぅ...ン、はァッ...」


痛みに耐えながら漏れる掠れた声。肌から口を離せば赤く、あぁこれは暫く残るなぁと他人事の様に思った。

向かい合ったそのままで、鉤の後孔に触れる。ビクリと肩が震えたが、震えたのは一瞬で中指を入れても、僅かに聞こえる吐息混じりの喘ぎ。鉤の身体を弄るのは何度目かも覚えていないが、それほど抱いているからか入り口はすんなり受け入れ、中は熱く締め付ける。


「あッ...ん、はァ...ぅ、ッは、あゥ...」


中の締め付けを解そうと中指を上下左右に動かしていると次第に腰を揺らし、息が熱く、声に欲が混ざってくるのが分かる。

必死に声を押し殺して、顔を見せまいと地面を見つめて肩を震わせて。

どう頑張っても男の身体で、男の声で、男の性器が付いているのは分かりきっている。のに、どうしてこうもどんな表情をしているのかと気になって、ふつふつと下半身へと熱が疼く?

顎を掴み上を向かせた。褐色の頬が僅かに紅潮して瞳の金糸雀が涙で黄濁している。


「はァ...ぁッ...だ、んなぁ...?」


顔を見たまま黙っているからかこちらを心配そうな声音で声をかけられてハッとする。


「.........後ろ向け」


入れていた指を抜くと『あっ』と声が漏れた。

少し震える足を肩幅強に開いてこちらに視線を向ける瞳は、委ねているように見せかけて熱と欲を募らせている。目は口ほどに物を言うとはよく言ったもので、こいつはまさにそれだ。正気でいる間はただただ快楽を拒んで本音を漏らさないし、まぁ、限界を越えるとまた別だが。


後孔に自身を当てがうとゆっくりと腰を進めるとすんなりと収まる。ここは自分の型だとぴったりな感覚にほんの少しの安堵が吐息に混ざるのと同時に鉤の口から甘い吐息が零れる。

自分のソレが全て収まりきった所で律動を始めた。

肌同士がぶつかり合う音が響く度に鉤は甘く鳴いて、奥まで突けば背を仰け反らせ甲高い悲鳴に似た喘ぎを上げる。


最初は肩幅に開いていた足が快楽が募れば募るほど次第に足に力が入らないのか内股になり、腰が引け、下がる腰。

逃さぬよう鉤の細い腰を強く掴み引き寄せた。

そうやって逃げ場を失った鉤は堪えようと、ただ与えられる快感に抗おうと抵抗し出す。

なんとか逃げようとイイ所を避けようと身動ぎをし、その行動が逆に自分を追い込む結果になっている事に本人は気づいていない。

自分の首を絞めるよりも中を締めろよな。

なんて考えながら奥へ奥へと突いているとナカの締め付けが強くなり鉤の腰が震えた。


「あッ...んゥ...はァ.......ハ、あッ〜〜!」


絶頂し締めつける力が強くなるナカはまるで出せと言わんばかりに強く、強く、刺激を与えてくる。

相変わらず、具合が良くて、程よい締り加減で。

そして、何より。

この男はどれだけ抱いたとしても快楽に不慣れな様が面白い。

自制が効かなくなるのが余程怖いのか、毎度、毎度、快楽に堕ちるのを拒み声を出すのも控えようとする。


だが、俺は抑えさせるつもりは無い。


日頃の余裕綽々とした鉤。

殴る蹴るの苦痛を与えても笑っている鉤。

慈愛に満ちているようで空っぽの鉤。


そんなお前が、今は、どうだ?


服を剥いで身体を弄ぶ。

最初は笑みを浮かべてこちらの好きなようにさせても、段々と加速する快楽の波に顔を歪め、涙を浮かべ、身を捩るのは蛇の様。

いやだいやだと泣かせ、挙句には女のように...それ以上に淫らな表情で喘ぎ声を洩らし、俺に啼かされている、なんて誰が予想つく?


そんなの、ふつふつと加虐心が煽られて当然だろ。


自制心なんて捨てろとナカを抉る。

もっと哭けと肩を噛んだ。


溺れて、沈んで、こっちまで落ちろよ。


体勢を変えさせようと背後から入れていた自身を抜いた。しっかり熟れた蕾は、名残惜しそうにヒクついて。


「壁に寄れよ」


鉤をの肩を掴み、壁に凭れさせ、鉤自身に膝裏を持ち上げさせる。

何をさせても平気そうな素振りをするのに、こういう体勢は恥ずかしいのか顔を逸らし、熱を浮かべた視線を俺に向けているのは自覚してんのか.......いや、どうせ無自覚か。

控えめな本人の意志とは反して、痛そうなほど主張しながら先走りを垂らしそそり立つ棒や今か今かとヒクつく菊門は、早く挿れてと熱烈に欲し誘っている。が、いざ挿入しようとすればやっぱり期待混じりの羞恥で目を合わせない。


まぁ、鉤の反応は放っておき、ぐぷりとナカに再度入れてやれば、散々掻き回したからか腸壁がみっちりと絡みついてくる。

呻き声のような声だと視線をやれば、片手で口を覆い声を抑えようとしていた。すぐに掴んで離させた。

せいぜい萎えない程度に喘いで早くイかせてみろっての。

耳元に唇を寄せて囁き、耳を噛む。

――声を我慢してんじゃねェよ。

すると鉤は目を見開き、何か言いたげに口をぱくぱくと動かしていたが声になる前に嬌声が言葉を紡ぐのを遮った。

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