第32話 森神様はかく語りき

「………………はいぃ?」


 俺は、なんとも気の抜けた声で聞き返してしまった。


 ……なんて?

 今、この神様なんてった?


 俺に――エルヴィを孕ませろって――そう言ったか……?


「な……なななにゃにゃにゃ、にゃにを!? にゃにを言っているでしゅか森神様、ですっ!?」


 あまりにも狼狽しまくって、完全に噛み噛みで叫ぶエルヴィ。

 その顔は耳が燃えるように真っ赤で、ダラダラと冷や汗まで流している。

 どうやら俺よりも彼女の方が激しく困惑しているらしい。


『ニャハハ、おぼこなエルヴィにはちょっち刺激が強い言い方だったかな~?』


「……あの、すみません。俺もだいぶ混乱してるというか、何故俺がエルヴィを……その……」


『なんや、シュリオちゃんには美味い話やろ? 神様公認で森人エルフとチョメれるんやで? あ、ひょっとしてシュリオちゃんって童貞~?』


「………………聞かないでください」


『あ……メンゴメンゴ。忘れて? な? 大丈夫やって! シュリオちゃんならその内に卒業できるし、なんならハーレムでもなんでも作れるから。元気出し!』


 ……神様に励まされてしまった。

 でもなんだろう、全然嬉しくない。

 むしろちょっと人生に絶望しかけている自分がいる。


 そうですよね……童貞なんて恥ずかしいですよね……ハハ……。

 

『あ~もう! 仕切り直しや、仕切り直し! 初心ウブな二人のために、ウチが今からちゃんと説明したる!』


 森神様はブンブンと両腕を動かし、場の空気を換える。

 そして「オホン!」と咳き込み、


『さっきも言うたけど、今の森人エルフたちは昔と比べて力が弱まっとるんや。お陰で信仰心も弱くなって、ウチも満足に力を発揮できんようになってる』


「……だから、強い力を持つを外部から取り込もうと?」


『そうそう。ホントならシュリオちゃんにはウチの信者になってもろて、ずっと森人エルフの里にいてほしいんやけど……たぶんイヤって言うやろ?』


「それは……まあ……」


 俺はあくまで冒険者だし。

 国中――いや世界中をあちこち渡り歩くのが仕事みたいなモンだし。

 冒険者辞めろって言われたら、そりゃイヤって言うな。


『それに森人エルフの里も一枚岩やないし、人間のシュリオちゃんが居座るのを拒絶する者たちも出てくる。そこで――』


「俺とエルヴィ、つまり人間と森人エルフ混血ハーフならその問題を最小限に抑えられる、と」


『そういうこと。言い方悪いけど、妥協案っちゅうワケや』


 なるほど、森神様は森神様なりに森人エルフの里のことを考えてるんだな。

 さっきのエルモみたいな過激派がいる限り、俺の命も保証できなくなるワケだし。

 道理と言えば道理だけど……。


「でも、俺の子供が強い力――高いレベルに至れるかどうかなんてわからないんじゃ……」


『勿論、承知しとる。でも可能性はある』


 森神様はフゥと小さくため息を漏らし、


『このまま放っておいたら、森人エルフたちが弱くなっていく一方なんや。森人エルフの衰退は森の衰退、森の衰退は森神ウチの衰退、そういうこっちゃ。ウチはこれまで守り神として皆を見守ってきたけど……これからは少しずつでも、森人エルフの里を変えなきゃアカンと思ってる』


「……森神様の考えはわかりました。ですがその、俺はともかくエルヴィの気持ちを無視するのは……」


『ん? それなら大丈夫やろ。だってエルヴィ、めっちゃめちゃシュリオちゃんに惚れ――』


「は、はわ――――っ!? い、言っちゃダメ! 言っちゃダメ、です!」


 慌てて森神様の言葉を遮るエルヴィ。

 なんだろう、そんなに森神様はマズいことを言おうとしたのかな……?


『ニャハハ、そんなやからいつまでもおぼこなんやでエルヴィ~』


「い、いつかちゃんと自分で伝えます、です! 大丈夫ですから、です!」


「ほんならエルヴィの成長を楽しみに待つことにするか~? で、どうやろシュリオちゃん?」


「えっとその……俺は……」


『あ、ちょい待ち。やっぱ急いで答えんでええ』


 森神様はピッと腕を上げる。


『人間と違って、ウチも森人エルフもまだまだ長生きするんや。あと10年そこらなんて平気で待てる。エルヴィももっと冒険したいやろし。だから冒険しながらでええから、しばらく考えてみてくれへん?』



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【あとがき】

ラブコメで連載していた作品が(何気に初めて)完結したので、よろしければ息抜きにお読みください。


『転生したら女騎士団長のおっぱいを支える係になった件について。』

↓↓↓

https://kakuyomu.jp/works/16817330648050147033

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支援職の俺だけ使える【ポイントスティール(経験値奪取)】 ~追放されたら味方に付与していた経験値がカムバックしてきた件~ メソポ・たみあ @mesopo_tamia

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