第31話 シュリオちゃん、エルヴィを〇〇してくれへん?

『ウチの〈聖域〉へようこそ、シュリオちゃん。チミ・・が来るのを、首をながーくして待ってたんやから』


 ――俺たちの前に現れた、半透明の女性。


 女性……だよな。一応。

 胸の膨らみや腰の細さ、声質などからして女性であろうとギリ判別できるが、それ以外の外観は全く人間とは異なる。

 長い髪の代わりに細長い葉っぱ、肌は樹皮を連想させ、その手足は枝のように伸びている。


 これが、神様――。

 生まれて初めて見る御神体に、俺は流石に気後れを起こしてしまった。


『ちょいちょいシュリオちゃん、そんなビビらんといてーな。ウチ、悪い神様じゃないよ、なんつってな! ニャハハ!』


「……」


 ……な、なんだか随分と陽気?な神様だな……。


 俺のイメージだと、神様ってどーんと鎮座して人智を超越した発言を繰り返す、みたいな感じだったんだけど……。


 森神様は、なんかまるで酒場にいる明るい看板娘みたいだな……。


『さぁ~て、初めましてシュリオ・グレン。ウチが森人エルフの里の守り神であり、豊穣を司る森神――ドリアードっちゅうモンや。よろしゅうな』


「は、はい! よろしくお願いします!」


 森神様ドリアードに挨拶されて、反射的に挨拶を返す俺。

 そんな俺の隣で、エルヴィは落ち着いた様子を見せる。


「森神様、お久しぶりでございます、です」


『んーんー、久しぶりやねエルヴィ。ちょこっと見ない内に、まーた美人さんになっちゃってまあ』


「そ、そんな! 美人さんだなんて……!」


「あ、あれ? エルヴィは以前にも森神様と話したことがあるのか?」


「はい、です。森人エルフの女は、《聖域》まで来れば森神様と直接お話できる、です」


『ウチは豊穣を司る神やから、その象徴たる女にはウチの姿が見えるんよ。昔は男共にも見えるようにできたんやけど、最近はすっかり力が弱まってなぁ。今じゃ〈聖域〉内で女たちと話すのが精一杯になってもうたわ』


 あ~肩凝る~、と背伸びする森神様。


 なるほど、さっきのエルモの反応はそういうことか。

 俺たちが森神様に呼ばれたと教えられた際「デタラメだ!」と叫んでいたのは、自分で森神様に確認する術がないから。

 森神様といつでも会話できるなら、そんなこと言わないもんな。

 直接話をすればいいだけだし。


 ……あれ?

 でも、それなら――


『気付いた? シュリオちゃん?』


 ニマニマと笑いながら、森神様は尋ねてくる。


「え、ええ……俺は男なのに、なんで森神様が見えてお話もできてるんですか?」


『そう! それこそがウチがシュリオちゃんを呼んだ理由や!』


 ビシッと俺を指差す森神様。


『シュリオちゃん、チミ……ものごっつレベル高いやろ。で、それをどうにかしてエルヴィに分けた。そやな?』


「え、ええ……」


『〝加護〟を授けられた信者は、極めて高いレベル――だいたいレベル200を超えた辺りから信仰神と精神が繋がるんよ。平たく言うと神通力を得るんや』


「なるほど……だから〈古代の枯坑道〉にいる時、エルヴィは森神様の声を聞けたんですね」


『あん時は、そらもうたまげたで~? なんせざっと一万年ぶりに信者と精神が繋がったんやから』


 い、一万年……。

 流石神様、スケール感が人間と違い過ぎる。

 そりゃえらく久しぶりだったんだな。


 だけど今の話で、ようやく色々と理解できた。

 確かに冒険者――いや人間はレベルが上がれば上がるほど、様々な能力を獲得していくことになる。

 特定の職業ジョブに就いていれば特定のスキルを――。

 〝加護〟を得ていれば特殊なスキルを――。

 そんな具合に。


 そういった能力の獲得の先で、信仰神と精神が繋がるらしい。


 しかしレベルを上げれば神様と意思疎通のパスが通るなんて、完全に初耳だ……。

 そりゃまあ、レベル100を超えることは滅多にないなんて言われる昨今。

 そんな時世でレベル200を超えた人の話なんて、普通は聞くに聞けないし当然か……。


 森神様は説明しながら、俺の前までフワリと浮いて移動してくる。


『シュリオちゃんにウチが見えるのは、それだけヤバい・・・レベルに到達してるっちゅうこと。〈聖域〉まで来てくれれば、〝加護〟がなくても見えるはずや思うてな。で、今どれくらいのレベルなのか言ってみ?』


「お、俺のレベルは318ですけど……」


『~~~~っ』


 ワナワナと震える森神様。

 そして――


『いい! いいで~シュリオちゃん! 最っ高に面白いわ! やっぱ呼んで正解やったな!』


「あ、あの……そもそも、俺がここまで呼ばれた理由って……?」


『そりゃ、面白そうだったからやけど?』


「……やっぱそれだけなんですね……」


『――なんつってな。本当はちゃんとあるで、理由』


 森神様はクスッと笑い、


『今の森人エルフ――ウチの信者たちは、中々シュリオちゃんみたいなレベルに到達できる者が現れんくなったんよ。だからそろそろ、外からを入れたかったんや』


「種……ですか……?」


『うんうん。なぁシュリオちゃ~ん、神様のお願い、聞いてくれる~?』


「そ、それはまあ、森神様の頼み事であれば……」


 内容によりますが――。


 俺はそう言い加えようとした。

 が――それよりも早く、森神様はにぱっと笑って、



『なら良かったわ! そんじゃシュリオちゃん――エルヴィを孕ましてくれへん?』

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