(8)

 少なくとも、ヤツの言った通り、国内のニュースサイトの大半に繋らなかった。

 俺が指定された場所に辿り着くと……。

 戦場だった。

 その場に居る全員が言い争いに近い口調で何かを話し続けている。

「おお、来たか。よし、お前の担当は、この子供だ。組むのは……いつもの『十両』と、そこの4人。車は好きなのを2台使え。ただし……ワゴンだ」

 俺の上司である「阿弥陀様」は、そう言って、俺に書類を渡す。

「何すか、これ?」

 そこに印刷されていたのは……子供の写真と、その子供の名前に住所、通ってる学校や塾……そして、書類の最後には、手書きで「第2種特殊倉庫④」の文字。

 何者なんだ、この子供……ん?

 名字は……「深作」?

 妙だ。

 俺の故郷の辺りには多い名字だったが……故郷を出てからは、ほとんど見掛けない名字だ。

 もちろん、この広島でも見掛けた事が無い。

「広域組対マル某の広島県統括部のエラいさんの子供だ」

「エラいさん……? 東京中央から来たキャリア組ですか?」

「ああ……」

 第2種特殊倉庫とは……この職場では「殺さない事を前提にした監禁場所」の意味だ。

 どうやら……「阿弥陀様」は……俺達に警察のエラいさんの家族を誘拐して来い……と言ってるらしい。

「あ……あの……」

 俺が、そう訊こうとした途端、「阿弥陀様」は俺を手で制し……続いて両手を何度もパンパンパンっと鳴らす。

「おい、聞け、全員だッ‼ 何の事か判ってない奴が大半だろうから説明する」

 獅子吼ってのは、元々は、仏の説法の事だそうだが……「阿弥陀様」はコードネームに相応わしい獅子ライオンえ声のような大声を出す。

「知ってる奴も居るだろうが、東京でエラい事が起きてる。富士山が噴火して……首都圏にとんでもねえ被害が出たらしい」

 ……な……何だと?

 ……お……おい……それじゃあ……。

「広域警察は、今、指揮系統が完全に麻痺してる。予想外のハプニングだが……は、このハプニングを利用して、かねてからの予定を早める事にした」

 ま……待て……待ってくれ……何が起きてる?

「今から……。まずは……

 おい……まさか……俺が潜入捜査をやる羽目になった、あの切っ掛けの事件……米軍の岩国基地から武器・弾薬を強奪した事件は……警察上層部が考えてたような「隣県のヤクザとの抗争」なんかじゃなくて、遥かにデカくて狂った目的の為だったのか?

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魔導兇犬録:闇黒新世界 @HasumiChouji

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