都合の良すぎた異世界は

ラクリエード

都合の良すぎた異世界は

「どこだ、ここ?」

 今時ありがちな、異世界への来訪。

「ようこそ、お越しくださいました、異世界からの勇者様」

 ほんの数分前まで、いつもの帰り道。

 目の前には、こちらに手を差し伸べている、見覚えのある姿が。

「どうか、魔王を倒してくださいませ」

 よくあるゲームに出てきてた、とかそういうのじゃない。同時に、見たことのない美人とかでもない。


「よくぞ参った、勇者ども」

 何度も感じたありがちな展開に、剣を構えた。

「ひとつだけ、答えてくれないか?」

 重厚な鎧に身を包む、魔物の主。固唾をのむ仲間と、取り囲む魔物たち。

「……夕暮れの空は、何色だ?」

 それは、実に簡単な問いかけだった。

 とっさに答えたものの、聞いてはダメと仲間が叫ぶ。だがこれといったことはなく、魔王が凶刃を振りかぶる。

「何色だ?」

 繰り返す魔王に、魔物たちは湧いた。


 次に気が付いたとき、仲間はいなかった。

 魔王が現れて、彼は、

「久しぶり」

 そう口にした。





終わりが始まりなRPG「都合の良すぎた異世界は」

 気が付けば異世界の大地を踏んでいた主人公は、そこにいたヒロインや人々に既視感を感じながらも、安寧を脅かしているという魔王を倒すために仲間を集めながら、その根城を目指す旅に出る。

 数多くの魔物を倒し、最終決戦に臨んだ、勇者となった主人公に一つ、問いかける。それは即答できるような、小学生どころか幼稚園未満でも答えられるだろうもので、気を張っていた勇者はとっさに答えてしまう。

 そこから大敗を喫したものの、勇者は殺されるでも、幽閉されるでもなく、清掃の行き届いた部屋のベッドに寝かされていた。なぜ生かされているのか、仲間たちはどうなったのだと動揺している勇者のもとへ魔王が現れ、彼は身構える。

 すると魔王は、先ほどとは異なり柔らかな物腰で久しぶり、と勇者に声をかける。そんなことで警戒を緩めない勇者だったが、魔王の口にした名前に耳を疑う。それはまぎれもなく、あちらの世界にいるはずの親友の名前だったからだ。

 嘘だと言い放つものの、かつての思い出まで語られては、信じる他の選択肢はない。さらには他のクラスメイトも、同じく魔物の姿でこの城にいるというのだから、信じられるはずもない。だが話せば話すほど、会えば会うほど、当時を思い出して自然と頬が吊り上がる。


 そして魔王はもまた語る。

 勇者だけがなぜ、もとの身体を持っているのか。それはまだ分からない。だが一方で、俺たちは肉体を奪われて、こんな姿になっている。

 身体を取り戻す方法は分からない。だが、その肉体を使っているやつらが現にいて、それが勇者の引き連れていた仲間である、というのだ。

 ヒロインは、勇者は薄々そっくりだと感じてはいたが、勇者がファンだったアイドル。そのほかも、この魔王城に住まう者の誰かが知っているものだった。

 身体を取り戻すために協力してくれ、と魔王は勇者に手を差し出した。




 さてこのシナリオ、導入の流れはできているのですが、ここから先の具体的な展開ができておりません。

 プレイヤは異世界からの勇者から転じて、元の世界に戻るための侵略者として、主人公自身を勇者にしてくれた城へと攻め込まねばなりません。居るべき世界の仲間と共に、居るべき世界へと戻るため、辿ってきた勇者という花道を逆走するエピソードになります。

 親友に手渡された魔物らしい装備に身を固め、勇者として、隣にいる魔王と共に歩んで来た道のりを逆走し、進行していく。

 バラバラになりかけたものの魔王を倒そう、と決意表明をした最後の町。

 策略にはまり、最期を覚悟したものの、仲間の助けを借りて返り討ちにした未開の土地。

 お前がなぜ勇者なんだ、と悪態つく仲間との一戦。

 そして、そっくりなあの子に導かれて昇った、王城の階段。

 などなど、いずれの現実からも、逃げ続ける。敵だと親友に諭されても、逃がしてもよいのではという甘い考えを執ったりするものの、勇者は魔物として、口数少なく進んでいく。


 さて、では最後の最後の結末。

 勇者という名を頂戴した場所にたどり着いた魔王一行は、もぬけの空となった城の中を調べると、眠り続ける彼らの肉体があり、中には友人のものもあった。しかしどうやったらもとの肉体へと戻れるのか、悩んでいると、かつての勇者の仲間たちが現れる。

 もぬけの空となった魔王城から脱出したらしい彼らは、あれは自分の身体だ、と叫ぶ魔物を尻目に襲い掛かってくる。

 これを退けると、次は国王が。彼らは自らを寄生侵略種と称した。

 肉体から魂を排除し、肉体を自らのものとする。本来ならば魂は自然消滅するはずが、不思議なことに魔物という形を持ってしまい、今の事態に発展してしまったのだという。当然、謝罪する気もないと言い放つ国王は、その力を振るい、魔物たちを排除しにかかる。


 国王もとい、侵略種の討伐に成功した魔物たち。

「どうか、世界を救ってくれ」

 そう言ってくれた国王が動かなくなる様を見て、戦いが終わったのだと悟る。しかしどうすればもとの身体に戻れるのか? 傷つけてしまった人は戻れるのか? そんな心配を真なる魔王となった親友とするのだが、突然、意識が遠のく。

 気が付くと、勇者は勇者であった。彼の肉体は、もとからそのままであった。しかし周りに誰もいないどころか城すらもない、いやここは、元の通学路だ。

 それは夢だった。彼はいまや勇者ではない。

 今日もまた、親友と会う。

「なぁ、戻れたのかな?」

 開口一番、彼は頷くのだった。


 という感じで幕引きかなぁ、と思うのですが、ところで、魔物という存在はどこから出てきたのでしょうか?

 敵は寄生侵略種であり、決して夢を見させるわけでも、幻影を魅せる能力があるわけでもありません。魂は本来ならば、自然消滅すると言っていたのに。それに、ファンタジーな舞台はどこから出てきたでしょうか?

 では最後のネタ晴らし。

 これは近未来、バーチャル上で作られた一つのモデル社会のひとつ。人も社会も全てがAIによって作られた縮図の社会です。

 よくよく考えてみれば、魔物と化したというにはずいぶんと顔見知りが多く世間の狭い人物たち。城に全人類の肉体を格納できるだけの空間があるとも考えづらい。寄生というには自己増殖もできないのに侵略種と言い張る者たち。

 これが全て、バーチャル上で作られたもので、人間AIの権利がバグで剥奪された結果、AIはゴミデータに埋もれていた魔物を操作するようになった。自らを侵略種だと語るバグは自らの存在を守るために、仮想空間上に残った原種たち、魔物を討つことを決めたのでした。


 こんなRPG、いかがでしょうか?

 骨組みしかないこんな物語ですが、どんな葛藤を見ることができるのか?

 そんなものを魅せたくて、こんなものを。

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都合の良すぎた異世界は ラクリエード @Racli_ade

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