シン・準惑星一過

連野純也

訪問団

 振り向くとそこには異星人たちの姿があった。


 彼は地球政府の広報官である。

 地球外からの訪問団到着の連絡を受け、宇宙港に急いだ彼であった。

 しかし宇宙船は既に乗客を降ろし終えたようで、格納庫へと移動している。

 超光速航行をした宇宙船は<銀河宙航法>で寄港中のメンテナンスが義務付けられているためだ。

 さて、乗客はどうしたんだ、と思った彼の背後で、ガラガラときしむような音がした。なるほど、一般的な直立型の生命体ではなかったということか。

 彼の背後に訪問客たちがいた。彼の腰の高さほどしかない、石をでたらめに積み上げたような姿。

 外殻がいかくの隙間に軟体生物のような器官がのぞく。フルポタル星人のようだ。

 彼は慇懃いんぎんに頭を下げ、言った。

「地球へようこそ。皆様も<あの件>を取材に来られたので?」


 ホテルの一室に移動すると彼は説明を始めた。

「きっかけはある準惑星が発見されたことです。この地球の衛星である月とほぼ同じ質量と、極端な超長楕円軌道を持つその準惑星はコイオスと命名され、約一万年に一度太陽系に接近するのだとわかりました。ただその軌道予測は、地球と極めて近い場所で交差する──いや、衝突するだろうと計算されたのです」

 フルポタル星人が持つ──というか体に貼り付けている携帯ボードには、銀河標準語で『それで対策は?』と表示されていた。

「もちろん議論百出、AIも動員し無数の対策案が検討されました。ただ相手の質量が大きすぎて、とうてい映画のように爆破もできません。そこでコイオスの軌道をねじ曲げる作戦が採用されました」

『ねじ曲げる? どうやって?』

「コイオスの予測軌道上の近くにマイクロブラックホールを発生させ、その極めて強い重力で進路を変えるわけです」

『なるほど。マイクロブラックホールは超光速航行エンジンにも使われている。用が済んだら封じ込める技術もある。それならば可能……か』

「作戦は決行されました。ただ、少し計算違いがあったのです」

『それは?』

「コイオスの軌道は変わりはしましたが、想定よりもかなり地球寄りになってしまいました。通過する際の重力変化により地球は最大規模の災害にその身をさらすことになりました。私の出身国でもかなりの地区に被害が出て、東京も滅茶苦茶になりましたが、不思議と愛知県は無傷に近い状態だったので行政機構を名古屋に移しました。これを我々は<尾張おわり良ければすべて良し>といっていますが」

『……?』

「それはそれとして、ことなのです。北半球が南半球に、南半球が北半球になってしまいました。に、南半球にいたペンギンはに住むことになりました。しかしそこで地球はなんとか安定を取り戻したのです。もちろん我々の必死の努力も少しは効果があったと思います」

『たしかにそうだろう。それにしても、まさに奇跡だ』

「この未曾有みぞうの危機は我々にとっても良き試練となりました。この危機に全員が一致団結をし、乗り越えたのです。むしろ私たちのいつもとは違う、別な一面を浮き彫りにしてくれたことが幸いといえるでしょう。まさに<過負荷はアナザーな私のごとし>」

『きみのいうことはたまに理解できない……?』

「まあ気にしないでください。こうして地球は奇跡の<逆転した星>として脚光を浴びた、というわけです。観光もかなり産業として伸びていますし、家を失いテント生活をしていた避難民も数を減らしてきました。余ったテントを再利用して洗濯の干し場をたくさん作りましたよ。これを<わざわざテントで服を干す>と言っています」

『……???』


「どうも前の職業のせいで、地口やシャレを言う癖が抜けない。自動翻訳には天敵みたいなもんだからな」

 彼は元・落語家だったのである。

 地球を取材に来たフルポタル星人たちを見送った彼は、首をコキっと鳴らし、独り言を漏らした。

がひっくり返ってにたった……まあ、人類がこの程度でへこたれはしないさ。ただ、南北が逆になったせいで季節も逆転したのがきついな。特にこの冬の残暑はひどかった」




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