動け僕の脚


(弓弦サイド)


休憩が終わりまた練習を再開しだす。


メンバー全員の厳しい表情と息切れ。疲れていることなんて誰でもわかる。

僕も琴姉に言った手前、真剣に無我夢中でただひたすらドラムを叩く。


一曲通し終わりかけた頃、ふと目の端に映る動くもの。





誰かが倒れた。


琴姉だ。




助けに行かなきゃ。




あれ




なんで、なんでなんだろう。




ドラムを打つ手が止まらない。



この時間5秒も経っていないかもしれないけど、まるで時がゆっくりになったかのように目の前がスローで流れる。



止まれ僕の手。



琴姉が倒れているのに。



それから、1秒もしないうちにみんな気づいたのか楽器の音がバッと止まる。


僕も椅子から立ち上がり震える手でバチを置く。



みんなが琴姉のところへ駆けつけているのに。



僕は、僕だけが。



脚が動かない。



どうして。



『だ、だいじょうぶ…。背中が急に痛んで…』

苦しそうに顔をしかめながら、なんとか笑顔で言う琴姉。


「琴姉、ほんまに今日は休んで?帰ったほうがいい。」


「ごめん。張り詰めすぎたね。」


メンバーや先生が琴姉を囲む中


自分だけが一人その場に突っ立っていた。





ようやく琴姉が倒れたということに実感がわいてきたとき


途端に罪悪感が湧き上がってきた。


僕のせいかもしれない。


集中しているのはわかっていたのに、無理やり練習を続けさせるようキツく言ったこと。


つい焦ってメンバーに苛立っている様子を見せたこと。


僕がした行動全部が、この状況に繋がっているようで。




と、こっちをちらっと見た青葉くんと目が合う。


しかし、すぐに逸らされ起き上がろうとする琴姉の肩を支えた。




もしメンバーにも嫌われたら?


こっちに向けているみんなの背中が、僕に対しての呆れと不信を表しているようで。


ひたすらに怖かった。



ここでやっていけなかったら


もう僕は生きていけない。










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君が生きた証拠 ぴつ @komeryo

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