衝突

それから半年が経った頃、次のコンサートに向け私達は毎日練習していた。

新曲を出す、ということもあり空気は少し張り詰めている。


「んー、サビの前のとこなんかいつもタイミングずれてる。」

「みんな集中して。」


疲労感を含んだメンバーの声やトレーナーの声が練習室に響き渡る。


それからまた演奏し始めたが、トレーナーの先生が途中でストップをかけた。

「琴、音同じとこ外してるよ。」


『すみません…』

疲れてるのはみんな同じ。疲労を言い訳にはできない。だけどもう身体は限界。


「わからないなら、わかるまで私に聞いてほしい。同じとこでとめるのもったいないでしょ?時間が」


厳しいようにみえて正しいことを言う先生の目が見れない。わかってるのに、こんなにも体力がない自分に嫌気がさす。情けない。


「体調悪い?」

佑樹がそんな私を見かねて声をかける。


『ちょっと疲れてるだけ。大丈夫。ごめんね。』


すると弓弦が口を開いた。

「疲れてるのはここにいる全員同じだよ。本人が大丈夫っていうなら大丈夫だね。もう時間もないしさ、琴姉にこんなこと言いたくないけど、もっと集中しよう。」


「そんな言い方なくない?琴姉いつもミスしぃひんし。見たらわかると思うけど、ずっと集中してるやん。」

充希が弓弦をキッと睨む。


「集中してないから、いつもはしないミスするんじゃないの?時間ないんだよ?」


やばい。完全に空気が悪くなってる。私のせい。どうすればいい。私が音外したからだ。


『ごめん。ほんとに迷惑かけてごめん。』


「誰のせいとかない。迷惑なんてかけて当たり前。迷惑かけないよう気使って衝突避けてるグループなんてただの不仲だろ。そもそも間違えて当然くらい難しいことしてるんだし、俺らは。みんな一旦一時間休憩入れよう。」


青葉が言い終わるのと同時に、弓弦は部屋を出ていった。


「弓弦も疲れてるんだな、気持ちが焦ってるんだと思う。琴姉、あんま気にしないほうがいいよ。すぐ仲直りできる。」

『ありがとう、青葉。』


キーボードから走ってきた佑樹。

「これだけは言えるけど、だーーーれも責めてないからね。俺のほうがいつもミスばっかだし。」


みんなに気使わせてばっかりじゃん。

一番年上なのに。私がこんなんじゃ情けない。









こうして、一時間の休憩が終わる。

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