一冊の本
『っはぁ〜〜〜!!!』
ツアーの休暇はあっという間に終わり、今日もスタジオで練習してきた帰りだ。メンバーでシェアホームしている家に先に帰り、自室に向かう。そして思いっきりベッドにダイブ。みんなはまだ帰ってこない。いつも騒がしい家に、たった一人天井を見上げる時間、この時間がたまらなく好きなのだ。
手をぐーっと上に伸ばし、大きなあくびをする。ふと手になにか当たる感覚。
手に取るとベッドの横に挟まっていた一つの本だった。そうだ大分前に読んだきりだったけ。
短編のエッセイ。
「「 ささやかなことが一番大切 」」
パッと開いたページに書いていた言葉。ありきたりじゃん。多分、何千ものドラマで出尽くした言葉。
私は本を閉じ、目を閉じた。
やっぱり好きだ。自分を見つめられる時間。落ち着く。
ふと目が覚めると、一階でみんなの声がしていた。
寝てたのか、何分経ったんだろう。一階へ降りると、みんなは夕食の準備をしていた。
「あ、琴姉おはよ〜。」
佑樹が私に気づいて声をかける。
『おはよう寝ちゃってた!ごめん!夕食作らせちゃって。』
「いつも作ってくれてるやん!今日は琴姉座ってて!」
ぐいぐいと私の背中を押す充希の服には材料の残骸が飛んでいる。
『服…』
当の本人は、全く気にしてない様子で楽しそうにスキップしながらキッチンに向かっていった。
「よし、できた。」
青葉の一声とともに、目の前に綺麗に焦げ目のついたグラタンが出てくる。
『おおおおおおお!!!美味しそうすぎるってえええええ!!!!』
「いっぱい食べる〜!」
弓弦も嬉しそうにお皿によそう。
『え、ほんとに美味しい』
「まじで!やっぱ私がいたからかな〜。」
「「「「自分で言うな」」」」
「あれ?琴姉もう食べないの?」
大皿にあったグラタンももう少しというところで、青葉が私に尋ねる。
『うん、もうお腹いっぱい〜。美味しかったぞ!ありがとうね』
すると弓弦が考える仕草をしながら言った。
「この前もあんま食べてなかったよね?ダイエットでもしてるの?」
『そう?違うけど…?でも、最近すぐお腹いっぱいになるんだよね〜。あと食欲ないときも多いかも。なんでだろうね。』
「んー。多分ストレスとかだと思うけど、病院行ったほうがいいかもね?」
『食欲ないくらいで大丈夫。私を誰やと思ってるの。』
「老婆」
『いたわれ』
「でも、なにかあってからじゃ遅いし。病院行くに越したことはないよ。」
医者の家に生まれた佑樹は、多分そこんとこ厳しいのだろう。
『そうだね、また行ってくる。』
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