最終話 防具たち

 最近1つ気になることがある。それは、私が過去に作った防具と似たようなものを装備した戦士が増えたことだ。おそらく防具に対して私と同じような趣味嗜好を持つ防具職人が現れたのだろう。

「…是非その人と防具について語り明かしたいなぁ。」


 そんなことを思っていると表の店のドアに付けてある来店の鐘がなった。どうやら店にお客さんが訪ねてきたようだ。噂をすれば影が差すということわざがあるし、例の防具職人かと期待しつつ店頭へ向かった。

「いらっしゃいませー…って、所長!?お久しぶりです!」

「おう。うちの製作所で働いてたとき以来だな。俺が出張で留守にしてる間にいなくなるなんて水臭いじゃねーか。」

「挨拶に行けずすみません…副所長に今すぐ出ていけって言われたので…」

「あの野郎やっぱりか…すまん。俺の部下が迷惑かけたな。」

「いえいえ!正直今の生活の方が楽しいですから!」

「そりゃあよかった!ところで聞きたいんだが…最近ダンジョンで魔物の攻撃をくらっては何かをメモしてる防具職人ってひょっとしてお前か?」

「えっ?もしかしたら私かも…まさか他の人に見られてたとは…」

「やっぱりか!思った通りだったぜ!!」

 所長は予想が当たったことが嬉しかったのか、私の背中を叩きながら喜んでいる。しかし、さすがは所長だ。防具学校から私を製作所の防具開発部にスカウトしただけのことはある。私の人となりを熟知しているようだ。


「…っと、そろそろ本題に入ろう。製作所辞めたとき今までに開発して没になった防具を全部置いていっただろ?」

「はい。製作所の素材で作ったものなので…」

「相変わらず真面目だな。実はその…試しにお前の防具を加工して売り出したら爆売れしてな!今日はその防具と売上の何割かを持ってきたんだ。」

「ああ、私の趣味どストライクな防具は所長が原因だったんですね!道理で私の過去作に似てると思いました!!」

「…お前のアイデアを勝手に使って売ったことを怒らないのか?」

「怒りませんよ!元々趣味…ではなく販売用に開発していたわけですから!それより防具を見せてくださいよ!!」

「おう!!」


 奥の作業場へと案内すると、所長は部屋の中央にある大きな机の上に防具を並べていった。防具を見ていると製作所に勤めていた時のことを思い出した。周りの職員達が所長直々にスカウトされた私を快く思わなかったため人間関係は最悪だったが、お金を気にせず防具を作れたのでとても楽しかった。

「これはグリーンキャタピラーの糸で作ったマスク!」

「戦闘中に息苦しいって没になったやつな!糸を加工して通気性を良くしたんだ!!」

「それに原案は白一色でしたけど色んなデザインにしたんですね!」

「ああ!俺の伝手で有名な美術家に協力してもらったんだぜ!!」

「さすが所長です!!」

 これは私が製作所に就職して初めて開発した思い出の品だ。1作品目で緊張していたこともあり、物理防御力の効果付与にばかり気を取られて使用感を考慮するのを忘れた。そのため性能実験した戦士が酸欠で倒れそうになったのだ。


「あっ、こっちはスパイダーの糸とウルフの爪で作った首飾り!」

「お前が作ったのはセンスが最悪だったからな!装飾師に依頼して男性用と女性用に加工してもらったんだ!!」

「べ、別に私のセンスは最悪じゃないですよ!!」

「いい加減認めたほうがいいと思うがな…」

 製作所でこの防具を開発したときは我ながら自信満々だった。だが、いざ発表してみると見た目がダサいだとか呪われそうだとか文句を付けられて没になった。あれは私のことを気に入らない職員達の嫌がらせだと思っていたが、もしかすると本当に私のセンスが最悪なのだろうか?少し心配になってきた。


「…こっちはアーマードベアーの肘当てと膝当てだ!」

「レギンス履いてるから要らんだろって没になったやつな!最近はレギンスを履く奴も減ってきたからほとんど原形のまま売れるようになったんだよ!!」

「あっ、そういえば最近革以外のレギンス履いてる人見ませんね。」

「自覚なしかよ…」

「…?」

 確かに最近ヘルメット・チェストプレート・レギンス・ブーツの4点セットを装備している戦士をあまり見かけないようになった。代わりに私が作っているような部位ごとの防具を全身に装備する戦士が増えた気がする。もしかするといつの間にか世の中の主流が私好みに変わったのだろうか?


「…お前、まさか俺がずっと何の会議に出席してたか知らないのか?」

「す、すみません…防具開発にしか興味がなかったもので…」

「お前らしいな…俺は防具製作所の所長たちを集めてお前が作る新時代的な防具を紹介してたんだよ。」

「そうだったんですか!?知らなかった…」

「ちょうどお前が解雇された期間の会議で主流防具を変更するか議決したんだ。結果は同数で次回に見送りになった…が、この前全会一致で可決されたんだ!!」

「えぇ!?一体どうして急に…」

「お前の作ったミノタウロスベルトだ。何せあの装備1つだけで最高級チェストプレートの半分の性能を持ってたんだからな。素材の良い4点セットを装備するよりも部位ごとに防具を装備する方が圧倒的に効果がある計算になったんだ。」

「そうなんですか!?」

「…知らないで作ってたのか!?」

「は、はい。4点セットがあまり恰好よくないなって思って…」

「ぷっ…あっはははは!!!そうかそうか!!!」


 全く思いもよらなかった。となると、所長は私が開発した防具が好きでスカウトしたのではなく、主流装備が変わることを予感して将来的に有用な人材としてスカウトしたのだろう。そう思うと少し残念だ。それに他の職員からの風当たりが強かったのはこのことも含まれていたのだろう。

「…所長、この後久しぶりに一緒に防具開発しませんか?この前のオークションの利益で良い素材が揃ってますよ!」

「お、いいな!早速やろうぜ!!」


 この素材を使えばこんな効果が得られるんじゃないか?あの素材を加えたら面白いんじゃないか?まるで遊びを楽しむ無邪気な子供のように素材倉庫を見て回り、今日も今日とて実験を重ねる。

 部位ごとに防具を装備する新たな主流がクラフト流と名付けられ、歴史の教科書に載るも防具開発にしか興味がない当の本人が知ることはなかった。

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防具開発職人~邪道だと追放された防具職人は異質な新防具で革命を起こします~ 島津穂高 @shimazu-hotaka

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