試作品4号 敏捷UPマフラー
「最近寒くなってきたなぁ。実験で前線に出たいけど寒いしどうにも…っ!そうだ!今日は防具マフラーを作ろう!!」
早速製作図面を作成し、自宅の裏にある素材倉庫を物色した。マフラーは首という大事な部分を覆っていることもあり、物理防御力の強い効果を付与したいところだ。加えて特殊効果を付与できればなお良い。
「肌触りが良くて暖かくて物理防御力を大きく上げられる素材…そうだ!フェンリルの毛を使おう!! 」
フェンリルは多くの人々に崇拝される神獣だ。初めて魔物がこの世界に出現して人間の村に襲い掛かった際、その魔物を退けたのが他でもないフェンリルだからだ。体長10mを超える巨大狼で銀色の美しい毛並みをしており、知能が高く人間と会話したという記録が残されている。
もちろん今扱っている毛は違法で刈ったものではなく、フェンリル本人と取引をした商人から買い入れたものだ。ちなみに購入金額は公務員の給料約半年分とかなり高かった。
「できるだけ素材の良さを活かしたいし…特に加工せずに使うか!」
まずは枝毛や長さが短くチクチクする毛を取り除き、肌触りを良くする。次に毛と毛を編んで糸の太さにする。最後に専用の織り機で編み続ける。ポイズンスパイダーの糸で下着を作った時と同じ魔導具だ。
待つこと1時間強、フェンリルの毛でできたマフラーが完成した。手触りはシルクの布より優れており、他の素材と比べ物にならないほど滑らかだ。見た目は素材本来の美しい銀色が活かされて高級感があり、美術品として飾られそうなほどである。効果はなんと物理防御力+30・魔法防御力+30・敏捷+15の3つが付与された。
「効果3種付与!?しかも上昇値がめちゃくちゃ高い!!」
各防御力の上昇値が高くなった原因を調べてみると、滑らかな手触りな毛だが打撃や魔法攻撃を与えると瞬時に硬化する性質を持っていたことがわかった。敏捷に関してはフェンリルが風神の加護を持っているからだろう。
マフラーを実験するべく装備時の効果を持たない4点セットを装備し、ダンジョン12層へ出発した。過去最高の効果を付与することができたため、今までにないほどワクワクしている。
「ホブゴブリン発見!今度こそ耐えきってみせる!!」
まずは周りにいたゴブリンを弓で殲滅し、ホブゴブリンと対峙した。私は弓を地面に置き、両手を広げて攻撃を誘った。
「よし、来い!」
ホブゴブリンは舐められていると感じたのだろう。怒りをあらわにし、勢いをつけて私の左脇腹を棍棒で殴りつけた。
その瞬間、防具マフラーが想像を超える効果を発揮した。攻撃を無効化して痛みを感じないだろうとは思っていたが、まさか殴りつけた棍棒の方が粉砕するとは。
「おぉ…!!これは期待以上だ…!!」
ホブゴブリンは得物を失って洞窟の奥へと逃げていった。私はその場で実験結果をメモしていると、先程逃げたホブゴブリンが何やらローブを着た個体を連れてきた。
「…っ!ゴブリンウィザード…!!」
ゴブリンウィザードはゴブリンメイジの上位種である。中級攻撃魔法を使うが、個体によっては上級魔法すらも使えるという。最前線で出没する相手だ。
魔法防御力の方の性能を実験するいい機会だ。私は詠唱中の暇つぶしに攻撃してくるホブゴブリンを仕留め、
「おぉ…!!中級攻撃魔法を防いだ!!次は上級攻撃魔法来い!!」
実験結果をメモしていると、期待度通りゴブリンウィザードは
「熱っ!!痛い痛い!!!」
流石に上級攻撃魔法は防ぎきれず、腹部に火傷を負った。ポーションを飲んで回復する程度の火傷で済んだのはこのマフラーのおかげだろう。再び実験結果をメモしていると《ファイヤージャベリン》の詠唱を始めたため、私は安全エリアまで走って逃げた。その際、敏捷+15のおかげで普段の2倍くらいの速度で走ることができた。
家で実験結果をまとめていると、1つの問題に気が付いた。このマフラーの扱いについてだ。最高傑作なので店頭に飾って家宝にしても良いのだが、やはり防具は人に使われてこその代物である。
「…よし、今回はオークションに出品してみよう!」
半月後、新聞でフェンリルマフラーを出品したオークションが終了したことを知って受付窓口に向かった。
「いらっしゃいませ!どういったご用件でしょうか?」
「この前フェンリルマフラーを出品したクラフトです。受け取りにきました。」
「身分証をご提示ください。…はい、確認が取れました。奥へどうぞ。」
何やら豪華な部屋へ案内され、中にはオークションの責任者と思われる体格の良い男性が椅子に座って待っていた。
「お前さんがフェンリルマフラー出品者のクラフトか?」
「は、はい。これが身分証です。」
「ふむ…間違いないようだな。ほれ、これが落札金だ。」
お金の入った袋を開けると、そこにはなんと一生を遊んで暮らせるほどの金額が入っていた。私は今までこれほどの大金を見たことがない。
「…っ!!こんなに!?」
「ああ。国王が王子の誕生日プレゼントにって落札したんだよ。」
「道理で…有難く頂きます!!」
「おう!またいい品を作ったらうちのオークションに出品してくれ!」
「はい!」
私は大金を握りしめ、笑顔で素材卸売店へ向かうのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます