第2話
『その拓人から言いたいことがあるらしく…』
その一言で私はまた息を少し飲む。
こんなことでと思うかもしれないが、中学生の中での小さないざこざは大人の目が見えないところでジリジリと燻り、少しだけ多感な人間に大きくないが少し目につく小さな傷を一生背負わせてくるものだ。
拓人くんと私の中で思いつくことといえば、、、やはり部活か。
私の所属するテニス部と野球部の関係良好ではない。互いのボールが交差するので少し気まずい日もある。また、野球部に所属する幸太はテニスコートに来てセクハラまがいの発言をしにくるため、嫌悪感が正直隠せないでいる。そんな彼から
『嫌いになりましたか?俺のこと。』
私はとても戸惑った。ほとんど初めて話す相手からの一言。クラスの輪に入ろうとしない自由奔放な人からの一言。私のわからない男子ノリを繰り返して佐伯先生に怒られ続ける人。
『え?は?え。わかんないドユコト?』
拓人くんはこちらを一切見ようとせず、翔太の肩の影から出てこない。160cmほどの翔太の影から170cmの拓人が隠れるなど無意味なのだが。
私には身に覚えがない。誰からか悪意を伝えられることはあった。誰からか好意を伝えられることもあった。誰かに好意を寄せているか聞かれることもあった。
直接、悪意が私にあるかなど聞きにくる人はいたことがなかった。
私はこの瞬間にどうしようもなく彼に興味を持った。どうしたらこんなに素直なまっすぐな人が生まれるのか。傷つくことを躊躇わず人に関わっていけるのだろう。
人の顔を伺いながら生きてきた私にはわからなかった。
困惑した顔を私は翔太に向けた。
翔太は少しはにかみながら、
『いや、ゆき少し前に拓人に連絡したでしょ?テストのこととか!』
『うん。したよ。学級委員だし、学期末テスト近いからね?』
私は責任感にかられただけだった。
友人である翔太からテスト範囲の連絡が行っていることも考えたが、しばらく会話もしていない翔太に連絡をとって確認するよりも級友として連絡することの方が自然だし、自分で連絡した方が確実だと思った。それに今回は中間テストと違い、学期末テスト。中間の範囲も若干含め、広い。その中からどの部分に時間を当てて学習を行うかは私にとっても重要だった。
体調不良で休んだだけで有意義にテスト勉強ができないのはかわいそうに思っただけ。
『それが嬉しかったみたいで、だけど昨日返信しなかったでしょ?』
『え?なんかきてた?ごめん、昨日は部活からそのまま塾で確認してない。』
連絡来てたのに私が返答しなかったから気にしてくれたのか。急ぎ用事だったら申し訳ないなと思った。今日のことで確認したいことでもあったのだろうか。
すると、顔を真っ赤にして右手で口元を隠した拓郎が
『違うよ!ラインはしてないよ!』
『『え?』』
翔太と私は困惑した。
連絡してない? であればなぜ嫌われたなどと誤解をしたのだろう。
『いや、だってこの間、連絡くれた時にまた明日ってあったから…昨日連絡まってたんだけどこなくて…その寂しいというか…なんか』
『『は?』』
翔太と私は顔を見合わせて笑った
『いや、ゆきのそれは学校でっていみでしょそれ!』
『うん!それしかないじゃん笑笑 話すことも特別ないから切ったんだよ笑 迷惑にもなると思ったし。』
それを聞いた拓人はますます顔を赤くして翔太の肩を叩いていた。
『だって!いやそれはずるいわー。ごめん、、、』
恥ずかしがってそっぽ向きながら責めてるのか、謝ってんのかわかんない感じで謝られた。
不意にそれを私は可愛いと思ってしまった。
恋 素人 @motohito
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。恋の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます