恋
素人
第一話
夕暮れ時17時30分。
電車の窓に映る山。その景色は突如現れた家の壁に阻まれる。さっきまでそこにあった景色が消える。また山が見える。
郊外から地元・甲府へ電車が向かっていく。
その車中に僕はいた。
昼間に生徒会でお別れバーベキューをし、楽しんで全身に焼肉の匂いをつけたまま、電車に乗った。すっからかんな電車の中。1人だけみんなと方向の違う私は外の景色を見ていた。
窓の向こうに移る夕日と山の連綿たる様やなんたるか。美しかった。ただ、美しく、日が沈むまでの時間、窓際に立って揺れる電車を足に感じながらただ見つめていた。
ただ、地元の山梨。山しかないのはわかってるのだが、こんなにも山があっただろうか。
そんなことをふと考えてるとき、突如現れた家が教えてくれた。
これは反対側の窓からこちらの窓に向かって反射した光が私に幻影を見せているのだと。
それがわかってからも変わらず山の風景を目に映るそのまま楽しんだ。
こんなに気持ちが昂り、心地よいのはいつぶりだろう。充実感に身を包まれたのは何年ぶりだろう。考えた。もう3年以上も前になるのか。
暖かい日差しに照らされた温いグラウンドの土。そこに2人で座ってた。
『たくちゃん、野球部新入部員どんくらい入りそう?』
センターを守ってたたくちゃん。私の中学の友達だった。
新入生にバッティングさせて守備をしているなか、テニス部の部長だった私がなんでこんなとこにいるかってそれは…
『んー。5人がいいところかなぁ⁇経験者がほとんどだね!そっちは?結構人気らしいじゃん?』
『そうなんだよ。15人以上体験来てる!新歓の時期にわざと厳しいこと言って振る落とす気だったんだけど効果なかったよ』
笑うしかない…だって、顧問と話し合って県大会目指してます!出れるのは3組6名だけ!部内でも厳しいトーナメントを採用していますってわざわざいってこれ…。疲れるわけだわ。というか、そんな統率力は私にはない!しかも、指導らしい指導も受けてきてない私になにを期待してんだ!って憤慨してた。
『つーか、飛んできたら頼むよ。あんな早い球触れないよ。野球の球とか当たったら死んじゃうかね?』たくちゃんの方を向くとたくちゃんは屈託無い笑顔でまかせろ!って言ってくれた。
『新入生で生意気な奴いたら言ってね!おれがこうこうこう!こうしてこー!ってやってあげるからね!笑』と身振り手振りで励ましてくれた。
『そんなことできないでしょ。照れ屋だし人見知りやん。』
『そんなことないよ!がんばるし!』
『よくいうよ。初めて絡んだのだって翔太経由じゃん!覚えてる?』
『あー。玉飛んで来たわ!』
『おい、話逸らすな!あの時のタクちゃんかわいかったなぁ!』
『あーもー嫌いだわー!早く行け!ばか!』
『あれはー、2年の冬かなー?たしか。』
『あーあーあー!聞こえなーいって!やべー飛んできてる!』
その言葉を発すると同時におれの右側を野球ボールが掠めていく。
『ちょっと待っててねー!』
たくちゃんが去っていく。
たくちゃんと仲良くなったのは中2の秋くらい。学祭も終わってテストや勉強が忙しくなってきた時期。
たくちゃんはどちらかというとクラスより外のメンバーとつるんでて仲良くなかった。クラスの会長だった私はあまりそれをよく思わず、気にも留めなかったし興味もなかった。
そんなある日、たくちゃんが学校を休んだ。
学校の行事予定やテストの話、いろいろ解禁されていた。
『知らないと損するやつだなこれ…』
そう思った私は会長としてたくちゃんに連絡してあげた。
『こんばんは!拓人くん体調はどう?
今日学校でテスト範囲と今後の予定とかいろいろ話してたから一応翔太あたりにもらってるかも知らないけど共有しとくね、』とLINEした。
塾にそのまま行って風呂に入りながらスマホを操作してたら拓人から返信がきていた。
『ありがと!たすかる!』
23時を回っていて簡易で角が立たないように返信した。『気にしないで!大丈夫!明日は学校来れそうですか?』
『うん!いけるよ!』
たんぱくな返事が来たので安心してラインを切ろうとした俺は
『そっかー!よかった。遅くにごめんね。また明日!おやすみ!』と送った。
気にする様子もなく間髪入れず
『おやすみ!また明日!!!』ときたので一安心で眠ることができた。
翌日は互いに日常を過ごした。気の合う仲の良い友達とあそんで過ごした。
私はその日も塾で、部活後にそのままだったので、塾から帰ると疲れてそのまま寝た。
起きてすぐに学校に行き、お腹もそこそこ減っていた私は給食が待ち遠しくて仕方なかった。
こんなことなら朝食をしっかりとってくるべきだったと思った。そんなことより1分1秒でも長く寝ていたいと低血圧な私は考えてしまうので難しいのですが。
4時間目が終わり、やっと休めると思いながらもテスト用に苦手な社会科のノートをまとめていた私はしばらく机にそのまま向かって勉強していた。
すると普段聴き慣れない声が不意に私にかかった。
『ねえゆき。今ちょっと良い?』
振り向くとそこには小学校からの友人の翔太がいた。中学に上がると同時に絡むことも無くなった私と翔太。今でこそ同じクラスではあるが暇さえあればクラス内にいるよりも他クラスのメンツと遊びに出かける翔太との共通の話題といえば・・・
『どーしたの?部長会議は昼休みだよね?』
『あ!うん!それはそうなんだけど、その、、ゆきと話したいって人がいて…』
こんなこと言われたのは初めての経験だった。普段こうして2人で話すこともない翔太から話しかけられたことで少し強張った。私は学年のメンバーとは分け隔てなく話しかけていたし、そんな改まってなんて大事かと思って少し緊張した。
『拓人なんだけど…わかるかな?』
『?うん。わかるよ?一応、学級委員長だし、拓人くんクラスメイトだからね!』
拍子抜けして笑ってしまったのは私は悪くない。そのくらいあたりまえな会話の切り口だったからだ。小学校から1年以上も話していなかった級友からそんなことかと緊張も緩んでしまった。
『その拓人から言いたいことがあるらしく…』
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