第5話 放課後に出会ったナニカ

 彼の為にも人生を謳歌する。そう決めたはいいが実際問題何をもって謳歌しているとするのか巧には分からなかった。いい会社に就職する?出会いを経て結婚して子供たちに囲まれる?有名になる?人によって謳歌することに対しての意味合いは様々だ。答えが出ない。

「今からできる事…。何かあるか?」

 考えてみたものの,思いつかない。精々,今からでも取れるような資格でも取ってみるか程度。随分と保守的な謳歌の仕方である。そこで一つ,無駄になってしまったが学びになった事があった。

 縁きりである。法律上では無理なのは分かっているが,これが養子になったりすればもしかすればイケるのではないかと彼は考えていた。養子になる方法は全く考えていないのだが。しかし,退廃的な親を捨て自由に生きる。好きな様に生き,好きな様に死ぬ。案外,そうすればよいだけなのかもしれないと考えると気が楽になる。

 なにより,こちらには転生特典の異能がある。我欲の為に使うのは少しばかり気が咎めるが,そもそも巧自身が善性である訳でもない。そんなものがあれば,早々に両親を糾弾している。なんなら現場を押さえて警察にでも通報すれば一発である。しかし,彼はそれをしない。する必要性を感じていない。さかりたいなら勝手に盛っていろ,コッチくんな。それが彼の本心だ。

 そう考えると本当に楽になる。いざとなれば異能でも使ってどこか遠い国に行けばいい。密入国?知ったことではない。

「まぁ,英語とか外国語は修得しなくちゃいって問題があるけど」

 前世では英語を使う事なんてそうそうなかった。横文字が飛び交っていても大体は和製英語でそこに然したる意味も無い。誰かが作った略語が流行語になって飛び交っていただけ。つまるところ,英語に関しては中高生とほとんど同じか劣っているのが今の巧だった。

「じゃあ,とりあえず学生生活中に色々経験するってのが最適解かな」

 英語問題を端において巧はそう言った。社会人になると学生の夏休みを羨ましく思える。巧も前世では社会人になって学生時代を懐古することが多かったが故だ。態々寝取られた相手の為に引き籠るのも可笑しな話。こっちはこっちで楽しんでやる。そんな気持ちになっていた。

 寝取られたのは何時からかは分らないが,とりあえず今は夏休み前。夏休みの間はどうせ彼らは爛れた生活をするだろうからその間に色々な物をみたいと彼は考えた。残念ながら彼の頭の中には期末テストは抜け落ちていた。テストなんて早々ない社会人をしていた彼にとって学生時代は遠い記憶。子持ちでも無かったが為に忘れていた。

 そうやってあーでもないこうでもないと頭を捻らせながら歩いている巧の前に季節外れの赤いコートを着た黒髪長髪の女性が現れた。だが,上の空の巧はその存在を気にも留めず進む。すれ違う程の距離になった時,女性が巧の肩を掴んだ。巧は一瞬ビクッととした後,やっと女性を認識した。

「なんですか?」

 そう言いながら女性を見る巧。そこで彼は女性の異常性を感じていた。といっても,彼が感じたのは季節外れの赤いコートにインフルエンザと同等になった流行病の予防でよく見るマスクをしている不審者程度の認識なのだが。

 そんな不審者感まるだしの女性を訝し気にしている巧。数秒の間,目と目を合わせるだけだった二人だが女性が口を開いた。

「私…綺麗?」

「は?」

 

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脳を破壊されてから始まる転生生活 人類種の点滴 @gasumasuku

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