第4話 転生した意味とは

 結局,黙っているだけで問題は無くヒヤリとする場面すらなかった巧。恙無く放課後になり,自分の想定が全くの見当違いであることがやっと分かった彼は力んでいた肩の力を抜いた。そも,行われているのがエロ漫画のそれである今の状況からしてNTRされたあとなど蛇足も蛇足。後日譚はNTRされた側は既にフェードアウト,エロ10割は固い。まぁつまり,巧は誰の眼中にも無いのだ。取り越し苦労とはまさにこのことである。

 そんな無駄な努力をした巧だが,この世界で彼にやれることは殆どない。現代であるが故に異世界ファンタジーの様なモンスターと戦ってハーレム作ってキャッキャするのは無理な上に,時代による技術的アドバンテージも無い。無駄な異能と地獄の様な家庭環境をもって第二の人生を謳歌するという転生した方が色々悪化している状況である。巧は一体前世で何をやらかせばこんなに酷いことになるのか甚だ疑問である。

 学校を出て街をふらふらする。都会と違って地方の県は学校周りにあるのは良くてコンビニ悪くて以前店があった名残だ。小説やアニメにあるような何処かで買い食いするという時間つぶしは使えない。だからと言って家に帰るのも気が引けた。家族と居ると居心地が悪い上に,父親との関係が頭を過ってしまうからだ。結局,巧はあてもなく歩くことになった。学校からは遠いが,いざとなれば図書館もある。読書で次巻を潰すのもありなのかもしれないと考えながらふと,巧は思った。

 何故こんな平和な世界に転生したのだろう,と。

 別に殺伐とした世界に転生したいとか,異世界に行きたいとか,そういう訳ではない。彼は,自分が転生した意味が欲しかった。波乱も無く,平穏に過ごしていれば普通に会社員として働ける。今からなら,色々な資格を取っていけば就ける職の幅も広まるだろう。だが,それでは異能をもって転生した意味は無い。転生と聞いて真っ先に異世界を思い浮かべたが,今の所は父親の女性関係が異世界しているだけである。これからアーマゲドンが起こるとか異世界から侵略されるとか,そんな予兆はニュースを見ても無い。もしかすれば,水面下では起きているのかもしれないが巧にそれを認識する術はない。

 彼は,転生する際に授かった異能に対して意味を見出したかった。なんの意味も無いより,なにか意味があると思った方が彼にとっても気休めになるから。

 前世では考えもしなかった生きる意味。惰性で過ごし,就職し死ぬ。そこに意味は無い。苦難が無い方へ,苦痛の無い方へ,避け続け逃げ続けたが故に。

 成熟した精神が無意味であると巧の脳内で告げる。その通りだ。生まれてきたことに意味は無い。意味なんて後からついてくる。付いてこなくても,付けることが出来る。しかし,彼が憑依した未成年の肉体からくるこの考えは根深い。寝取られて,その情事を見せつけられて,信頼していた肉親友人の手酷い裏切りの果てにこの考えが生まれたのだから。憑依した彼が思っている以上に肉体の元の巧のダメージは大きかった。

「まぁ,気長に見つけるさ。見つけるとも。彼の分も人生を謳歌する為に」

 彼はそう呟き,空を見る。空は晴れ渡り,憎いくらいに太陽の日差しがさしている。しかし,遠くの方には雨雲の様な薄暗い雲があった。まるでそれは,彼のこれからを暗示しているかのように。

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