第3話 身構えた肩透かし

 変なところで抜けていた彼は,翌日の登校日を戦々恐々しながら迎えることになった。口調や最近の話題,SNS上で流行っている現象。話題に合わせるために色々な媒体を読みふけり,対策をした。しかし残念ながら意味はない。

 なんなら,生前と言うのも可笑しな話だが憑依前の巧は精神崩壊一歩手前も良いところで基本的にボッチで生活していた。嘗ては,女友達や彼女。クラスの少し仲のいい男子と会話していたが,NTRが発覚してからは受け答えが出来なくなっていた。なにより,快楽堕ちしていた彼女たちとも疎遠になっていたので巧のフォローをする人も居らず,孤立を極めていた。

 そんなことを彼が知ることは無い。憑依したからと言ってその肉体の記憶を100%引き継げる訳ではない。彼の状況を言ってしまえば,ゲームのキャラクターに付属するフレーバーテキストの部分から大部分を推察してロールしている状態に近い。表面的な情報をなぞっているに過ぎない巧は要所は抑えてても重要な部分が抜け落ちていた。

 そんな学校に対して並々ならぬ警戒心を持っている彼だが,それより先に面倒であり,ある意味バレたら即終了な問題が横たわっている。

 朝食だ。

 憑依して頭抱えて,図書館で調べものしたその日一日は早々にパーティーが開催されてしまっていたので家族の誰も気に留めていなかった。彼も,食事よりこれから先の未来について考えを巡らせ続けていたので完全に失念していた。

 巧はいそいそと少し汚れている制服に着替え,そーっと部屋を出る。正直,今の巧は家族と会いたくはない。嫌悪感があるとか,目を合わせたくないという訳ではなく,単純に気まずい。一つ屋根の下でパーティーしてて,開催場所は多岐にわたる。廊下でもリビングでもどこでも開催可能。鉢合わせたら気まずいなんてレベルではない。

 一家は二階建ての戸建てに住んでいる。巧の部屋はその中で二階にある三つの部屋の二番目,左右を両親と義理の妹に囲まれており出会う可能性は相当に高い。しかし今回の運が良いのか,普段からなのか今の彼には分からなかったが家族の誰とも出会うことは無かった。

 一階に降り,キッチンにある冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出し,途中で取り出したコップに注ぎ飲む。そのままサクッと朝食を済ませると彼は何も言わずに家を出た。言ったところで誰からも返事が返ってくるわけではないのだが。

 彼が巧になってから初めての学校への登校。まるで小学一年生がこれから初めての学校に行き,友達が出来るのだろうかどんな学校なのだろうかとドキドキしながら向かうような心持で記憶通りの道を歩む。

 自転車通学や公共交通機関を使った通学が必要ないくらいには学校は近く,問題なく到着することは出来た。下駄箱で自身の場所が分からず四苦八苦するアクシデントは起きたが,それ以降は問題なく教室に向かうことが出来た。

 教室に居る生徒はまだHRまで時間があるという事で疎らで精々朝練のある生徒のカバンや何かしらの事情で早く来ているのであろう生徒しか居なかった。

 巧のクラスは担任の方針で席替えを頻繁に行っている。その為,自分の今の席が何処だったから忘れる事が多かった事もあり教室の後ろに席順の書かれたプリントが張られている。彼はそれを一度見た後,自分の椅子に座り寝たふりをした。本等があれば時間つぶしも出来ただろうが生憎持ってきていない。部屋には漫画はあっても小説といった学校に持ってきても問題なさそうな本は無かったというのも要因の一つだが,そもそも其処まで彼が考えていなかったという事もある。

 伏せ続けている間に教室も騒がしくなってきた。巧の周りは通夜とはいかなくても静かだが。これは,以前の巧が腐乱死体の様な雰囲気を醸し出していたからである。これを彼は知らない。

 HRが始まるという事で一応巧も起き上がり,ボーっと話を聞いていた。そしてそのまま授業が始まり,恙なく進んでいた。そして,巧が覚悟していた様な問い詰めも,ボロが出るような会話も無かった。

 ラリが入っている彼女たちは勿論の事,前述の様な雰囲気を醸し出している巧はクラスでも腫物の様に扱われていたのだ。彼は無駄に力んでいた事もあり,盛大に溜息を吐いた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る