第2話 喫緊の課題/無意味な懸念
色々と終わってる家庭と,これから問題になりそうなことをノートに書き出していく。まず,廃人同然だった巧は若干の栄養失調の様だった。どうやら,父親ハーレムの情事を見てしまうor聞こえると胃の中の内容物を全て吐き出してしまうので食べた量に対して十分に栄養を摂取できていない様だった。
これが,彼にとっては結構な問題だった。彼は,憑依をした際に転生特典として異世界だったら有効活用できるであろう能力を手に入れている。なのだが,衰弱している体では本来は問題なく体に馴染む能力も馴染めず衰弱した肉体と能力で油と水の様に反発しあっており,何時能力の誤作動で巧が汚い花を咲かせるか分からない状態だった。彼にとって巧の体が爆発四散するのは大した問題ではないのだが,代わりの体を用意するのは大変面倒であり,避けたいことだった。
どうしたものかと頭を悩ませているが,妙案は浮かんでこない。果報は寝て待てとは言うが,寝ても覚めても状況は好転するとは到底思えない。この場に留まっていてもどうしようもない。彼はそう考えると,そそくさと外出の準備をした。
「クッソ暑いな…。人間って体温調節出来ないのかねぇ…それか一気に寒冷化しないかな…」
外は炎天下。森の中なら幾分かマシであろうが,左右をコンクリートブロックの塀に囲まれアスファルトの上を歩くとさながらグリル調理されている魚の様だった。汗を流したりすることで,体温を調節すると巧の記憶から知ったが汗が出ても体感気温が変わることは無いということは,迷信の類かな…彼はそう考えた。
帽子を用意しなかったことを早速後悔していた彼は,巧としての記憶を頼りに少し離れた図書館に向かうことにした。冷房も十分に効いており,今彼が抱えている課題の解決を助ける書籍があるだろうと目星も付けていた。
暫く歩いていると図書館に到着した。外観は古びてはいないが,最近の建築物より昭和や平成初期のような言葉が似合いそうな見目をしている。中に入り,目当ての図書館へ向かう。
「やっぱり,涼しいな。こんなの開発したら人間自身に冷却機能とか要らないわな」
そう独り言をこぼす。そのまま図書館内を歩みを進めて,目的の本棚に到着した。目的のモノは“法律”と書かれたブースに存在すると適当な本を取り出し,近場の椅子に座ると読み始めた。
彼の目的は“縁切り”。肉親が外道だから縁を切りたいという訳ではなく,単純に別人になった為に情も無いにも等しい人間とは一緒に居るだけ苦痛だという彼の考えの元だった。なにより,関係を曖昧にしていると父親は次に何かを引き起こす時に巻き込まれかねないと考えていた。
「うーん,法律上は縁を切ることは出来ないのか…」
縁を切っている状態とすることは出来るが,本当に赤の他人になることは出来ないらしい。それを知った彼は少し落胆したように肩を落とし,本を元あった場所に戻した。戻した後そのまま図書館外に設置してある給水機で水分補給をして帰路に就く。
結局のところ,収穫無しも良いところで現状が好転する気配はない。いっそのこと,如何にかして海外で戸籍が作れれば解決なのだが残念ながら憑依したての彼にそんなコネは無い。八方塞がり,現状維持が関の山だった。
このままでは成り代わったことが露見してしまう。そう考える彼であったが,存外バレない可能性もあるのだ。彼が懸念している彼女や女友達は性欲に支配されて久しい。正常な判断なんぞとうに出来ていないのは自明の理であった。
性欲に支配された現状維持。穏やかな衰退。確実に沈む泥舟に一体どれほどの人が魅力に感じるだろう。快楽に支配された人間以外は魅力に感じない。しかし息子の恋人とを寝取った親の神経なんぞそんなものだろう。そしてその沼に堕ちていった彼女たちも同じ穴の狢であった。
一度快楽の沼に嵌れば正常な判断も,出来るわけがない。曇り切った目に真実が映り込むことはない。彼の懸念は見当違いも良いことだった。快楽により正常に認識できない彼女たちを欺くなんて,意識してやる必要すらなかった。ただ,かつての巧の行動をなぞるだけで事足りる。元々,「転生=異世界転生」だと思っていた彼だ。頭の出来はお世辞にも良いとは到底言えなかった。
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