第26話 最終話 ゲームセットにはまだ早い

 フランボワーズとスリーズの試合から、一ヶ月がたった。


「もう、どうしてわたしたちがこんなことを」


 メイド服を着ながら、シトロンが魔王城の床をモップがけしている。


「しょうがないじゃん。『負けたら、魔王の言うこと聞く』って、言っちゃったんだから」


 同じくメイド姿のパステークが、階段の手すりを雑巾がけしていた。


「でも、優勝できなかったんですよ。フランボワーズは!」



 結論から言うと、オレたちは優勝できなかった。



 出場校は四校しかないので、スリーズを倒したらあとは決勝しかない。


 決勝で当たった学校に、コールド負けを喫したのである。

 無理もない。一回戦であれだけの激戦をしたのだ。疲れが残っていたのである。


「こっちは三位だからいいじゃん」


「よくありませんよ。強豪になったフワンボワーズに勝ってこそ、スリーズの名がとどろきますのに」


 未だに、シトロンは悔しがっていた。


「なあラバナーヌ、オレはクビなのか?」


「いや。イチゴーよ。お主は見事な働きぶりだった。たしかに、優勝はできなかったからのう。だが余は『スリーズに勝て』と言った。なので、公約は守っておる」


 よって、オレはチームの監督を続けていいってことか。


「それはそうと、オレの身体は元には戻らないんだな」


 オレはまだ、少女の姿のままである。


「いうたであろう。どんな副作用が出るかわからんと。お主はずっと、そのままぞ」


「そうか」


 レザンにも、「オヤジがオフクロになっちまった!」と、嘆いていたが。


「しかし、お主はいわゆる男性機能は備わったままだ。生殖機能は男性のままなので、子作りには支障はないぞよ」


 オレはいわゆる、両性となったらしい。


「誰をヨメにするかも、お主次第であるぞよ」


「ヨメって。学生に手を出す気はねえよ」


「まあ、考えておくがよい。ところで、どうして試合の結果にこだわった。あのときのイチゴーは、お主らしくなかった」


 ああ、聞かれると思っていた。


 たしかにあの場面は、とくに勝負にこだわる場面じゃない。

 ただの自己満足に見えるだろう。


「前にいた世界でな、同じ局面に立たされたんだよ」


 そのときオレが選んだのが、延長までもつれさせることだった。


 しかし、その作戦は裏目に出て、逆転を許してしまったのである。


 結果、オレはクビになった。


「あれは、贖罪なんだ。オレはあの場面から逃げないと決めた」


 逃げたから、オレは踏み出せないでいたから。


「なるほど。お主にも背負っておるものがあったのだな?」


「まあな。それより、試合をやろう」


 グローブをはめて、オレはグラウンドに向かう。


「さて、お前さんたちも掃除は終わりだ。練習試合と行こう!」


 スリーズを交え、フランボワーズの野球場で試合を始める。


 選手兼監督として、オレはサードに入ることになった。


 ペシェが、オレのサインを読む。


「ふわ!」


 見事なチェンジアップが、スリーズのバッターをストライクに沈めた。


「ななな、なんてことを! 『こんな姿でも、かわいがってやれるぜ』なんて!」


「言ってねえ!」


                        (ゲームセット)

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異世界ゴスロリナイン ~女子野球が盛んな異世界に、監督として召喚された~ 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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