弟子入りと儀式
「恵里、ここに住みたいということだが、妾に弟子入りしないか?」
私は恵里に問うた。私には根拠のない自信があった。恵里は悩むそぶりも見せずに頭を下げた。
「よろしくお願いいたします。姐さん!」
姐さん、か。私も師匠のことをそう呼んでいたことがあった。まさか自分が呼ばれる側になるとは思わなかったが。
「よろしく頼むぞ、恵里」
恵里に頭を上げさせ、目をみて言った。
「よかったわね、バーミー。修行をする仲間ができたわよ」
ローズがそう声をかける。彼は嬉しそうに目を輝かせている。
「そうと決まったら儀式の準備を始めねばならんな」
「儀式?」
恵里に不思議そうに聞かれた。その問いにはバーミーが答えた。
「儀式は主に二つある。一つは名付け、もう一つは血を飲むことだ。とりあえず血を飲むのが先じゃないか?」
私は彼が説明している間に準備を進める。
リビングの机に持ってきたのはナイフ、消毒液、絆創膏、コップ一杯の牛乳、菜箸だ。
「血を飲むってどういうこと?」
恵里はかなり困惑している様子だ。私も初めて聞いた時は耳を疑った。師匠の白い腕からしたたる赤い血をよく覚えている。
「大丈夫だよ。これは魔力を受け渡すための儀式だから」
私は手首を消毒し、ナイフで傷を作り、牛乳にたらす。菜箸で牛乳をかき混ぜ、淡いピンク色になった液体を恵里に差し出す。
「これを……飲むの?」
「バーミーも飲んだわよ」
躊躇する恵里にローズが手首をさすりながら言う。
「大丈夫だ。ちょっと頑張れば大丈夫だ」
バーミーも恵里を応援する。
恵里は視線をさまよわせていたが、決心しコップを強く掴んで一口で飲み干した。音を立ててコップが置かれた。
「よくやったぞ」
恵里が傷口を押さえつつ頭を撫でる。他の二人も拍手をする。
「体はなんとも……う、ぁ。なん、か、変……な感、じが」
机にふせるように倒れてしまう。だが誰も驚かない。ローズが恵里を寝室へ運んで寝かせている間に、バーミーが私の傷の処置をしてくれる。
「ありがとうね、バーミー」
「いえ、痛くないですか?」
優しい子だ。
「たいした傷じゃない。すぐに治る」
そう言うとバーミーは安心したように息をこぼした。
「ならよかった。あまりにも怖そうに、痛そうにしてたから、心配になったぞ」
「これくらいで心配してたら心臓が持たんぞ」
可愛いところもあるようだ。口を覆って笑うと彼は恥ずかしそうにこちらを睨んでくる。
「悪かった。だからそないに怒るでない。ほら、ローズを手伝いに浮くぞ」
「……わかった」
私が魔女になるまで 橘スミレ @tatibanasumile
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