第3話拡大する未知
奥村は慎重に東京の街を歩く。安河内が注意を引いているとはいえ、宇宙人の目がなくなったわけではない。あくまで彼らが狙っているのはフィルムとSDカードだ。そして安河内のメモ帳に書かれていた鈴虫の音に似た声にも注意を向けなければならない。
「まさか宇宙人が人間に擬態しているなんて……先輩よくもまあわかったな……」
道行く人が安河内の行った方向に言ったおかげか、人通りは少なく、興味がない人と往来する車の群れだけが残っていた。
安河内が撮影した証拠のように多くの人がUFOや宇宙人を撮影してきたのだろう。しかし証拠はUFOで連れ去り、情報を隠ぺいされてきた。しかしなぜ宇宙人はこのような回りくどい方法を取るのか疑問だった。連絡をし、数十秒後に安河内が出たのを見る限り、眠っている間に連れ去るのは容易だったはずだ。
そうこう考えているうちに示された場所にたどり着く。そこにはバーが一軒あった。まだ外は明るいため開店時間ではないはずだが、鍵が開いていた。
「早乙女さんはいらっしゃいますか?」
「おまえは誰だ!」
「ひゃい!安河内の部下をしています!奥村伸介です!」
「そうか、あいつはもう…奥村君、ここに来てすぐですまないが場所を変えよう。もう手筈は整えてある」
早乙女が用意した古臭い車に乗り込み、無言の時間が続く。奥村は安河内に「電子制御の車の中は盗聴されるぞ」と言われていたこともあり、証拠がある以上喋ることができなかった。
「さすがはあいつの後輩だ。安心してほしい、これは電子制御を一切使っていない」
「ふうぅ、先輩と早乙女さんはどのような関係で?」
「ただのダチさ。まぁ、あいつの夢を応援した一ファンでね。約束をしたんだ『おまえが手に入れた特ダネは俺が報道する』ってよ。おまえさんらの雑誌には悪いが、これもオカルトブームを流すためだ」
「は、はぁけどどうやって報じるんですか。ネットもテレビも奴らに抑えられてるでしょうし」
「一斉に流すのさ」
車のギアを上げ、一気に速度を上げた。まずフィルムを現像するために写真屋により、現像依頼をする。現像には8~10分の時間がかかり、その間に早乙女は様々なメディアに連絡をしていた。その会話の中には「宇宙人」や「UFO」などの言葉は一切入っておらず、言葉を置き換え、話を進めていた。
「なぜ安河内先輩の夢を後押しするんですか?嘘だったらあなたのキャリアに傷がつくというのに」
「奥村君も感じているんじゃないかな、あいつは宇宙人のことは嘘はつかない男なんだ」
「なんでそんなに信用しているんです?」
「昔から所かまわず夢を語る男でな、みんなばかにした。けれど毎日夜空を見上げてUFOを探していた。周りの目もくれず。そんな声を気にすることはなく突き進んでいった。俺はそこに惚れたんだ。それに本当のことだったら俺とあいつは一躍時の人になれる」
その語る様子は思い出を語るように見えたが、同時に安河内の様子を心配するようであった。しばらく沈黙が続き、気づけば現像作業が終わっていた。すぐに車に戻り、走らせる。現像された写真は複数枚あり、各種メディアに流す準備を終えた。
そして証拠の写真や映像を東京中のマスコミ会社に渡していった。皆「こいつは何を言っているんだ」という対応を取っていた。しかし安河内のフィルムを見せた途端、唖然とし何度もフィルムと奥村たちの顔を見た。
「しかし我々が騒いだところで今の民衆が信じるかどうか……」
「ええ、今流しても民衆は信じないでしょう。ですから各種メディアが一斉に流すのです。テレビ、新聞、ネット記事、SNS。すべてを使って情報を流す。そうすれば影響力の大きいインフルエンサーが取り上げる。興味が強まれば宇宙人展覧会でもUFO展覧会でも開けばいい」
一斉にメディアがUFOを話題にすればメディアを馬鹿にするような眼で見るために一目見ようとするだろう。興味が多くなればより大きい影響を持つものが取り上げ、さらに大きくなる。宇宙人が人間を操作しようとするなら、時間を掛け少しずつ変えていく。人々が興味を持つようになったら証拠のフィルムを公開する計画だった。
奥村は情報をメディア会社に流している間、宇宙人が地球を侵略する映画を思い出していた。地球のテクノロジーを圧倒する兵器で、地球を焦土と化す光景を想像した。今の自分がしている行動は、映画の光景を現実に引き起こしてしまうのではないだろうかと考えてしまった。映画であれば宇宙人からの攻撃で世界中が団結し、国家「地球」となるのがテンプレだ。
「なんだ、今更自分のやっていることに恐怖を感じたのか」
「そりゃ、激怒した宇宙人が地球を侵略する可能性だってあるじゃないですか。そのきっかけを僕らが作るなんてことを考えると……」
「今考えたって仕方がないだろ。俺たちは情報を民衆に流すだけだ。ジャッジを下すのは俺たちの仕事じゃあない」
情報を発信する者は意図的に情報を操作することができたとしても最後に情報の真偽を決めるのは受け取り手である民衆だけだ。奥村は宇宙人の存在を知る人物となった。そのため決行日までは早乙女の家でお世話になることになった。
決行日。大手メディア会社が一斉に安河内が撮影した証拠をテレビ、新聞、ネット記事を駆使し報道した。SNSを見てみるとマイナスな呟きもあれば肯定的な意見もあった、「宇宙人」がトレンド一位を獲得した。それからは疑いたくなるほど早かった。早乙女さんが言ったように、大物インフルエンサーが次々と取り上げ、日本を中心に世界中で宇宙人ブームが再熱した。安河内先輩のフィルムは日本中のオカルトイベントに展示され、世界中の人々が宇宙人の存在を再認識した。
「先輩、あなたの夢が叶いましたよ」
ここに安河内先輩はいない。僕は早乙女さんの部下として働いている。早乙女さんは今回の事件をこう考察していた。『They Live』という人物は昔から何万人という人を動かす企画をしてきた。人間がどれだけスマホに依存しているか、どれだけ操作できるかを実験していたのだと。そしてもう一つ意外な考察をした。
「奴らは知ってほしかったんだと思う。安河内をすぐにとらえなかったのも、ニュースを改ざんしなかったのも地球人の目をもう一度自分たちに向けるために」
地球人は一度外への興味をなくしてしまった。メディアによる煽動、エンタメ化。皆、存在を嘘として捉えるようになってしまった。宇宙人にもいろんな奴がいる。宇宙人はそれが許せなかったのだろう。今自分がここにいるという証明のために彼らは一枚の写真としてその存在を僕らに伝えたのだった。
カメラの目から逃げろ! 榑樹那津 @NatukiSeiiti
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます