第5話:夢のひととき

地面に着地し、ナイフを二本構え、私はすぐさま戦闘態勢に移行する、相手との距離は約5m...真正面から戦っても100%負ける、あの人の身体能力は悪魔の力を使う私よりも圧倒的に格上...そもそも、素人の私と白銀のあの人じゃ戦闘経験の差がまるで違うだろう。


「背後からの一撃...完全な奇襲で仕留める...!!」


私は左手に持っていたナイフを相手の頭目掛けて投擲、それと同時に、常人では考えられない程の速度でマゼンタの背後に移動する。マゼンタは首から下を鎧の様な物を身に纏っており、私の安物ナイフでは傷一つ付かないだろう、だから私の狙いは一つ...。


「...取ったッ!!!」


...死角...背後からマゼンタの片目を抉り取る...!!



























次の瞬間、私が投擲したナイフはマゼンタの右手から現れた “ソレ” によって弾き飛ばされ、その直後にソレは私の首向かって振り下ろされる。


私はマゼンタへの攻撃をやめ回避行動に移り、間一髪でソレを避ける事に成功、マゼンタと数m程距離をとる。


「はぁっ...はぁっ...あれ...なに...?」

「マゼンタの右手から...突然...」


建物が燃え、崩れ落ち、炎の勢いが強くなる、周囲が明るくなった事により、ソレの正体が判明した。


...巨大な大剣である。


「...“妖刀 ソウルヴァイス”...」

「悪魔の力を宿している...的な武器だよ」

「悪魔を連れてるのに、知らなかったんだね」


...悪魔、マゼンタも私と同じ...悪魔の力を使う人間...?唐突に右手から現れたのは、あの大剣の力に違いない、そう考えると、状況はますます悪くなってくる、タダでさえ私が不利なのに、相手も悪魔の力を使ってくるなら、勝ち目など無いに等しい...。

...だが、私は諦めない、私自身が、諦めることを許さない、許されない。


「...お前を...殺す...必ず...」


私はマゼンタにナイフを向け、そう宣言する。




「...射撃用意!!!!」

「撃てぇ゛!!!!!」


「...!!!」


マゼンタの部下だろうか、少し離れた草むらから十数名程が洗われ、私に向けて銃を向け、合図と共に一斉に乱射する、激しい銃撃音が響き渡り、私は咄嗟の判断で、弾丸を躱しながら、草むらに向かう。


「...あがァァァ゛!!!」


草むらに到着した所で、マゼンタの部下を素早く、一人残らず惨殺し、彼らが持っていた小銃を奪い、草むらに身を隠す。

マゼンタを倒す唯一の方法、それはやはり奇襲だ、悪魔の力を持っているのは、あの刀だけ...いくらマゼンタ本体が人間離れしていようと、銃の弾丸を躱す事は不可能、悪魔の力を持つ私を仕留めようとしていたこの小銃なら、殺傷能力も申し分無いだろう。草むらで身を隠し、近付いて来た所を相手の鎧ごと撃ち抜いて...


「...血の匂いだ...」


その瞬間、ソコに居るはずのないマゼンタが、私の背後から大剣を振り下ろす、振り下ろされた大剣は、私の背中を切り裂き、その痛みと衝撃で手に持っていた小銃さえ落としてしまう。


「ぁ...あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ...!!!」


痛い、とても痛い、肉が避ける感触、血が流れでる感覚、思考が出来ない、身体が動かない、ダメだ、終わった、私はもうここで...


「な゛...んで、私の...位置...がッ...」


「...私の部下は、皆優秀なんだ」

「死しても尚、匂いで私を助けてくれる...」


...そんな...マゼンタの部下の返り血が、草むらに隠れている私を見つけ出した...そんな、そんな事が...嫌だ、嫌だ、ここで終わりなんて...嫌だ...嫌だ嫌だ嫌だ、まだ殆ど殺してない、何も達成出来ていない、まだ死にたくない、お姉ちゃんを忘れたくない、傷、傷を塞がないと、嫌だ、嫌だ、いやだやだやだやだやだやだ...。


























「...あ゛ッ」


背中の傷が、驚く程の速度で塞がっていく、それだけじゃぁない、頭が、何故か、とんでもなく...スッキリして...。


...いや、違う、今のは...“現実”じゃないッ!!



私とマゼンタが向かい合う、建物は炎で燃え上がっているが、今はまだ崩れていない、マゼンタは右手に何も持っていない...。マゼンタの部下も現れていない...これは、一体何が...。


「適応だよ、シファちゃん」


背後から声が聞こえる、少女の見た目をした悪魔、グレモリーが私に語り掛ける。


「...グレモリー...どういうこと...?」


「私がシファちゃんに授けた力は、身体能力を強する...なんてしょぼい力じゃないの」

「...“未来と過去”を見通す...それが私の力」

「...君の覚悟が、私の力と適合した...」


「...私の...覚悟...?」


胸がぎゅっと締め付けられるような感覚、花飾りを手渡すお姉ちゃんの顔、お姉ちゃんを想う気持ち...覚悟、その気持ちが、私に宿る力を覚醒させる。


「...ね、何話してるのかな...」


マゼンタが私とグレモリーを睨み付ける。


「...何でもない」

「...ここからが本番だから」














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