第2話 出会い


「……あ……れ……?……」


 ふわふわとしていた意識がはっきりすると、いつもの見慣れた天井がありました。部屋はすっかりと明るく、今の時間がお昼頃だというのが分かります。


 いつの間に寝てしまったのでしょうか?確かふわ丸さんと遊んでいた筈なのですが……。不思議に思いながらも、ゆっくりと視線を動かします。


「桃華っ!!」

「大丈夫ですか!?」

「姉様っ!」


 心配そうな両親と弟が私の顔を覗き込んで来ました。

 この様な事は風邪を引いて寝込んだ以来です。如何したのでしょう。


「お父様、お母様、陸兎。おはようございます。……お揃いで如何かなさいました?」


 私は身体を起こし、家族に事情を訊ねます。


「桃華っ! 何処も痛くないかい? 苦しいとか? 何でも言っておくれ?」

「そうですよ? 少しでも違和感があったら言って頂戴な。桃華」


 眉をハの字にする父様。母様が私の額に触れ、熱を計ります。


「……? いえ? 何処も悪くありません。普段通りでございます」

「そうかい? それなら良いのだが……」

「そうね……桃華が言うのなら大丈夫でしょう」


 体調に問題がない事を告げると、ほっと胸を撫で下ろす両親。本当に何があったのでしょう?


「……っ! アイツを呼んだのがいけないんだ!」

「陸兎?」


 俯いていた弟が急に、大きな声を上げました。


 陸兎は文武に秀でた穏やかで優しい子です。その彼が声を荒げるなど大変珍しい事で、私は首を傾げました。


「陸兎、止めなさい」

「……っ、ですが!」


 父様が静かに陸兎を諌めました。


「そうですよ。あのお方には、此方がお願いをして御足労を願ったのですから。その様な物言いはお止めなさい」

「……はぃ……失礼致しました……」


 母様も続き、弟はそっぽを向いてしまいました。


「ふふふ……」


 弟のその仕草が可愛く、自然と口が緩んでしまいました。


「姉様……」


 笑ってしまった私に対して、陸兎が頬を膨らませます。何時もしっかり者な彼が、子どもらしい振る舞いをするのを見る事が出来るのは嬉しい事です。


「ごめんなさい? でも陸兎が可愛らしいので、つい……」

「……僕はもう十二歳です。子どもではありません」

「ですが……陸兎は可愛い弟ですよ?」


 手を伸ばし、弟の柔らかい栗色の髪を撫でます。子どもではないと主張していますが、私の行為を嫌がる様子はありません。素直で大変可愛らしい弟です。


「はぁぁ……姉様は……」

「……? 陸兎?」


 思ったことを告げると何故か、溜息を吐き陸兎は立ち上がってしまいました。飽きられてしまったのでしょうか。


「喉が渇いたでしょうから、茶を淹れて参ります」

「……ありがとう。陸兎」


 如何やら私の心配は杞憂だったようです。襖を開け部屋を出ていく、弟の背中にお礼の言葉をかけました。


「……それで桃華。その……体調が大丈夫ならば、会って欲しい方が居るのだが……」

「……? 私の体調ならば大丈夫です。お会い致しますわ」


 歯切れが悪そうに父様が、来客があることを告げました。何時も優しさと威厳を持つ父様ですが、その何処か困ったような様子は珍しいことです。お客様がいらっしゃるのとは思いませんでした。


「そうか、それは良かった。しかし、無理はしていけないよ?」

「そうですよ、昨晩に倒れたばかりなのですから」

「はい。お父様、お母様」


 私の返事を聞くと、両親は安堵の笑みを浮かべました。それから私に無理をしないようにと念を押します。その優しさに、頬が緩みました。

 そういえば私は何故、昨晩倒れたのでしょう。思い出そうと努力をしてみますが、何か決定的なものが欠けているかのように思い出すことが出来ません。


「失礼、葉山伯爵。桃華嬢がお目覚めたようなら、話がしたいのですが?」


 不意に障子の向こう側から、何処かで聞き覚えのある男性の声が響きました。


「剣崎公爵……大変お待たせ致しました。どうぞお入りください」


 父様が返事を発すると、障子が静かに開きました。


「失礼します、桃華嬢。休んでいるところすみません」

「……え……」


 部屋に入って来た男性を見ると、私の息が止まりました。そして私の脳内には、一つの映像が流れました。畳に広がる金髪に、私を映す青い瞳を有する生首。


 部屋に入ってきた男性は、その生首と同じ容姿をしていたのです。


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妖精に愛され体質令嬢とデュラハン公爵の妖精事件。 星雷はやと @hosirai-hayato

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