友情の先
季節は巡り巡った‥
マキ先輩が地元のカフェで働いていたから時々、顔を出していた。
「おお、いたな」
後ろから声がして振り向くと、野村が立っていた。そして、その隣に‥目を伏せたクニがいた‥思ったより驚きはしなかった。こっちを見ないクニに、黙って近寄り顔を覗きこんだ。
「元気だったの?」
クニはチラッとあたしを見ると頷いた。
「バカだね」
耳元でそう告げると、クニはジッとあたしの目を見た。
「行こうぜ」
あたしの腕を、すがるように掴み歩き出した。あの日の電話の事も、狂気に走った理由も、何も聞かなかった‥聞かなくても、手に取るように分かっていたから。今あるのは、あの日の後悔だけだ。
ちゃんとしたものを食べ、くだらない話をしながら飲み明かした。クニは楽し気に相槌を打ちながら、あたしの話を聞いていた。時折、見せる伏し目がちな目が、背負ってしまった十字架の重さを感じさせた‥気がつくと、ウトウトと寝てしまっていた。目を開けるとクニが、何とも言えない眼差しで‥ジッと見つめていた‥目が合うと、静かにそっと抱きしめられた‥
あの日、救えなかった後悔と、また会えた嬉しさで、自然とクニを受け入れていた。何の違和感もなく‥男と女のソレなのだけど、ソレとは違ったものだった。
それからクニは、何度も求め大切にした。あたしも優しく抱いた。何から何まで世話を焼きたがった。このままいたら、きっと誰よりも大切にしてくれるだろう。自分の何かを失ってでも、あたしに捧げてくれるだろう。
これは、恋なのだろうか‥
ときめきとは違う、絶対的信頼と安心感。
クニは、とことんあたしを甘やかした。
けれど、大事にされればされる程、心に引っかかる何かが膨らんだ。
そんな不思議な日々が続いたある日‥クニの部屋に飾られたポスターが目に止まり、全てを悟った。
あ~これだ‥
目にしてしまったら、もう無視は出来ない。クニの思う事は、手に取る様に解ってしまうのだから‥
あたしの中の、どす黒いものが蠢いた‥
分かっていた‥一生、忘れる事はないだろう。
愛し合うならば、心全てを捧げ合えなければ意味がない。もう戻る事のない時間‥あたし達は余りにも知りすぎて遠回りしてしまった‥
やはり一緒にいるべきではない。何故ならきっと二人でいたら、見えない何かに囚われ続けるだろう。そして、いつか深く傷つけてしまう‥
サヨナラ…愛しい人
この部屋に、ポツンと飾られたポスターの中には‥満開のさくらの花が咲き誇っていた‥
いつまでも、色褪せる事なく‥美しく。
ガキなりに(心裂く華) @love-and-peace
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