壊し愛（統合版）

最終章

🎁

──あれから、3日程はベッドの上からまともに動けなかった。

単に私の体力がない、という原因も確かに否定出来ない。

否定は出来ない、けれど。

緩やかに爆発した彼の熱量は、底を知らなかった。

ぼーっとした意識の中、まだ目の冷めていない彼の横顔をじっと見つめる。

まともに寝顔を見ることなんてめったにない。

これからはよく起こるかもしれないけれど。

ゆるりと、彼の顔を映しながら腹部を撫でる。

その癖は、以前と違う意味をもつようになった。

彼がそこに沢山のキスを降らせるから。

彼がそこを優しく撫でるから。

そして中に入れている時に、しきりにそこを押し込む、から……。

恥ずかしくなって布団を頭までかぶせる。

『ここに入ってる』と愛おしむように撫でては、物理的にそのポイントに当たるように押してくるのだ。

痛くはない、痛くはないけれど、どうしようもないくらいに乱れる。

なんで変なことばっかり知っているのか、一度聞いてみた。

そしたら、私が痛くならないように体の仕組みを色々と調べているうちに、別の知識にまで手が伸びてしまっていたんだとか。

それでも表面部分だけだという。

私の知らない世界はまだまだ広いのかもしれない。

ただ、なんかちょっと、純粋に私の為を思って、考えてくれているのかな、と思うと、顔が綻んでくる。

そういう所も、愛おしい。

そんな感じで私はここのところ朝から晩まで盛大に乱され、求められ、気付いたらベッドの上。

優藍はお腹がすごく空くらしくて、食事はちゃんと二人でとっていたし、寝る時は彼の腕の中で、お話しながらゆっくりと寝る。

ただ、行為している途中で意識を失くすことは許されなくなったようで、強制的に覚醒させられることが何度かあった。

目覚めた先にいる時の優藍は、酷く楽しそうに、意地悪く笑んでいた。

悪魔なのか天使なのかわからない。

ちなみに朝日に照らされている寝顔は天使でしかない。

もぞっと動いた気配に、彼を見上げる。

起きた？

「優藍？」

「……ん」

薄目で見下ろして来る彼の瞳に、心の中でどっかーんと大爆発が起こる。

彼を好きだと自覚してから、彼の行動一つ一つがどストライクなのである。

開ききっていない瞼に、長いまつ毛、眠そうな掠れた声。

『ん』って、鼻から抜けるような……。

好きすぎてキレそう。

「……あかね？」

「起きた？まだ寝る？」

「いや……今日、佐渡……すやぁ」

「まって、ねぇちょっと待って、一旦起きて、それたぶん重要なやつでしょ！？」

すやぁ……じゃないの。

可愛いけど。

可愛すぎるけど。

その後ちゃんと優藍を叩き起して、詳しい話を聞いた。

「佐渡さん、来るの？」

「んー……さすがに連絡取らなすぎて」

「は？」

「アイツもこうなることわかってて三日くらいは放置してくれてたみたいだけど、さすがに話くらい聞けって」

「……仕事のこと！？」

そういえば、その間ずっと離れなかったということは、仕事も放ったらかしだったということ、ではないだろうか。

急にそんな仕事放ったらかして大丈夫なの！？

「優藍……さすがにそれはダメじゃない？」

「いや、俺の代わりはこの前会った綾愛と……あと二人くらいで分担して貰ってるから大丈夫。佐渡がお節介なだけ」

「上司がそれでいいの……？」

「自分一人が居ないだけで回らない仕事なんてね、クソなんだよ、あかね。そういうのは環境整えていくのが上司の役目」

にっこりとしたいい笑顔で、口から出てくる言葉は『クソ』というギャップ。

優藍はそういう、ダークな環境とか人に、恨みでもあるかのように口が悪くなるよね。

優藍の仕事も結構ダークだと思うんだけどね。

「今回はあかねを愛でるためっていう超超超重要事項で事前に綾愛に伝えてはいたんだけどね」

「いや、くっそしょうもない理由なんだけど」

「もし俺が風邪とか入院するとか、死ぬとか。人員一人が居なくなって回らない組織なんて、そもそもリスク管理が出来てないってことだよ」

死……って、考えたくもない想定だけど。

そういえば、前に優藍が風邪をひいたときも、すぐに佐渡さんが来て、その後仕事も休んでいた気がする。

その時に綾愛さんの話もチラッと出ていた。

そういえばあの子学生さんだけど、そんな時間あるの？大丈夫？

「例えば風邪をひいた時、その体調のまま仕事するのと完治してから仕事するのでは効率が大きく変わってくる。徹夜や睡眠不足もそう、頭の働きが悪くなれば動きも鈍くなって使い物にならない」

「……そうだけど、今回の優藍はそうじゃないでしょ？元気じゃない」

「そこは人の価値観の違い」

少し言い方に悩んでいるのか、優藍は口元に人差し指を置いて視線をさ迷わせる。

「本来、休みの理由を組織側に話す必要性ってないんだよ。仕事が回っているなら休みの理由をとやかく言う権利もない。罪悪感があるなら、それは擦り込まれているってこと」

「どういうこと？」

「じゃあ、例えば有給を使って家族旅行に行くって人が居る時、あかねはそれを咎める？」

「……」

「大事なライブに行きたいって人がいたら？大事な人が大きな怪我をしたと聞いたら？内容を聞かないと休ませて貰えない？」

人によって、価値観が、違う。

他人の旅行なんて、ライブなんて、怪我なんて、同じ組織ってだけじゃ自分とは関係ないこと。

けれど休みを取りたい当人にとっては、どれだけその人の中で大事なことかなんて、わからない。

「その人にとってのその一日がどれだけ大事なものかなんて、他人にはわからないんだよ。それが人の価値観の違い」

けれど、そんな個人的な大事な事でも、責める事柄に仕立てる人たちがいる。

だから私たちは、錯覚する。

人が働いているのに、休んではいけないんじゃないかと。

「楽しみにしている理由があって休むことで、元気をチャージできる。それで作業効率が上がるなら積極的に休むべきだ。それに、今回は休むだろうことも予定に入れてたからね」

「これは予定通りの展開だったと？」

「あかねを愛でる余裕がなくなる方が、俺の作業効率は落ちるからね」

私の手のひらを持ち上げると、手の甲にキスをする。

それじゃあ……仕事で迷惑かけている、という訳では無いんだろうか。

少しほっとした。

「それより、佐渡さんて……」

何時に……？と、そう言いかけた時、この家の中にチャイムの音が響き渡る。

今は朝の8時、まさかこんな早い時間帯に来るとは思わず、体が強ばる。

そういえば、初めて会った頃もこのくらいの時間に鍵を開けて乗り込んできていた気がする。

「あかねは着替えてて。佐渡、家の中に──あ」

……あ？

変なところで言葉を止めた優藍に、首を傾げる。

私のことをじっと見つめて、どうしたの？

「……肌の隠れるもの、着てきてね」

そう言って、すぐに部屋を出ていった優藍。

肌の隠れる、もの……？

そうして視線を下ろして自分の体を眺めれば、見えている範囲だけでも赤い跡がいくつも見えていた。

12ヶ所どころじゃないと思う。

首元にもあるはずだ。

「……ばか優藍！！」

私は冬服を着てから、それでも隠れきれないそのマークを、化粧品ポーチから取り出したコンシーラーで隠してから、ダイニングへと移動した。

向かい合って座っている二人が私が来たことに気付くと、相変わらずきゅるんと可愛い佐渡さんの瞳がじっと私を見詰めた。

「ごめん、佐渡さん。優藍の仕事止めちゃってて……」

「いや、それはいいんだけど……。よかった、生きてて」

「はい？」

急に物騒な心配をされて、私はその場で凍り付く。

「本当にあの日以来連絡もプツンと切れてたし、家から出もしてなかったし、誰も出入りしてないし、生きてんのか心配になって様子見に来ただけだから」

「なんで家から出てなかったこと知ってんの……？」

「ウチには綾愛って子がいるからね」

彼女が絡んでいた、となると、監視のようなことをされていたということだろうか。

もはやそんな異常なことにすら慣れて納得してしまっている自分は、だいぶこの人たちに染められているなと思う。

「三日分くらい余裕で食料あるし、あかねは全然食べないから減りも少ない」

優雅にコーヒーを飲んでいる優藍、けれど佐渡さんの前には何も出されていなくて。

いや、コーヒー飲んでるならついでにもう一杯出しなさいよ、と思う。

「佐渡さんなに飲める？持ってくるけど」

「いやこれ、ゆーから『早く帰れ』って暗に言われてるだけだから、俺はいいかな。長くいると刺されそう」

「刺……」

本気なのか、冗談なのか、この二人の関係性や仕事を知っていてもどちらか判断出来なかった。

なんか、本気でやり合いそう、この人たち……。

そういうの抵抗なさそう……。

「まぁ報告だけしてお暇するよ」

そう言ってにやりと笑う佐渡さんに、私はそれが何の報告なのかということを察する。

私が来るまで待っていたということは、そういうことだ。

真剣な瞳を向けた優藍がこちらに視線を向け、私を手招く。

それが何か重要な話でもあるのかと思って優藍の前まで行くと、するりと回された腕が腰に絡みつき、その膝の上に乗せられる。

真剣な眼差しで優藍に顔を向けると、真剣な顔を向けたままの優藍が口を開く。

「佐渡と話してるなんてずるいよ、あかね」

「馬鹿もたいがいにしてくれる？」

優藍はただ、私を膝の上に乗せたかっただけのようで、私は大きな溜め息をついた。

無駄な緊張感を返せ。

佐渡さんは、しばらく腹を抱えて笑っていた。

「無事に処分出来たよ、ご協力ありがとう」

ようやく落ち着いた佐渡さんが、机に突っ伏していた顔を上げて私に話した。

「その処分はどうした？」

「とりあえずあのまま海外にぽーいって」

「……」

「運が良ければ生きてるかもね」

どうやってぽーいってしたのかは……いや、聞きたくないけれど。

そんな簡単にぽい出来るのかもわからないけれど。

とりあえず、この人たちだけは敵に回したくないなと強く感じた。

「まぁ相当本人たちが運よくて頑張んないと、こっちに戻ってくることはないだろうし、GPSも埋め込んであるから戻ってきそうになったらまた処分するし」

「サラッと怖いこと言ってんだけど」

「俺たち決して善人ではないからねー」

そう佐渡さんは言う。

けれど、まぁ、もう会わなくて済みそうだという辺りは、安心できる情報だった。

ホッと一息つく。

完全に、私と奴らの関係は終わった、という解釈をしても大丈夫そうだ。

「で、次は引っ越しに付いてなんだけど」

「引っ越し……？」

待って、何の話だ、引っ越すの？

誰が？

まさか私じゃないだろうな。

「また聞いてない？」

「……たぶん、しらない」

優藍をじっと見つめると、ふわりといい笑顔を返され、また頬擦りされる。

いや、そういう意味で見つめたわけじゃないんだけど。

「あかねの家の荷物、とりあえず日用品はこっちに持ってきてもらおうかと思ったんだけど、それ以外の可愛いタンスだったり可愛い冷蔵庫だったり可愛いベッドだったり――」

「可愛い冷蔵庫って何、冷蔵庫に可愛いも何もないんだけど」

「かわいいかわいいベビーベッドだったりね」

ベビーベッド。

それに、ギュッと胸が締め付けられて、息が詰まる。

捨てたくはない、けれど、全部この家に持ってくるっていうのも、ちょっと。

「だから、ちょっと一軒家を買おうと思ってるんだけど」

「話が飛び過ぎて意味が解らない」

一軒家って、どれだけ金を飛ばせば気が済むのか。

また優藍は私の常識を飛び越えた案を出してくる。

「庭付きがいいなぁって。ペット飼うのもいいよね」

「話聞いてる？」

でもなんかうっすらと、前にそんなようなこと考えてるみたいな話もされていたような気がする。

そこまでするとは思わなくて冗談だろうと流していたけれど。

「だから今度、下見に行こうね」

「決定事項！？」

そんなサクサク決められてしまうだなんて思わなくて、心が追い付いていない。

そもそもこの家だって一人暮らしだったにしては広すぎるくらいだし、二重扉の部屋はどうする気なのか。

このマンションに残したまま行くのか、それとも解体出来るの……？

「今検討している家の近くにはね、どうぶつ触れ合い広場があるんだけど」

「何それ早く言ってよ。いくら？」

「1000円で一時間触れ合い放題」

「最高」

こうして私の心は今日も簡単に、優藍の思惑通りに操られてしまうんだ。

「……って、だから私お金ないんだって」

「ウチで働けばよくね？」

「は？」

そう、口を挟んでくる佐渡さんに、私は眉を顰める。

「ウチって……情報屋さんでってこと？」

「そうだね、俺のサポートしてくれるなら鍵付きの部屋に引きこもって寂しく一人で仕事しなくて済むから、そうしようあかね」

「私情めちゃくちゃ挟んで来てるんだけど、そんなんでいいの？」

「そうしたら綾愛とももっと仲良くなれると思うけど」

「何それ、やるしかないじゃない」

あれ、私また流された……？

きっと私が優藍に勝てる日なんて、来ないだろう。

こうやってゆらりゆるりと私を掌で優しく転がして、どちらも幸せな選択を辿っていくような未来が見える。

そんな未来も、悪くはないかも。

「じゃあ、そういうことで俺はもう帰るけど。ゆー、下に車置いとくから」

「ありがとう。さっさと帰って」

「はいはい」

本当、容赦ないな、優藍は。

わざわざ報告と生存確認しに来てくれたというのに。

「佐渡さん、お世話になりました。まだお世話になるかもしれないけど」

「いいよ。だいじーな『友達』の、大切な人のことだから、ね」

そう言って意味深に笑みを浮かべた佐渡さんに、私はすぐ優藍に顔を向けて両手で口を塞ぐ。

今の、聞いた？

今、今、佐渡さん、友達って言った。

友達って！優藍のこと！！

「なに、その潤んだ瞳は。誘ってるの？」

「佐渡さんの片想いが……実ったの！？」

「気持ち悪いこと言わないで。別に友達でもいいんじゃない？って言っただけだから」

「優藍っ！！」

私はぎゅーっと強く優藍を抱きしめる。

なんて嬉しいことなんだ、良かったね佐渡さん。

よかったよ優藍、友達と思ってもいい人だとようやく思えるようになったんだね。

自分のことのように嬉しくてはしゃいだ私は、その後数分かけておいしく頂かれた。

それで、サラッと流してしまっていた『車』のことだけれど。

どうやら私たちはこの後どこかに出かけるらしい。

ちゃんと着替えていた私はそのままショルダーバッグに『この子』をハンカチに包み込んで入れて、彼と手を繋いで外に出た。

やはり外は寒いけれど、前回と違ってちゃんとした冬服もコートもブーツも持っていた私は、温かな服装で優藍と並んで歩くことが出来た。

彼の手も私の手もお互いに冷たくて、けれど合わせている手のひらは少し、緊張から汗ばんでいた。

道中、車を一時的に止めてもらった優藍は、百合の花を一輪買った。

誰かにあげるの？と聞いたら、「内緒」だそうで。

その『内緒』が可愛くて、その後私はしばらく車内で悶えていた。

見覚えのある道に違和感が出て来た頃、その下を通ってすぐの所で車は止まった。

その景色に、見覚えしかないそこに、心がざわりと騒ぎ立つ。

「あかね、おいで」

扉の外に出た優藍が、私に手を差し伸べて来る。

この場所、一本だけの百合の花、そして私と一緒に来たこと。

その歩道橋を目にして、気付かないはずがなかった。

『この子』の、ことだ。

ごくり、息を呑んでから、彼の指先に手を伸ばす。

エスコートされるように降りた先で、私の『落ちた』その場所が目に入って来た。

「一本の百合の花言葉はね、『死者へ捧げる花』」

「……やっぱり、『この子』のこと」

「そう、その話をしたくて来たんだよ」

ゆっくりと歩道橋の下へとエスコートされ、そこに膝をついた優藍が、百合の花を手向け、手を合わせる。

お墓もない『この子』に、私はこれまで空に向かって言葉をかけることしか出来なかった。

優藍が、お花を添えてくれるとは、思ってもいなくて。

私も彼の隣にしゃがんで、一緒に手を合わせた。

ゆっくりと、時間が過ぎていく。

この子を亡くして、もう季節を一つ跨いでいた。

あの熱い日差しは弱まり、枯れ葉の踊る季節。

景色も、優藍との関係性も、最初の頃には想像出来なかったくらい、大きく変わった。

私の心の中も、優藍の影響を受けて、すっかり変わった。

「俺たちの出会ったところにも、行こう」

「……うん」

この場所は、『この子』の亡くなったというだけの場所ではない。

優藍と出会った場所でもある。

優藍が初めて私を、助けてくれた場所。

優藍に命を、心を、救い上げられた場所。

階段の上まで登ると、手すりに手をかける私の両側を囲うように優藍も手をかけて来て、私は簡単にその胸の中に捕らわれた。

風がそよそよと、二人の横を通り過ぎて、また枯れ葉を遊ばせて移動していく。

「さて、あかね」

「……なに」

「『あの子』『この子』っていうのも、もうやめない？」

……なに？

真上を向いて優藍の顔を見上げると、酷く優しく微笑む彼の顔が、こちらを見下ろしていた。

「名前」

「……」

「こんなに想ってるんだから、名前付けてあげようよ」

「……」

「二人で」

理解が追い付く前に、ゆっくりと目を見開く。

その言葉を飲み込むのに、少し時間がかかった。

「『この子』の、名前……？」

「呼ぶ名前があった方が、呼びやすいでしょう？」

戸籍も、残っていない　『この子』。

名前も、性別もわからないままこの世を去った、『この子』。

そもそも、名前を付けようなんて思わないまま、考えもしないまま、ここまで来ていた。

けれど確かに、優藍も呼ぶとなると、名前があった方がいいのかもしれない。

「名前、考えてるの？」

「あかね繋がりで言うなら、夕日とか？朝陽とか？」

「そういう方向性？」

そもそも性別が解らなかったんだから、付けるなら中性的な名前がいい。

「優藍が藍色で、私のあかねが茜色」

「色で行く？」

夕日、朝日、藍色、茜色。

──空の色。

「……あ」

ぐっと顔を上げると、雲一つない青空が、遠くの方まで広がっている。

「あっちが藍色の時、こっちは茜色」

私と優藍の共通点。

「そら」

広く、遠く遠くまで色を伸ばしている、優しい空色。

私たちが出会ったのもまた、この空の下。

そらは、その大事な一瞬一瞬、私たちを繋げてくれていた。

「そら、か。いい名前だね」

「そら、そらちゃん」

私はショルダーバッグの中から骨壺を取り出すと、彼の見える位置に両手の上に優しく置いた。

「そらちゃん、で、いい？優藍」

「もちろん。これで俺も呼べるようになったね、そら」

その骨壺を緩やかに撫でてくれる手に、また嬉しくなる。

そらちゃん、家族が出来たよ。

きっとこれからもずっとずっと見守っていてくれる、家族だよ。

どうかそらちゃんも、その広い広い空の上から、私たちを見守っていてね。

骨壺をきゅっと握った手の上から、優藍の指先が絡められるように、そっと重なる。

私の大切な大切な子を、そらを、一緒に包み込んでくれる、優しくて暖かい、私の優藍。

愛しくてかわいくて仕方のない『そら』と

私と『そら』を包み込んでくれる、大きくて優しくて愛しい優藍。

あかね色と藍色を繋ぐ、そらの大きいキャンバス。

きっとどんな色を眺めても、ずっと私の心は、あなたたちのことで満たされ続ける。

ゆるりと腹部を撫でると、優藍の大きな手のひらも重なった。

もう、ひとりなんかじゃない。

これが私の

今めいいっぱいの『幸せ』

優藍　　そら

どうしようもないくらい

あいしてるよ。

end.