カップラーメン屋

結騎 了

#365日ショートショート 264

 学生街のど真ん中、カップラーメン屋は今日も営業していた。

「らっしゃーい」

 自動ドア付近のスピーカーから、威勢のいい声が鳴った。また客がひとり入ったのだ。

 店内は狭く細長く、カウンターのみが設けられている。それも、カウンターの向こうには何もない。壁に向かって設置されたカウンターには、すでに数人の男性が座り、無言でラーメンを食べていた。

 もく、もく、と。どこからか煙が漂う。あるいは煮込んだ豚骨の香り。それは本物だろうか。それとも演出のための仕込みだろうか。キッチンも厨房もなく、とても店内に寸胴鍋があるとは思えない。しかし、条件反射のように客の腹が鳴ったのは確かだ。

 客は券売機からシーフードラーメンを選んだ。三百円を放り込み、更に「追いかやく」のワカメを選ぶ。二枚の食券を、券売機の反対側に差し出す。レジの奥には店員がいた。まるで宝くじ売り場のようにその顔は見え辛く、レジの手前には大きなゴム製の暖簾が下がっている。手元だけのやり取りで、会話も交わされず、カップラーメンと小さな袋が手渡された。袋の中には乾燥したワカメが入っている。

 更にその横には、数台のポットが並んでいる。沸かされたミネラルウォーターだ。客は慣れた手つきでかやくを足し、カップラーメンにお湯を注ぎ、蓋をする。溢さないように両手で持ちながら、空いているカウンター席に腰を下ろした。

 見上げた壁には、サウナ時計。ぐるりと進む針と睨めっこしながら、適切な時間までゆっくりと過ごす。さぁ、三分だ。客は勢いよく蓋を剥ぎ、割り箸を割った。

 ずる。ずる。ずる。

 ずる。ずる。ずる。

 あっという間にたいらげた後に、余ったスープは席の後ろにある指定の筒へ流し込む。箸と丼をゴミ箱に放り投げてから、客は店を後にした。

 カップラーメン屋は、今日も繁盛している。

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カップラーメン屋 結騎 了 @slinky_dog_s11

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